第4章 好奇心は猫を殺す
part Kon 7/23 pm 4:22
「あきちゃん あのさ さっき プレアデスの三百均で化粧品って言ってたけど それって 明日 行くってこと?」
部屋に上がり あきちゃんに 明日の予定を確かめる。
明日のT-GROのライブは プレアデス内の臨港アリーナで 午後6時から。
あきちゃんの計画では 午後3時に桜橋で落ち合って プレアデスで化粧品買ったり ウインドウショッピングしたりする。
それから 臨港アリーナへってゆーことらしかった。
明日も 午前中は中央体育館で 先輩達の応援だけど 3時前には 帰ってるハズだから それは ぜんぜん 大丈夫。
……なんだけど あきちゃんと明日の予定を打ち合わせしてるときに あたしは奇妙なことに気がついた。
なんだか
別に 気も遣ってくれるし テンションが高いってワケでも無い。
そもそも〈天使のあきちゃん〉も
でも なんか
髪の毛 下ろしてるからかな?
お化粧して無いせいかしら?
しゃべり方とかは いつも通りの丁寧なあきちゃんなんだけど 時々 目が泳ぐ。
そのクセ じっと見つめてきたりするし。
ほんの些細な違いなんだけど なーんか
明日の計画の確認は 終わって 今の話題は 夏休みの予定。
あたしは 明日の結果次第ではあるけど インターハイまでは 毎日練習。
8月の前半は たぶんインターハイの応援になるハズ。
で お盆休みが終わったら 大学進学組の先輩達が引退して 代替わり。
あたし達の代から新キャプテン選ばなきゃなんない。
今の正セッターの先輩も 大学進学組のハズだから この時点で リザーブにも入れなければ 3年の間は 補欠生活になる可能性が高い。
ホント この夏休みが 正念場ってこと。
まぁ 毎年のことでは あるけど バレーボール漬けの夏休みだ。
「あー アタシですか? アタシ 来週から 2週間は 星光ゼミナールの夏期講習に行くことになってるんです。なんか ママが勝手に申し込んじゃってて…。その後 お盆までは 清滝のお婆ちゃん家で 絵を描こうかなって思ってます。いつもなら けっこう長いこと泊まるんですけど 今年は 1週間くらいですかね…。お盆明けからは 文化祭の準備で 聖歌隊やら美術部に 時々 顔 出してって感じです」
文化祭かぁ…。
あきちゃん文化系だから色々大変そう。
しかも掛け持ちだし。
バレー部は 模擬店くらいだし しかも1年生メインでやるから 2年は あんま忙しくない。
服飾科は ファッションショーするから かなり大変だけど まあ 服作りは授業だしね。
そういや 夏期講習って あきちゃん 聖心館だし 受験勉強とかしなくていいじゃないの?
「夏期講習って言ってたけど 聖心館ってエスカレーターで大学 行けるんじゃないの?」
素朴な疑問をぶつけてみる。
「あー 確かに 内部進学で一応 よっぽど成績悪くない限りは 聖心大 行けるのは 行けるんですけど…。内部進学って 成績順で 行きたい学部とか学科とか 選ぶんです。だから 成績悪いと行きたくもない学部に回されちゃったりするんです。で そうなるくらいなら外部進学 選んで受験みたいなことになるんで…。それで ママが心配してって感じです」
なるほど そーゆー仕組みになってるんだ…。
確かに 興味ない学科に行かされるとか嫌かも。
でも 聖心館ってだけでブランドだし 憧れるけどなぁ…。
ニュースキャスターとか 女優さんとか あたしでも知ってる有名OGが何人かいるもん。
ホント 名門女子大って感じ。
まあ バレーが強いってハナシは聞かないけど。
「あきちゃんは どこの学科に行きたいの?」
「ママは 英米文学がいいって言うんですけど…。確かに日文だと古典とか嫌いだし 教育とか 家政学も 興味ない感じですし…」
なんだかゴニョゴニョした歯切れの悪い返事。
ってゆーか さっきから ママが ママが…って そればっかで あきちゃんの意見を聞いて無い気がする。
大抵の場合『アタシ こう思うんですけど…』ってゴニョゴニョ控えめな感じだけど 自分の意見は しっかり持ってるあきちゃんにしては 珍しい。
「聖心館 いまいち気乗りしてないんだ?」
「えっ?……いや 気乗りしないってゆーほどのことも無いんですけど…。ほら アタシ 別に これと言ってやりたいこととかあるワケじゃないですし…」
やりたいことが無い?
聖歌隊やら美術部やら あんなに楽しそうに語るクセに?
意外な答え。
「歌とか 絵とかあるじゃん」
「いや あの… 確かに好きは 好きですけど 大学で勉強するほどじゃないし…」
「なんで? 音大とか美大とか行ったら いいじゃん? あきちゃんとこ お金持ちだし 行きたいって言ったら 行かせてもらえるんじゃないの?」
あきちゃんは 黙って何か考えているみたいだった。
しばらくの沈黙の後 あきちゃんは ゆっくりと話し始めた。
「……あの こんな話 人にするの初めてなんですけど 正直 美大行ってみたいなってゆー気持ちはあるんです…。色々 勉強してもっと 上手に描けるようになりたいなって」
初めて会ったときの別れ際のことを 思い出す。
今 思うとあの時も
「でも アタシの絵なんかで 美大に入れるのかってゆーのが1つ」
まあ 受験しなきゃってゆーのは 不安だよね。
受験するってことは 落とされる可能性もあるってことだもん。
ましてや それなりに勉強してれば 聖心館大 行けるって決まってるのに それを捨てるのは 勇気いるよね…。
「もう1つは 陽樹兄さんが あの 一番上の兄なんですけど その兄が 高校生のとき やっぱり美大に行きたいって言ったんです…。その時 父が『絵を描くことは素敵な趣味だけど 人を感動させて仕事にするのは とても難しい』って言ったらしいんです…」
ああ。
お家の人 反対してるんだ…。
ウチもそうだけど 反対してる親 説得するのって キビシイよね。
中3のあたしには どうしようもなかったもん。
「アタシ 絵を描くのは好きですけど アタシの絵に感動して しかもお金出してくれる人ができるなんて 想像もつかないじゃないですか…」
確かに 画家になるって 難しそう…。
売れない画家とか とことん貧乏そうな気がするし。
あきちゃん お嬢様だし 親御さんが反対するのも 分からなくはない。
「なんか あきちゃんも 悩んだりしてるだね…。いやぁ あたしもさ 高校受験のとき 親に反対されて メッチャ悔しくてってゆーの 思い出したよ」
「えっ… そうなんですね。こんのさん どうやってお家の人 説得したんですか?」
「ううん。どーしよーも無くて泣き寝入り。だけどさ その時 思ったの。次は 親に文句言わせないくらい 実績上げて オッケーって言わせてやるって」
「実績ですか…。どんなことしたら実績になるんですかね…」
あたしの場合だったら 全国大会で活躍して推薦もらうとかだけど 絵だと どーなるんだろ?
コンクールで入選とかかな?
「絵のコンクールとかあるんじゃないの? コンクールで入選とかしたら お家の人も納得するんじゃない?」
「……コンクール。確かに入選できたら素敵ですけど…」
あきちゃんは 思案顔だけど やっぱり 気乗りしないってゆー雰囲気。
「なんか イマイチって感じだね」
「えっ…。…いや。あの ゴメンなさい。せっかく考えてもらったのに…。ただ アタシ 絵を描くの好きですけど いつも自分の為に描いてるから 何かの為に描くって なんかピンとこなくて。友達に頼まれて イラスト描いたりポスター描いたりするのは それはそれで楽しいんですけど 絵を描くのとは ちょっと違うってゆーか…」
なんか色々 拘りがあるのね。
でも いつも颯爽としてカッコいいあきちゃんでも 進路のこととか悩んだりして 決められなかったりするってゆーのは ある意味 新鮮だった。
あきちゃんも やっぱ あたしと同じ高校生なんだって思うと ちょっと安心する。
せっかく悩み事 打ち明けてもらったのに あきちゃんみたいに 素敵なアイデア出して解決してあげられないのは 残念だけど…。
「こんのさんは 第一志望は Vリーガー 第二志望は大学って感じですか?」
「まあ そんな感じかなぁ」
…Vリーガー。
藤工のレギュラーも 獲れてないけど…。
「大学は どこ行きたいとか なんか考えてます?」
「いやぁ あたし あきちゃんみたいに 将来の仕事のこととか全然考えてなくてさ。ウチ 貧乏だし そもそも大学行けるのかってハナシだから…」
あきちゃんは ちょっとビックリしたような顔。
あきちゃんみたいなお嬢様にとっては 大学行くってゆーのは
聖心館の友だちも お嬢様ばっかだろうし。
「高校卒業して社会人になっちゃったら あたし バレーするとこ無くなっちゃうからさ…。大学行きたいのは行きたいんだよね」
いきなりVリーガーがキビシイ以上 大学行くってゆーのが バレーを続けるための生命線。
「だから とりあえず バレーの推薦で採ってくれるってゆー大学なら どこでも喜んで行くつもり」
夏休み終わったら そろそろ学校にも 就職希望か 進学希望か伝えなくちゃならない。
ってことは『バレー推薦で大学目指す』って 親に宣言しなきゃってこと。
「ただ やっぱ それなりに 有名なところじゃないと 親 お金出してくれないと思うしなぁ…」
……ううっ。
自分で言ってて ちょっとツラくなってきた。
少し楽しい話題に切り替えよう。
「そういや あきちゃん。大学生になったら一人暮しとかしてみたくない?」
「あー いいですね。ウチ ママがホント煩いんで ちょっと憧れます」
「ねぇ 憧れるよね。あたし 大学 行きたいってゆーのは 一人暮ししてみたいってゆーのもあるだよね」
気がつけば 雨は上がったらしく 西向きの窓から 太陽の光が 部屋の奥まで 射し込んでいる。
それに合わせて 部屋の温度も ジリジリ上がっている気がする。
あたしは 一度立ち上がり 窓のカーテンを締め エアコンの設定温度を1℃下げる。
「ってゆーか この部屋から出たいんだよね。狭いし 西日キツいし 暑いし」
あきちゃんは あたしの愚痴を 苦笑いしながら聞いてくれている。
あきちゃんも この部屋の住環境の悪さに気づいてたんだと思う。
まあ 他人の部屋だし『そうですね』とか相づちも打ちにくいから苦笑いしてるんだろう。
「それにさ 防音も最悪なんだよ? そっちのポスター貼ってる側って 実は ただの襖だからさ 隣の兄貴の部屋の音とか丸聞こえなの!夜中に AV 見てる音とか聞こえてくるんだよ? サイテーじゃない!? あきちゃん どー思う?」
あきちゃんが 頷きながら聞いてくれるもんだから つい調子に乗って 日頃の不満をぶちまける。
「エーブイって何ですか?」
「言わせないでよ~っ! アダルトビデオ。エロビデオのこと。知ってるクセに~」
ペラペラ喋ってた勢いで 藤工の友だちとかのノリでツッコミ入れるけど あきちゃんは アダルトビデオって聞いた瞬間 顔を赤くして 目を白黒させている。
あらあら?
お嬢様には 刺激強かったかしら?
「あ あの… 知ってるのは 知ってます…。あっ その 知ってるって言っても 見たことあるとかじゃなくて 聞いたことあるってゆーか あの… ええっと…」
あまりの狼狽ぶりに ちょっとイジワル心が 頭をもたげてくる。
「あれ? あきちゃん 見たこと無いんだ~? けっこう面白いのに…」
「えっ!?……こんのさん 見たことあるんですか…?」
見たことは ある。
2度ほど。
この間のGWに中学の時の友だち達とウチで。
その前は 高1の冬休み 部活の先輩の家。
1回目は 初めは かなり恥ずかしかったんだけど 先輩とかとワーワーキャーキャー言いながら見て 盛り上がってしまった。
2回目は 中学の友だち達と 兄貴の部屋で見た。
提案したのは あたしだけど みんなノリノリで この時もかなり盛り上がった。
なんだかんだ言って みんな やっぱ 興味あるワケで…。
「うん。あるよ~。こないだも兄貴の部屋に侵入して 中学の同期とみんなで見たの」
「みんなで…」
あきちゃんは ちょっと赤い顔して モジモジしてるけど 怒ってる感じじゃなかった。
あきちゃんみたいなお嬢様でも やっぱ 高校生。
興味あるのかな?
ちょっとした優越感。
何でも知ってるって感じの 賢いあきちゃんも こういう話だとウブで奥手。
そこがまた 超カワイイ。
もうちょいイジってみたくなる。
「興味津々って顔だね?」
「えっ?……そんな 興味津々ってほどじゃ…」
「じゃ ちょっとは 興味あるんだ?」
すかさずツッコンで 眼を覗き込む。
あきちゃんは 真っ赤になってるけど 否定はしない。
カワイイ。
超~カワイイ。
イジワル心がムクムクとわき上がる。
チラッと 机の上の時計を確認する。
4時半過ぎたとこ。
啓吾は 塾に行ってて まだ 帰って来ない。
兄貴は 朝から ユキさんとデート。
パパとママは 開店前の仕込みの最中で 上がってはこないハズ。
30分くらいなら絶対大丈夫。
「見てみる?」
そう言って もう一度眼を覗き込む。
あきちゃんは 恥ずかしそうにして 眼が泳いじゃってる。
それって ホントは見たいけど 恥ずかしくて『うん』って言えないだけだよね?
その証拠に あたしが
「あきちゃん ついてきて」
って言って 部屋を出ると あきちゃんも あわてて後ろについてきた…。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 7/23 pm 4:22”
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