part Kon 5/16 pm 4:04




 桜橋までの電車は けっこう空いていて 2人とも席に座ることができた。

 隣同士で座ると 手は 繋げないけど 触れ合った肩から あきちゃんの温もりを 感じて これはこれで安心感がある。

 

 しかも お互い 支え合ってる感じで なんだか幸せな気分だ。

 あたし いつも あきちゃんに頼ってばかりだから あたしも あきちゃんの役に立てると いいんだけど…。


 さて 桜橋まで30分ほどある。なに話そう?

 

 ……いや。

 なんかいつも あたし ばっか話してる気がする。

 しかも バレーの話 ばっかし…。

 

 あきちゃん いつもニコニコ聞いてくれるから つい調子に乗ってしゃべっちゃうんだよね。

 今日は バレーの話は 封印して あきちゃんの話を聞くようにしよう。

 

 そう思って 黙っていると あきちゃんが 怪訝そうな顔で 聞いてきた。


 

「なんか黙ってますけど どうかしました? 体調 悪いです?」


 

 やっぱ あたしばっか しゃべってんだな。

 ちょっと黙っただけで 心配されてるし。


 

「いや あのさ… なんかいつも あたしばっか しゃべってて あきちゃんの話 聞けてなくって悪いなぁ…って思ってさ。それで 今日は あきちゃんの話 ちゃんと聞こうって…」


「えっ そんなこと…。アタシ 口下手だし こんのさんみたいに 面白い話 できないですし。話 聞くの楽しいんで 気にしないでください」


 

 また 口の中でゴニョゴニョ言ってるけど あきちゃん 自分で言うほど 口下手とは思えない。

 基本ハキハキしゃべるし 話題も豊富だ。

 バレーの話しかできない あたしより ずっと話し上手だと思う。


 

「あー でも ちょっと話したいことが 1つあって…。話したいことってゆーか お願いなんですけど…。聞いてもらえますか?」


「えっ あきちゃんが お願い? 珍しいね。あたしで できることなら 何でもするよ」


「……あの これなんですけど」


 

 そう言いながら 黒革の通学鞄をゴソゴソ漁って 何か封筒みたいなものを取り出す。


 

「あの これ… 今度のT-GROのライブのチケットなんです。臨港アリーナの」


「……えっ? スゴいじゃん!? どーしたの それ?」


 

 あたしが こないだ行きたいって思ってたライブのチケットじゃん。

 ……まさか くれるとか?

 いやいや そんなオイシイ話あるわけないし。

 それにあきちゃんが お願いってゆーんだから 何か困ってるんだろうし…。

 

 何だろ?

 ハナシが見えない。


 

「これ アタシ 幸樹兄さんから 買ったんです。兄さんは このチケット 彼女と行こうと思って 買ったんですけど 買っちゃってから フラれたんです。性格悪いんで 当然ってゆー気もしますけど」


 

 幸樹兄さんってゆーのは 確か あきちゃんの3番目のお兄さんのはず。

 もう 大学生だとか言ってた気がする…。


 

「……で 兄さん自身は T-GROのファンでも何でもないんで このチケット要らなくなったんです。要らなくなったんなら タダでくれたらいいのに ケチだから アタシに売りつけてきたんです。非道くないですか?」


 

 ……いや フツーじゃないかな?

 ってゆーか タダでもらおうってゆー方が ヒドい気がする…。

 いつも 大人しくて いろいろ気を使ってくれる あきちゃんだけど 家では お兄さんにスゴく甘えてるんだな…。

 なんか カワイイかも。


 

「……色々 交渉したんですけど 結局 ほぼ定価で買わされたんです。オマケに1枚つけてもらったんですけど」


 

 それって 実質 半額なんじゃ?

 お兄さん 可哀想に…。


 

「ゴメンなさい。前振りが長くなっちゃいました」


 

 ここまで 前振りだったのか…。

 口下手とかよくゆーよ。

 ペラペラしゃべってたし。


 

「……チケット手に入れたとこまでは 良かったんですけど…。その… ちょっと問題が起こって。あの… うちのママなんですけど『女の子1人で行くのは 危ないからダメ』ってゆーんです。『お友達と行ってきなさい』って…。それで お願いなんですけど アタシと T-GROのライブ 一緒に行ってもらえませんか?」


「えっ? そんなの お兄さんに悪いし…。お兄さんと行ったら?」


「嫌です。あんなインケン 根暗メガネと行っても ちーっとも楽しくないです。だいたい幸樹兄さん T-GROのファンでも なんでも無いんで チケットが 可哀想です」


 

 ボロクソ言うなぁ…。

 けっこう毒舌。

 初めて会ったとき 思った『見た目カワイイけど 性格悪い娘』ってゆーのも あながち間違いでもないかも。

 あたしには メッチャ優しいけど。


 

「それで オマケでもらった方のチケット こんのさんにもらってもらって ライブ 一緒に来てもらえないですか?」


「え… いや 行ってみたいけど ホントに お兄さんに悪いし…」


「あの 前にも言ったかもですけど アタシ こんのさん以外に T-GROのファンの友達いないんです。だから こんのさんが来てくれないと このチケット 2枚とも無駄になっちゃうんです。アタシのこと 助けるって思って お願いします」


「でも そんなの タダでもらうとか 申し訳ないし…」


「……わかりました。じゃあ こうしましょう。こんのさん チケット代 半額 出してください。別に千円でもいいですけど。そうしたら こんのさんは アタシから 安値でチケット買えてラッキー。アタシは チケット無駄にせずライブに行けてハッピー。お互い ウィンウィンじゃないですか?」


 

 あきちゃんは 期待に満ちた真剣な表情で こちらを見ている。

 いや 確かに あたしにとっては ラッキーな話だ。

 T-GROのライブ 行ってみたいと思ってたし。


 

「わかった。あたしも行ってみたいし 半額 出すよ」


「よかった! 一緒に行けて 嬉しいです!」


 

 あきちゃんは とびきりの笑顔で喜んでくれる。


 

「あの お兄さんに あたしの分も お礼 言っといてね」


「へっ? なんで… ですか?」


「なんで… って。あたしも あきちゃんも ハッピーかも知れないけど お兄さんだけ 損してるじゃん…」


「あー そう言や そうですかね?」


 

 いや そうだよ…。

 あきちゃんの お兄さんの扱いがホント軽い。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 お兄さん ごめんなさい。

 そして ありがとうございます。

 

 …でも T-GROのライブ 面白そうだ。

 

 あたし 今までライブって 行ったことないから ちょっとドキドキする。

 あきちゃんと お出かけってゆーのも 楽しそうだし…。

 ………。

 ……。

 …。



                          to be continued in “part Aki 5/16 pm 4:22”







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る