part Aki 4/22 pm 6:40




 駐輪場の指定の場所に愛車を取りに行く。

 聖心に受かった時に買ってもらった電動アシスト付のママチャリだ。当時のボクは マウンテンバイクが欲しかったんだけど 『スカートではMTBには乗れない』ってママに言われて この自転車になったんだ。そのときは残念だったけど 今じゃ感謝している。電動アシストのおかげで 帰りの坂道も楽々だ。そもそも MTBを買ってたところで インドア派のボクが オフロードを走りに行ってたとは 思えないし…。


 駐輪場の出口まで 自転車を押していくと こんのさんが待っててくれた。

 駅前のロータリーを抜けて 国道沿いの歩道を2人で並んで歩く。もちろん 自然な感じで車道側を歩くように心がける。でも 何か様子がおかしい。さっきまで 饒舌だったこんのさんが 突然 無口になってる…。


 

「こんのさん? アタシ待ってる間に何かありました? なんだか元気無いみたいですけど…」


「え? ううん。別に 何にも…。ってゆーか。その あきちゃんに迷惑かけっぱなしだな…って 思ってさ…」


 

 4月の宵闇の中 街灯の下で見る こんのさんの伏し目がちの 切れ長の眼が本当に綺麗で でも 笑顔が一等好きで 胸が締め付けられるような気持ちになる。笑顔が素敵な彼女に こんな悲しい顔させたヤツがいることに もう一度 怒りがこみ上げてくる。


 

「迷惑なんて 全然! 困ったときはお互い様だし 痴漢とかアタシも 絶対 許せないですし」


 

 ホント 痴漢しなくてよかった。こんな風に こんのさんを傷つけることになったかと思うとゾッとする。


 

「あ いや そのことも迷惑かけちゃったんだけど…。今日の帰りもさ あたし あきちゃんに会えて 嬉しくってペラペラ 自分のことばっか話して…。あきちゃんにしてみたら 友だちでも無いヤツに 馴れ馴れしくされて鬱陶しかったんじゃない?」


「鬱陶しいなんて…」


 

 あ… ヤバい… 涙が出てきそう。ボクは人前で泣くのは恥と思う古風な男子のハズなんだけど なぜだか けっこういいタイミングで涙が出る。決してウソ泣きでは無い。


 

「アタシも こんのさんに会えて 嬉しかったし 色々 話してくれて楽しかったです。そりゃ アタシ 口下手ですし あんまり面白いリアクションとか できなくて…。つまんなさそうに見えてたんなら ごめんなさい… 」


 

 国道を走る車のテールライトが涙で少し滲む。しつこいようだが ウソ泣きでは 無い。自然に涙が出てくるのだ。


 

「ゴメン。あきちゃん。そんなつもりじゃ…。なんか あたしだけ 楽しかったんじゃないかって心配になっちゃって…」


「大丈夫ですよ。アタシも本当に楽しかったです。それに T-GRO好きな人と知り合えて嬉しいです。学校にT-GROファンの友達いないんで…」


「そう? そう言ってもらえると あたしも嬉しいけど…」


 

 さっきよりは 少し明るい表情になった気もするけど こんのさんは 無口なままだ。あまり会話が弾まないまま 交差点のコンビニの前に着く。国道の斜め向かい側に オレンジ色に赤字で〈お好み焼き 烈風伝〉って書かれた看板が光っている。

 そろそろ お別れの時間だ…。


 

「……こんのさん。信号 青に変わりましたよ? 渡らないんですか?」


 

 そう 声をかけると こんのさんが 唐突に話しだした。


 

「……あのさ さっき あきちゃんが自転車取りに行ってた間 あたし一人ぼっちだったじゃない。ううん。わかってる。一人ぼっちってゆーような時間じゃないよ。たった1分か2分くらい。でも その間 あたしホントに寂しくて怖くて どうしようもなかったの。謝らなくていいよ。あきちゃんを責めてるんじゃなくて あたしの問題だから」


 

 ボクに 口を挟む隙を与えず こんのさんは 続ける。


 

「今日さ 朝 あきちゃんに手を握ってもらって 学校行って 友だちとしゃべって 部活して 帰りにもう一回 あきちゃんに会って楽しくって ちゃんと1日過ごせたって思ったのに…。……なのに 一人になったら 怖くって 何にもできなくて…。周りのみんなに 迷惑かけてるんだって思ったら ホント情けなくって…」


「大丈夫ですよ。誰も迷惑なんて思ってないです。さっき チラッとお会いしただけですけど 先輩方もこんのさんのこと 大切に思ってるって伝わってきました」


「……うん」


「アタシだって そうです。今朝 ちょっと喋っただけですけど こんのさんのこと 大好きになりました。迷惑だなんて とんでもないです」


「あきちゃん…」


「痴漢に遭って 怖いって思うのは 当たり前だと思います」


 

 そこまで言って 少し次の言葉に迷う。

 何を言えば 傷ついたこんのさんに 寄り添い 励ますことができるだろう? こんのさんの 黒くて長い睫毛に涙が光ってる。それを見て 思わず口から言葉が出た。

 それは 自分でも意外なものだった。


 

「……アタシも似たような経験したことあります。小6のころ 男の子が怖くなって 身も心もボロボロになって 学校に行けなくなったことがあるんです…。でも なんとか立ち直りました。こんのさんも 時間は かかるかも知れないけど きっと大丈夫です。心配なら 頼ってくれて大丈夫です。上手に一人で歩けるようになるまで アタシが支えます」


 

 うわぁ なんでボク こんなこと話してるんだ? こんのさんの男性不信を煽ってるようなもんじゃないか…。……いや それでいいのか? いや でも…? しかも ボクの不登校の話とか 今まで誰にも話したことなかったのに…。困ってるこんのさんに寄り添いたい 傷を少しでも癒やしたいって思ったら 自然と言葉が口をついて出た。

 こんのさんの瞳を真っ直ぐ見つめて 話し続ける。


 

「困ったときは アタシが こんのさんの 側にいますから」


 

 ホントは『守ります』って言いたかったけど 今は これが精一杯。でも 気持ちは 本物だ。平凡で非力なボクだけど 好きになった女の子を全力で守るんだ。例え 報われることの無い恋だったとしても…。


 

「うん。大丈夫… 大丈夫だよね」


「もちろんです!」


「大丈夫 大丈夫か… なんか気に入っちゃったな。ありがと。少し頑張れる気がしてきた」


 

 こんのさんの顔に笑みが戻る。

 好きな人の笑顔を見るだけで こんなにも救われるなんて まるで魔法みたいだった。


  

 国道の長い信号が 青から赤になり もう一度 青になる。今度こそ 本当にお別れだ。横断歩道を渡り始める こんのさんの背中を見送る…。……ところが 2歩ほど進んだところで やおら こんのさんが振り向いた。


 

「……あきちゃん。…あのさ でも…さ。明日の朝も 電車乗るときは 手 繋いで欲しいかも…」



 

 ズッキューーーーーン!


 

 

 心臓が撃ち抜かれる。

 ……ああっ。…ああっ そうか。恋に落ちるって こーゆーことなのか…。


 

「もっ もちろんです!」



 慌てて でも 全身全霊を込めて返事する。


 破顔一笑。

 今日 最高の笑顔。 

 

 今日の総合運は2位。恋愛運は星3つ。

 星占い 意外と当たるのかも…。

 ………。

 ……。

 …。


  

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第1章の終わりまで読んでいただきありがとうございます。


恋に恋する亜樹が 本気で人を好きになってしまいました。

亜樹の恋に出口は あるのでしょうか?


第2章は 少し紺野さん寄りの話が多いです。

紺野さんの背景が少しずつ明らかになります。


お付き合いいただければと思います。



コメント💬 応援❤️ 評価🌟 レビュー どれも励みになります。

お気軽に どうぞ!


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                         to be continued in “Chapter 2:Be my guest”






 

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