part Kon 7/24 pm 4:52





「ちょっと 目を瞑っててもらっていいです?」


 

 あきちゃんに言われた通り 目を瞑り あきちゃんの持つ化粧筆が 瞼を撫で終わるのを じっと待つ。



 プレアデスのアルキオネモール 6階でお茶 兼 早めの夕食。

 今日 ライブ終わって 桜橋に帰って来たら 十時前。

 晩御飯を食べてる時間は 無い。

 

 そんなワケで あきちゃんお薦めの〈スタインバック〉ってカフェで ベーコンサンドイッチと葡萄ジュースを注文する。

 あたし的には 3階のイートインで ファーストフードでよかったんだけど。

 まあ でも 昨日 稲荷町でハンバーガー食べたしな…。


 ただ 肉厚のベーコンの挟まれたサンドイッチは とっても美味しかったけど この量で千円か……と思わずには いられない。

 あきちゃんも 美味しそうに食べて ゆっくり 完食。

 満足そうな表情。

 あきちゃん的には 量もちょうどよかったのかな?

 あきちゃんの嬉しそうな顔 見るのは ちょっと幸せ。


 

 あきちゃんのこと好きだって思ってから 初めて顔 会わせたし ドギマギして 最初 上手に話せるか 心配だったけど バレーの話とかしてるうちに いつも通りに話せるようになった。


 例によって バレーの話してると歯止めが利かなくて ベラベラ喋り散らしちゃったんだけど…さ。

 いつも通り あきちゃんが ニコニコ聞いてくれるから 安心しちゃうんだよね。


 いつも通りって言ったけど あきちゃん 今日は いつもより上機嫌な感じかも。

 最初 顔を 見たときは 目が赤いから ビックリしたけど ライブが楽しみで あんまり寝れなかったらしい。

 

 スゴくニコニコしてるし よくしゃべる。

 ただ 少し不思議なのは T-GROやお化粧の話 いっぱいしてるのにって感じが ぜんぜん しないこと。

 

 いや まあってゆーのも あたしが勝手に言ってるだけで 何の根拠も無いんで ホント なんとなくの話なんだけど。



 で 食事が終わったあと ライブまで もう少し時間があるから さっき買い集めてきた化粧品で あきちゃんにメイクしてもらってる。


 お互い無言のまま あきちゃんが化粧筆やら何やら使って作業してくれてるんだけど 今は の存在を 強く感じる。


 目元にアイシャドウ塗ったりしてくれるとき 真剣な表情で顔を 近づけてくる。

 互いの体温がわかるほど近く。

 何かホント 細かな部分にも拘りながら お化粧してくれてるんだと思うんだけど そんな凝り性な感じが いかにも

 


「……ホント 綺麗」


 

 が ポソっと呟く。

 脈拍が 少し強くそして速くなる。

 

 って なんかスゴく不器用で 立ち回りとか考えられなさそうで しかも口悪いから 逆に 独り言っぽい呟きって信じていい気がする…。


 ……あたしのこと ホントに 綺麗って思ってくれてるんだ。


 それは 少し甘酸っぱい 気恥ずかしい感覚。

 それと共に 絡み付くような じっとりとした恐怖感。

 あたしだって女の子だし 鏡見て 自分のこと綺麗 可愛いって思う瞬間もある。

 

 でも そんな時 教室の後ろから クスクス笑いが聞こえてくる。


 

『自意識過剰だよね~』


 

 嫌な女って思うけど 似たような気分は あたしの中にもある…。

 

 小6の頃 隣のクラスの子を『ブリっ子』ってわらってたことがある。

 今 考えるとガキだったなって思うけど あたしの中身は あの頃と大して変わって無い。

 小学生の頃みたいに 露骨に表には 出てこないけど 嫉妬と足の引っ張り合いが大好きな嫌な女が あたしの心の中で 他の女の子を嘲ってる。

 それが怖いから 自分のこと綺麗って思うことも怖い…。

 ………。

 ……。

 …。



「まぁ こんなもんですかね…。ちょっと見てもらっていいです?」


 

 あきちゃんが 手鏡を渡してくれる。

 鏡に映るあたしは いつもより目元がクッキリとしていて 鼻筋も通って見える。


 自分の顔じゃないみたいで 違和感を感じないと言えばウソになるけど 気になる目元は 少しは柔らかな感じだし なんだか ちょっと大人っぽく見える。

 

 結構ってゆーか 意外とってゆーか あたしって美人なのかも…。

 って 思ってしまう。


 

「う…うん。あきちゃんのおかげで 少しは綺麗に見えるかも」


 

 自分のこと綺麗って言うのに 抵抗あるけど 褒めないとそれはそれで あきちゃんに失礼。


 

「アタシのおかげじゃないです。こんのさんが綺麗なんです」


「……えっ? あ あの…ありがと。綺麗って言ってもらえて嬉しい」



 好きになった人に 真っ直ぐ目を見て綺麗って言われるのは ぜんぜん 特別な感覚だった。

 恥ずかしくはあるけど 隠れたくなるような恥ずかしさじゃあ ない。

 面映ゆいってゆーんだろうか?

 恥ずかしいけど もっと あたしを見て もっと 褒めて欲しいって思える。

 他の女の子に 嘲われたって関係ない。

 

 あきちゃんが〈綺麗〉って言ってくれてる。

 それだけで 十分だ…。

 ………。

 ……。

 …。



                        to be continued in “part Aki 7/24 pm 5:13”







 

 

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