part Kon 4/22 pm 6:17




 先輩達と別れた後 すぐに来た通勤快速に あきちゃんと乗り込む。

 いつも通り この時間帯は そこそこ混み合ってるけど ラッシュってほどでも無い。

 朝とは違って 普通に乗り込むことができた。

 2人で 窓際に立つ。

 とりあえず さっきの件を謝る。


 

「あの 年下だって勘違いしてて ゴメンね。あきちゃん 敬語で話してくるから てっきり年下だって思っちゃって…。ゴメンね」


「あー 全然 気にしてないです。言って無かったアタシも悪いですし」


 

 あきちゃんは にっこり笑って答えてくれるけど 敬語のままだ。

 やっぱ 警戒されてんのかな…。


 

「あ あのさ…。同い年だし あの タメ口で話してくれて いいんだよ?」


「え? あー アタシ この話し方のほうが 話しやすいんです。学校の友達相手でも こんな話し方ですし…。 あの こんのさんのこと〈ヤンキー〉と思って 怖がってるとかじゃ無いんで 大丈夫ですよ?」


 

 朝のあたしの大ボケを 思い出したのか 少し笑みを浮かべて あきちゃんが言った。


 

「そう? それなら いいんだけど…」


 

 ………。

 ……。


 

 なんとも 気まずい感じ…。


 さっきの先輩達の〈ナンパ〉発言が スゴく あたしの心に引っかかっている。

 もちろん 先輩達が冗談で言ってるのは わかってる。

 さらに言えば 女の子と話してるときに『ナンパしてる』とか『口説いてる』とか いじられるのも 慣れっこだった。

 友だちに言われることもあるし…。

 そう いつもなら『キミ カワイイね。こんど海行こうよ』とかチャラ男のまねして ケラケラ笑うだけのハナシなんだ。

 

 ……そう いつもなら。


 でも あきちゃん相手だと スゴくドギマギしちゃてる自分がいた。

 確かに あきちゃん メッチャ カワイイけど 恋してるとか そんなんじゃ ぜんぜん 無い。

 別に デートしたいとか 手を繋ぎたいとか 思わない。

 そもそも あたしは レズじゃないし。

 いや 今朝 手を繋いでもらったのは スゴく嬉しかったけど…。

 …そう。

 繋ぎたいっていうより 繋いでもらいたいって感じだ。

 

 好きっていうより 嫌われたくないっていう方が強い。


 

 こういう感じは 初めてだった。

 あたしにとって 友だちっていうのは 自然にできるものだった。

 バレーしたり 教室でしゃべったりしてるうちに 気がついたら友だちになってる。

 それが当たり前。

 もちろん あたしのこと嫌ってる子もいだけど そういう子と無理に仲良くしようとも思わなかった。


 

 でも あきちゃんには 嫌われたくなかった。

 ちょっとでも いい子だって思って欲しかった。

 そういう意味では 気になる男の子の前にいる時に 似ているのかもしれなかった。

 

 ちょっとでも いい子って思われたい…。

 ちょっとでも カワイイって思って欲しい…。

 バカな子って思われたら どうしよう…?


 ううっ ダメだ。

 余計に緊張してきた…。



 

「そう言えば こんのさん 朝 なんか 音楽聴いてたみたいですけど どんなの聴いてるんですか?」


 

 何をしゃべったらいいのか 困っていると あきちゃんが自分から話題をふってくれる。

 ……ううっ。

 一から十まで あきちゃんに助けてもらってばっかりだ…。

 

 音楽の話。

 あきちゃん讃美歌とか歌ってるお嬢様みたいだし J-POPとか知ってるのかな?

 あたし讃美歌とかクラシックとか全然わかんないし J-POPの話とかしたら バカな子って思われないかな…?

 でも 見栄張って知ったかぶりしても ボロが出るのは目に見えている。

 正直に話そう。


 

「Tokyo Girl's Rock Orchestraって知ってるかな…? 前はHAL&TELLとか聴いてたんだけど。最近はティーグロが けっこう好きかな」


 

 あきちゃんの顔が パッと輝く。


 

「T-GRO アタシも大好きです!」


 

 ちょっとびっくりするくらいの声だった。

 周りの通勤客の視線が集まるのがわかる。


 

「あ あの こんのさんもT-GRO 好きで良かったです…」


 

 自分でも大きすぎたと思ったのか 後半は 小さい身体をさらに縮めるようにして 小声でゴニョゴニョ言っている。

 上品で落ち着いた賢そうな子なんだけど なんか 時たま 素が見えるってゆーか。

 

 何だろ?

 上品なお嬢様も 演技とかブリッ子って感じじゃなくて それはそれで自然な感じで素なんだけど もう1つ素があるってゆーか。

 昨日も こんなに小さくて大人しいのに あたしなんかより ずっと勇気あったし。

 

 今まで あたしの周りには いなかったタイプの女の子。

 

 仲良くなりたいけど 距離感が 測り難い…。

 それでも やっぱ いっぱい話すのが 仲良くなる第一歩。

 とりあえず ティーグロの話題で 話せるだけ話してみよう。

 まずは そこから……。

 ………。

 ……。

 …。

 




                          to be continued in “part Aki 4/22 pm 6:19”




 

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