第1章 接近遭遇 前編
part Aki 4/22 am 6:00
もう一度 ボクの自己紹介をしよう。
ボクの名前は
平凡な男子高校生。彼女いない歴 16年の16歳。ちょっと妄想強めって気もするけど まぁ 標準の範囲内だと思う。生まれてこの方ずっと男の子をやってる。普通だよね? 初恋は 小学校5年のとき。相手は 仲のよかったクラスの女の子。告白もせずに終わっちゃったけどね…。普通でしょ? 得意な教科は 美術と音楽。だけど5教科だって平均点キープぐらいは してる。そりゃ うちの学校は すごい進学校ってワケじゃないけど それなりのレベルの学校だし 勉強も人並みぐらいには できてるハズ。これまた普通。趣味は 絵を描くこと。これについては ボクなりに色々とこだわりがあるから 普通って言われるのは 抵抗あるけど まぁ 客観的に見てボク程度の画力の人間は ごまんといるわけだから 普通って言われても仕方ないのかも知れない…。特技は お化粧。……これは ちょっと普通じゃないかな。ただ 言い訳させてもらえば ママがエステの仕事をしてるから 小さいときから 身近に化粧品があったんだ。
身体の方も これと言って特徴はない。生まれてこの方 一本も虫歯になったことが無い。ちょっとした自慢だけど 40人のクラスなら 2~3人は いるハズ。視力は 右0.3 左0.2 で コンタクト着用。これもクラスに10人や15人は いる平凡な特徴だ。
そして 身体は 女の子。
これだって 大抵の学校で クラスの半分は 女子なんだから 別に珍しいことじゃない…。
……うん。わかってる…。
心は 男で 身体は女って人間は そうたくさんは いない…。そう ボクは いわゆる性同一性障害ってやつなんだ。勘違いしないで欲しいのは 〈障害〉であって〈病気〉じゃないってこと。〈病気〉じゃないから治らないし 〈病気〉じゃないから 心は
一番最初の違和感の記憶は オチンチンのことだ。お兄ちゃんたちは みんなオチンチンがついているのに ボクには ついていない…。お兄ちゃんたちみたいに大きくなれば生えてくるのかと思ったけど いつまで経っても生えては 来なかった。そして オチンチンは 今も無い…。
次は〈ボク〉っていう一人称だ。お兄ちゃんたちはみんな〈ボク〉っていうのにボクにだけ ママが『亜樹ちゃんは女の子だから〈わたし〉って言うのよ』って言うんだ。この躾は かなりしつこかったから ボクの話し言葉の一人称は〈アタシ〉になっている。心の中では 今でも〈ボク〉って言ってるけど…。
その他 色々 大小 様々な 違和感を抱えながら ボクは 成長していった。
特に自分も周りも〈性〉に芽生え始めた小学校の5~6年 そして中学1年は ホントにキツかった…。オチンチンが生えてくるどころか 胸は膨らみ始めるし 小6の夏頃からは 生理も始まった。女の子に変わっていく自分の身体が嫌で嫌でたまらなかった…。そして 互いを異性と意識しだして 変わっていく人間関係…。ボクは 男の子のグループに入りたいのに 彼らはボクを受け入れてくれない。そして 女の子グループは ボクを受け入れてくれるけど そこは ボクの居場所じゃないんだ…。
中でも衝撃的だったのは そんな中でもボクといつも遊んでくれてた
最近 男子が怖いって話をママにすると ママの母校でもある聖心館への中学受験を勧められた。そのときは
そして初登校して そこがボクにとって〈完全なアウェー〉ってことに気がついたんだ。校内 見渡す限り 女の子しかいないんだ。その居心地の悪さったらなかった。高等部まで入れるとザッと1200人近い女の子がいて 男は ボク1人。(いや…。 もしかしたら1200人の中には ボクと同じような困りを抱えてる人がいるのかも知れないけど カミングアウトしてないんだから 1200対1であることに変わりはない。それに ボクもカミングアウトしてないんだから 文句を言えた義理でもない…)
最初の3ヵ月は 本当に憂鬱だった。完全なアウェー感に加えて 女の子同士の妙なポジション争い そして長い通学時間…。今すぐやめたいって思ったけど 家族は ボクが聖心に受かったのを とても喜んでくれていた。特にママは…。アウェー感と家族の期待の板挟みになって 困っていたときに あの言葉に出会ったんだ…。うちの学校は ミッション系なので 毎週火曜日の朝 礼拝っていう儀式がある。みんなで 講堂に集まり 賛美歌を歌ったあと 神父様の講話を聞くんだ。7月のはじめの講話で ダンカン神父がこんな話をした。
「貴女方の肉体は ヤガテ 滅びマスが 魂は 永遠デス。器を磨くことも大切デスが 中身を磨く方が モット大切デス」
その言葉で ハッとしたよ。ボクの魂は 男で 肉体は 女。ボクは ボクで 入れ物が女の子なんだって。それだけのことだったんだって…。外見がどうあれ ボクは ボクだ。そしてこんな風に考えることにした。
ボクは『〈あき〉っていう着ぐるみを着て 女子校に潜入してる』んだって…。
この考えは なかなか素敵だった。なぜって 〈あき〉の格好をしてさえいれば 女子更衣室だろうが 修学旅行の女風呂だろうが 潜入し放題なんだ。
この考えは〈あき〉にとってもよかったんじゃないかな…。昔 ボクは 自分の女っぽい外見が大嫌いだった。スカートを穿かせようとするママと何度も大ゲンカしたし 髪が伸びてくると ハサミでボサボサになるように ワザと切ったりもした。
でも 今は 〈あき〉の外見をけっこう気に入っている。ボクが言うのも何だけど かなり可愛いよね?〈あき〉にお化粧したり オシャレさせたりするのも面白い…。ママとの会話も増えた。クラスの女の子とも色々話すようになった。オシャレや恋愛 勉強のこと 校則のグチ…。話すことは いくらでもあった。アイドルやカッコいい俳優の話題とかは 正直 どーでもよかったけど そんな話題のときは 黙って聞いてたらいいだけだ。その手の話題に大して興味のない女の子も 一定いるから〈あき〉だけが浮いちゃうってわけでもなかった。
〈あき〉には 友だちも何人かできた。ボクの存在は秘密だったけど その子たちと色々話したり 買い物行ったりするのは けっこう楽しかった。〈あき〉もいっぱい笑ってた。
ボクと〈あき〉を切り離して考えることで ボクは すごく安定して 普段の生活を送れるようになったんだ。
ただ〈あき〉が可愛くオシャレになったことで 新たな問題も起こった。ボクをナンパする 大バカヤローが増えたのだ。男に『付き合って欲しい』とか『好きだ』とか言われても もう寝込んだりはしなくなったけど さすがに〈あき〉として男と付き合う気には なれなかった。やっぱり同性に言い寄られても 嬉しくも何ともない。ってゆーか 気持ち悪い…。
……だけど このセリフは そっくりそのまま ボクに返ってくる。
昨日一日 ボクは 高揚した気分の中にいた。
だって そうだろ? 大好きな女の子を 痴漢から守ったんだ。あのあと こんのさんは ずっと大泣きしてた。きっと すごく怖かったんだと思う。そんな怖い思いをしているところに ボクが颯爽と駆けつけて 彼女を救ったんだ。白馬の王子様ってやつだ。……いや そりゃ 突き飛ばされて 無様に転んだし 取り押さえたのは 他の人だったけど…。でも ボクが彼女を守ったのは 紛れも無い事実だ。非力で平凡なボクだけど 精一杯戦って大好きな女の子を守ったんだ。最高の気分だった。マジで これをきっかけに 彼女と付き合えるかもしれないって妄想が膨らんだよ…。
……でも 夜になって気がついたんだ。
こんのさんを助けたのは ボクじゃなくて〈あき〉なんだって…。
こんのさんには 〈あき〉の中身がボクだなんてわかるわけが無いんだ…。ボクが マジ告白したところで 気持ち悪がられるのがオチ…。今朝は久しぶりに〈あき〉の身体が疎ましかった。ちなみに今朝の総合運は2位。恋愛運は星3つ。占いなんて まったく信用できない…。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 4/22 am 6:15”
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