part Aki 7/23 pm 4:12





「あきちゃーん。下着 乾いたから もう上がっても大丈夫だよ。あと ドライヤーとブラシ 置いとくから よかったら使ってね」


 

 こんのさんが 脱衣所から声をかけてくれる。


 

「はーい」


 

 と 返事をして すりガラス越しに 脱衣所の様子を伺う。


 ……どうやら こんのさんは出て行ってくれたみたいだ。


 脱衣所に移動して 急いで身体を拭き 下着を身につける。

 ブラジャーがほんのりと温かい。こんのさんが 丁寧にドライヤーを当てて乾かしてくれたのが よく分かる。脱衣籠に入っていたのは 体操服らしき水色のハーフパンツ。右腰に『紺野』って刺繍が入っている。かなり大きいけど 腰紐を限界まで引っ張って縛ると なんとか穿けた。腰回りがスカスカして 心許ないけど 突然 ずり落ちたりはしないだろう。運動するワケじゃないし…。

 もう1つは 黒のTシャツ。こっちも大きいけど 特に問題なく着れる。こんのさんに包まれてる気がして ちょっとドキドキする。


 まぁいい。

 とりあえず 服さえ着てしまえば こっちのもんだ。少し心が落ち着いてきた。Tシャツを濡らさないように 肩にタオルを羽織って ドライヤーで髪を乾かす。時間かかるし面倒だけど 髪長いと色々な髪型ができて 楽しいのは楽しい。ボク個人の好みとしては こんのさんみたいな黒髪ショートの子に惹かれる。だけど〈あき〉には やっぱロングヘアが似合うと思う。昔 あんなに嫌だった スカートにロングヘアってゆースタイルが 確かによく似合う。

 悔しいけど ママのコーディネートセンスは ホントに素敵なんだよね…。



 ノックの音がする。

 返事をすると こんのさんが脱衣所に入ってくる。洗面台に洗濯機 それに高校生2人入ると かなり窮屈な脱衣所だ。壁際に身を寄せて こんのさんが通れるスペースを作る。


 

「あきちゃん 下着 ちゃんと乾いてる? 大丈夫かな?」


「あー 大丈夫です。ありがとうございます」


 

 こんのさんの口調は いつも通りに戻ってる。特に機嫌が悪いってことはなさそうだ。ボクの下着乾かして 満足したんだろうか? あの怒りは なんだったんだ?

 ホント 謎…。



「あのさ ワンピースの乾燥終わるまで もう少しかかるし あたしもシャワー浴びてくるね」


 

 こんのさんは 洗濯機の表示を覗き込みながら言う。

 こんのさんも けっこう濡れてたもんな。身体冷えて 風邪とかひかないといいけど。先にシャワー使わせてもらって 申し訳ない気分だ。


 

「あ はい。じゃあ ちょっと出ときますね」


 

 ところが 脱衣所から一旦出ようと ドライヤーを止める前に こんのさんは 既に上着を脱ぎキャミ姿になってた。


 

「大丈夫 大丈夫。あたし 気にしないし。そのままドライヤー使ってて」


 

 鏡に映るこんのさんは キャミに手をかけ 上に引き上げ始めている。白く引き締まった 腹筋に続いて 今にも ブラが見えそうだ。慌てて目を瞑る。


 こんのさんは 気にしなくても ボクは 気にする。

 

 それに こんのさんが気にしてないのは に着替えを見られること。こんのさんだって に着替えを見られるのは 気にするに決まってる。そして こんのさんが 気づいてないだけで ボクは あくまでもなんだ。

 

 ドライヤーを耳元で当て 他の音を掻き消そうとするけど 微かな着擦れの音をボクの耳は 聞き逃さない。妄想が大爆発する。呼吸の音が聞こえるほどの距離で こんのさんが生まれたままの姿に…。心臓が 凄い力で 脈打っていて 痛い。


 

「すぐに上がるつもりだけど もし先にドライヤー終わってたら あたしの部屋で待ってて。場所 大丈夫?」


「えっ? あっ…はい。分かります」


 

 こんのさんは 少し屈んでいるのか 少しくぐもった声で ボクに話しかけてくる。ボクの声は 動揺して少し上擦ってたけど こんのさんは気づかない様子で 服を脱いでってるみたい…。

 

 ……今 絶対 パンツ脱いでたよね…。


 声の位置や着擦れの音から 色々と妄想してしまう。

 


「本棚にマンガとかあるから 好きに読んでてくれて大丈夫だし」


 

 こんのさんは そう言いながら 扉を開けて浴室に 入っていった。

 ゆっくりと目を開き 浴室の方を見る。すりガラス越しに こんのさんの裸体が うっすら見えている。

 


 


  

 それが素直な感想だった。もちろん こんのさんの裸に興味は あった。見たかったってゆーのも 正直な気持ちだ。でも だからこそ 見なくって良かったと思う。


 だって そうだろ?

 

 きっと 見てたら 動揺しまくって〈あき〉でいるなんて 到底無理。そうなったら ボクの存在がバレて こんのさんとの関係も 一巻の終わりだ…。せっかく こんなに仲良くなったのに 一時の衝動に負けてご破算にするとか あり得ない。これまで通りプラトニックな関係でいるのが 結局はボクのためなんだ。

 そう考えると ここも早めに退散した方が 良さそうだ。こんのさん『すぐに上がるつもり』って言ってたもんな。今度 裸が見れるチャンスが訪れてしまったら 我慢しきれる確証は ない。ホントは もう少し しっかり髪を乾かしておきたかったけど ボクは脱衣所をあとにして 3階のこんのさんの部屋へと向かう…。

 ………。

 ……。

 …。



 相変わらず昭和の香りが漂う こじんまりとした四畳半。

 前に来たときは 閉まってた襖が 片側開けてある。予想通り押し入れになっていて 上の段には 布団が入っている。下の段の奥には カラーボックスと衣装ケース。

 カラーボックスには マンガ本が整然と並べられていた。『マンガ読んでて』って言ってたのは きっとこれのことだろう。


 正直 ボクは マンガに あまり興味が無い。

 美優姉とかが 『面白いから』って貸してくれるのを 読んだりは するし それなりに面白かったりするけど 買って揃えるほどでも無い。貸してもらって読んでるのも いわゆる少年マンガが ほとんどで この本棚に並んでいるような 少女マンガは 手に取ったことも無い。『恋に胸きゅん』『 Bitter Sweet Love…』はっきり言って 普段なら全く読む気にならないタイトルだけど こんのさんが どんな恋愛に憧れてるのか……ってゆーのは ちょっと気になる。

 ためしに『恋に胸きゅん』の方をパラパラとめくる。いかにも少女マンガって感じの 目の大きな女の子が主人公みたいだ。……おっと〈壁ドン〉だ。やっぱ〈お約束〉ってヤツなのかな?

 〈壁ドン〉かぁ…。

 ボクとこんのさんの身長差だと ギャグにしかならないよね…。まあ ボクの抱えている身体の悩みは 身長どころじゃないワケだけど。


 『Bitter…』の方も 手にとってみる。

 こっちは 『恋に…』に比べると地味な感じ。目に星とかじゃなくて もう少しリアルなイラスト風の高校生カップルが表紙。とはいえ 真面目に読む気もしないので こっちもパラパラとめくってみる。女の子のヌードシーンに目が留まる。男の子の方も裸。

 

 えっ?……これって もしかしてセックスシーン!?


 こんのさんって こんなの読んでるんだ…。

 

 ビックリして 動揺して 心拍数が上がる。

 ……いや 学校で誰かが言ってた気がする。今時の少女マンガじゃ『セックスくらい当たり前』って…。どっちかってゆーとボクが〈オクテ〉なのかも。なっちゃんとか ボクより全然なんで 安心してたけど。みんな もっと色々 知ってるのかな? どんな話なのか気になって 初めからもう一度読み直そうとしたとき 階段を上がってくる こんのさんの足音に気づく。


 心臓がドキンと大きく脈打つ。

 

 こんのさんの本だけど セックスシーンが気になってマンガ読んでるって思われるのは やっぱり恥ずかし過ぎる。慌てて マンガを元の場所に戻し ポーカーフェイスで スマホを開く…。

 ………。

 ……。

 …。



                        to be continued in “part Kon 7/23 pm 4:22”






 

 

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