第2章 お好み焼 烈風伝
part Aki 5/16 pm 4:22
今日 1番の難題が 比較的あっさり解決したし オマケにいい気分だ。
ライブ行く約束したあと T-GROの新曲をボクのイヤホン お互い片耳ずつ入れて 肩を寄せ合って 20分ほど聴いてたんだ。今年のツアーのテーマ曲『Ture Soul』。T-GROらしい 少し物悲しいメロディだけど 後半力強く盛り上がる。頑張る誰かを 励ましたい 支えたいって思わせてくれる静かなバラードだ。もちろん ボクは こんのさんのことを想いながら 耳を傾けていた。
ホント こんのさんと ライブ行く約束できて良かった。
幸樹兄さんを ダシに使ったのは 申し訳ないけど まぁ あのインケン 根暗メガネなら ホントに彼女できても 瞬殺で フラれそうだし。えっ?…いや 確かに 前に 性格似てるって言ったけど…さ。ボクは あそこまで インケンでも 根暗でもない… と 思いたい。
最後の難関は ママだな。せっかく ここまで上手くやったんだから 中間試験 しっかり頑張って 文句言われるスキを作らないようにしないとね…。
桜橋に着くと 例によって こんのさんに少し待ってもらって 自転車を取りに行く……と思ったけど そーいや 今朝は ママに送ってもらったんだっけ。2人並んで 改札を出た。こんのさんと 国道沿いの歩道を 並んで歩く。自転車を車道側にして ボク こんのさんの順。この歩き方も なんとなく定着してきた。今日は 自転車 無いけど ボクが車道側を歩く。男子が車道側。これが基本。
話題は こんのさんの家族のこと。
「…うん。もしかしたら お兄さんのこと 知ってるかも。大悟兄貴 今 22歳だから 学年は 違うけど 藤工の機工科だったし。兄貴 学校の話とか ぜんぜんしないから 聞いたことは 無いけど…」
どうやら こんのさんのお兄さん 大悟さんと 瑞樹兄さんは 藤工の機工科の先輩 後輩らしい。意外と世間は 狭いってヤツだね。瑞樹兄さんも 学校のことなんて 全く話さないしな。ってゆーか そもそも家にほとんどいないし…。
こんのさんは 3人兄妹。社会人の大悟さんの他に 啓吾くんってゆー中学3年生の弟がいるらしい。ちなみに お父さんと大悟さんは野球。お母さんとこんのさんはバレーボール。啓吾くんは バスケットボールってゆースポーツ 一家らしい。
うちは 瑞樹兄さんは ともかく あとの3人は 運動は イマイチ… ってゆーか ボクは まったくダメだし。
そんなことを話してると 〈烈風伝〉のオレンジ色の看板が見えてきた。ビニル生地のファサードテントに赤字で『お好み焼き・鉄板焼き 烈風伝』って大書してある。間口5mほどの小さなお店だ。1階が店舗。2階と3階は 居住スペースになってるみたいだった。
「普段は 勝手口のドアから 出入りしてるんだけど あきちゃんは お客さんだから 表から入って」
そう言いながら こんのさんは 店の入り口に案内してくれる。白いアルミサッシ製のドアに 準備中と書かれた白いプラスチックのプレートが下がっている。
「ただいま~」
「……お邪魔します」
こんのさんに続いて店の中に入る。
初めての場所で 声が小さくなるのは ボクの悪い癖だ…。店の中は 開店前で 少し薄暗い。さして広いとは 言えない店内の 左側に4人がけのテーブル席が3つ。右側は7~8人が 座れるカウンター席になっている。奥が厨房になっているらしく 奥に向かって こんのさんが 声をかける。
「ママ~ 友だち連れてきたし お好み焼とジュースもらうね~」
厨房の方から こんのさんとそっくりの声が返ってくる。
「おかえり。別に 構わないけど 売りもんなんだから バイト代から 引くからね」
こっちの声の方が ちょっとだけハスキーだ。
「えっ~!ケチなこと言わないでよ。あきちゃん 連れてきたんだから。ママも会って お礼言いたい って言ってたじゃん」
パタパタと足音がして こんのさんのお母さんが 厨房から出てきた。身長は こんのさんより10cmくらい低い。こんのさんほどじゃないけど スラッとした体型で 顔もよく似ている。特に切れ長の一重瞼がそっくりだ。明るく脱色した長い髪を 後ろで結ってアップヘアにしている。
「へー やだ。ホントにお人形さんみたいにカワイイ娘ねぇ…。みやもと じゃなくって ええっ と…」
「お邪魔します。宮村 亜樹って言います」
「ああ そう そう。宮村さん。いつも 瞳が あきちゃん あきちゃんっていうもんだから ごめんね。思い出せなくってさ…。あの この間は 瞳が迷惑を掛けたみたいで… ありがとね」
こんのさんのお母さんは 頭を下げてくれる。
「いえ あの 困ってるところ見たら 放っておけなくて。それに 女の子同士 お互い様ですし…」
「あらぁ しっかりした お嬢さんねぇ。ホントに瞳と同い年? 瞳 アンタもバレーばっかやってないで ちょっとは 宮村さん 見習いな」
「えっ~。あたし ママの娘だから ムリ」
話し方とか 仕草が こんのさんと瓜二つでなんか 微笑ましい。
濃紫のラメ入りアイシャドーとか オレンジ色のチークとか お化粧は濃いめだけど セクシーな感じでよく似合ってる。こんのさんも 20年くらいしたら こんな感じになるんだろうか?ってゆーか お母さん 30代半ばぐらいに見えるけど こんのさんがいて お兄さんがいるってことは もう少し上のハズ…。美魔女ってやつなのかな。うちのママも もう49歳なのに 30代って言われたりするらしいし。まぁ ママは美容法バリバリのプロだけど…。
「お母さん 凄く若々しいですね。一瞬 瞳さんのお姉さんかと思っちゃいました」
〈瞳さん〉って言うのは ちょっと抵抗あるけど〈こんのさん〉って呼ぶのもおかしいしね。
「もう カワイイ上に お世辞も上手なんて 困ったお嬢さんだねぇ。お好み焼き サービスするから 好きなだけ食べてって」
「あっ あの すみません。そんなつもりで言ったんじゃないんです…。あの でも ありがとうございます」
「やった!ママ。ありがと~」
「はぁ? アンタの分は バイト代から引くから。じゃあね あきちゃん ゆっくりしてってね。カラダばっかり 大っきくて 頼んない娘だけど 仲良くしてやってね…」
そう言うと お母さんは 厨房へと戻って行った。
「ホントに 綺麗で若いし お姉さんみたいです」
「あたし 部屋で 着替えてくるから 悪いけど ちょっと ここで待ってて」
そう言うと こんのさんも そそくさと厨房の方に入って行った。
あれ? ビミョーに気まずい雰囲気。ボク なんかマズいこと言った?
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 5/16 pm 4:35”
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