間奏 明日から夏休み
part Aki 7/22 pm 3:32
「ありがとうございました」
ママと2人で頭を下げて 教室を出る。
1学期終わりの三者面談。ボクの今学期の成績は98位。一応 ギリギリ約束の範囲内だけど 学期末の成績だから 得意の音楽や美術の点数も入っての かろうじての100番以内。5教科でいうと 期末試験は かなりヤバかった。ママがそのことを持ち出すんじゃないかと 内心ビクビクしながら 駅までの緩い下り坂を歩く。
「ねぇ あきちゃん。明後日のコンサートのことだけど…」
げっ… ヤバい。マジにきた。
……いや。ポーカーフェイスだ。
「 なに ママ?」
100番以内ってゆー約束だったんだから さも当然って顔で 押し切るんだ。
「一緒に行くのって 聖心のお友だちじゃないのね?」
「えっ? あっ うん… 藤工のこんのさん」
まさか 藤工の不良と遊んじゃダメとか言い出すじゃないだろうな。
瑞樹兄さんも藤工だったんだし ヤンキー校じゃないのは ママも知ってるハズだけど…。
「2人で?」
「……そう だけど… 2人じゃ なんかダメ?」
「別に ダメじゃないけど。なんか 亜樹ちゃんが2人でお出かけって珍しいなぁって」
……それは 確かにそうかも。
ボクが 友達と遊びに行く時は グループが基本。2人でってゆーのは 意識的に避けてきた。
「明日 お買い物行くのも 紺野さんなんでしょ?」
「うん。明日は エプロンドレスの生地買うから 一緒に来て欲しいって」
「2日連続 同じお友だちと2人でお出かけ? 仲いいのねぇ…。デート?」
グゲッ!? な なんで そんなこと言い出すんだ!? 母親のカンってヤツか?
ポーカーフェイスって思うけど 動揺を隠し切れない。
「ちっ ちがうよ!こんのさん 女の子だし!」
「そう? 声 上擦ってるし怪しいわね…。ママ デートでも 怒ったりしないわよ?」
そうなのか?
男とデートとか 絶対 ダメってゆーと思ってたんだけど。いや まぁ ボクは 男とデートとか 絶対 イヤだけどさ。
「なあに 意外? でも 亜樹ちゃんも もう高校2年生でしょ。好きな人がいたり 恋人がいても おかしくない年頃じゃないの。ママだって パパと付き合い始めたの高2の夏だったのよ?」
あ… そうか…。
ママ 高2の時 恋人がいたんだ…。
「ホントは デートなんでしょ? こないだから なんだかソワソワしてるみたいだし。お化粧も ちょっと気合い入ってるでしょ? ママ ちゃ~んと見てるんだから。ねぇ 正直に教えて?」
……期末 終わったら ライブでデートって ちょっと自分でも 浮かれてるとは 思ってたけど。ママに 気づかれてたのか。ボクのポーカーフェイスも まだまだってこと。
「あのね ママ…。ホントにそんなんじゃないんだよ。初めてのライブだし ちょっとソワソワしてたかも知れないけど。明日 一緒に行くのは ホントに こんのさん。だから 恋人とかじゃないんだって」
これは 完全にホントのこと。
デートって思って浮かれてるのは ボクだけで こんのさんは ボクの恋人じゃない。
「ふーん。そうなの? 恋人じゃあないのね? ……なら別にいいけど…」
そう。恋人じゃあない。ボクが
真夏の昼下がりの日差しが 並んで歩くボクたちの日傘の影を 歩道に灼きつける。
「昔さぁ… 10年くらい前かなぁ…
ママは まだ釈然としない様子で ブツブツ言ってる。
まぁ ボクが男と付き合うハズと思ってる以外 核心突いてるんだから ママの母親のカンもなかなかのものだ。変な勘繰りされないように これからは もっと巧くやらなきゃダメだってこと。
「…まぁ いいや。あのね… あきちゃん。真面目なお付き合いだったら ママ ちゃんと応援するから。もし 好きな人ができたら ママにも 絶対 相談してね?」
「うん。わかった」
「…あと 期末試験100番以内だったから 約束だしコンサートは 行っていいけど テストだいぶ悪かったんでしょ? 心配だし 夏期講習 申し込んでおいたから それもちゃんと行ってね?」
げっ… 人に一言の相談もなく勝手なことを。
ボクにだって 夏休みの予定が……いや あんま無いんだけどさ。とはいえ 夏期講習か……かなり面倒臭い。
「わかった?」
「あー はいはい。わかってるよ」
抵抗したところで 無意味だ。
ここは おとなしく言うことを聞いておこう。成績悪かったのは 事実。自分でも ちょっとヤバいと思ったし…。このまま ズルズル成績下がって お出かけ禁止とか 最悪だしね。
『真面目なお付き合いだったら応援する』か…。
真面目に〈男〉として〈女の子〉とお付き合いしたいって言っても ママは 本当に応援してくれるんだろうか…? 明日は こんのさんとお買い物デート。そして 明後日は いよいよT-GRO のライブデート。例によって そう思って盛り上がってるのは ボクだけなんだけど。ボクのこの恋は 友達は おろか 家族にも相談することができない。……そう思うと ちょっと泣けてくる……。
そうそう 相談って言えば この間 期末試験の準備期間に こんのさんと〈学校帰りのお茶デート〉したとき こんのさんから 結構重要な相談を持ちかけられたんだ。
その内容は
『監督にセッターに転向するように薦められたけど どうしたらいいか』
……はっきり言って ボクに答えられるような相談じゃ無い。なんてったってバレーに関しては 完全に門外漢だし。ってゆーか まともにスポーツしたことすら無いんだから。そのことは こんのさんも十分わかってるハズで 実際 こんのさん自身 相談持ち込んできたときから たぶん 答えは 出てた。その答えを ボクに大丈夫って 言って欲しかったんだと思う。
大事なことって やっぱり自分で決めないと 絶対ダメだ。
これは ボクが16年の人生で学んだ数少ない教訓だ。
中学を聖心館にするってゆーのは 自分では あんまり何も考えずママの言う通りにしてしまって 後からものすごく後悔した。まぁ 公立の桜ヶ丘に行ってたところで かなり苦しい状況だったとは 思うんだけど。でも 辛い展開になると ついママのせいにして恨んじゃったりしちゃうからな。……やっぱり そういうのは 良くない。
その点 男として生きていくってゆーのは 自分で考えて 自分で決めた。
もちろん 苦しいとき 辛い状況になることは あるけど 別に誰かのせいにしたり恨みに思ったりは しない。自分のことだから自分で対応するだけだし 。やれる範囲のことやって どんな結果になっても 自分なりに納得できる。
……いや 嘘だな。カッコつけ過ぎ。
中身が男として生きていくって決めたことで 誰かを恨んだりしないってゆーのは ホントだけど 自分で決めただけで 誰にも言ってないし バレてもいない。確かに 苦しくて辛いときは あるけど カミングアウトしたときのハレーションに比べれば 何ほどのこともないだろう……きっと。要するに まだ なんの結果も出ていない。もし ボクのこの秘密が人に知られたとき どんな結果になるのか 想像もできない。もしかしたら ママに泣かれ 友達は いなくなり 人にスゴく気持ち悪がられるかも……とか思うと やっぱり怖い。
こんのさんや学校の友達と 今 ホントに良い関係が作れてる。
だから 本当のボクのことを 知って欲しいって思う。その反面 今の人間関係を全てぶち壊すかも知れないこの秘密は 絶対 知られるワケにはいかないとも思う。
深い深いジレンマだ…。
……ボクの話は どーでもいいんだ。こんのさんの話だ。
こんのさんが しっかり自分の考えを持って相談してくれる人でよかったってハナシ。ちゃんと自分で考えた上で こんのさんが ボクを相談相手に選んでくれたってことが スゴく嬉しかった。なんか信頼されてるって思って ちょっと恋人気分を味わえたんだ。……いや。確かに なっちゃんも 色んな相談 持ち込んでくるけど 恋人気分になったりは しない。 …まぁ 恋人気分は 言い過ぎにしても 親しい友人くらいには 思ってもらえてる。それは確かだと思う。
デートだ なんだって 浮かれたところで ボクに この関係を壊す勇気なんて無いことも 自分でもよくわかってる。
……いいんだよ。自分で決めたんだから。
to be continued in “part Kon 7/22 pm 10:19”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます