第4章 それは嵐のように
part Kon 7/23 pm 3:45
七海堂を出た後 5分もかからない内に稲荷町の店に戻ることができた。
かなり歩いた気がするし 七海さんとも色々話したハズ。
だけど 時計を見たら30分も経ってなくて ちょっとびっくり。
あきちゃんの言う通りショートカットできたってことなんだろうけど なんだか狐につままれたような気分。
カバンの中にはちゃんと コットンレース入ってたし 白昼夢を見たってワケでは 無いらしいけど…。
とりあえず残りの生地を買って 三岡稲荷から電車に乗った。
2人とも けっこう疲れてたみたいで 気がついたら寝ちゃってた。
ふと眼を覚ますと もう藤浜。
慌てて あきちゃん起こして とび降りた。
すぐに来た桜橋方面行きに乗って 2人でまた 爆睡。
春の痴漢事件以降 電車内って 緊張するんだけど あきちゃんいると なんだか安心しちゃうんだよね。
寝てる時も あきちゃん 手は ずーっと繋いでくれてたし…。
さすがに 桜橋に着く手前で 目が覚めて 今度は 余裕を持って降りることができた。
で 今 桜橋の駅前なワケだけど…。
「なんか 今にも降りそうって感じです…」
そう。
昼頃は あんなにカンカン照りだったのに 空には 黒い雲が立ち込め 湿った強風が吹き付けてくる。
夕立 始まる5秒前って感じ。
桜橋の百均で化粧品ってハナシだったけど さっさと帰った方が 良さそうだ…。
あきちゃん自転車だし。
「あきちゃん 夕立来そうだし 今日は もう帰ろっか? ゴメンね 化粧品 買おうって約束してたのに… 光岡の三百均 行くってゆーのも忘れてたし…」
「あー そう言やそうでしたね。アタシも すっかり忘れてました。プレアデスにも300均あるんで また そっち行きましょう」
にっこり笑顔で返してくれる。
あんなに楽しみにしてくれてたのに 約束破りになったのに なんて優しいんだろう。
きっと 残念だったり 腹立ってたりしてると思うんだけど…。
あたしだったら 絶対 しょげた顔しちゃってる。
なんか大人だなぁって思う。
同い年なのに なんなんだろ この違い。
それは さておき ホント 今にも降りだしそうなんで 足早に家に向かって歩き始める。
国道に出て Yin&Yan の看板が見えた辺りでポツポツと雨粒が落ちてきた。
かと思うと 瞬く間に 大粒の雨が叩きつけるように降り出した。
バケツをひっくり返したような大雨。
みるみる路上に小さな水溜まりができる。
「あきちゃんっ!とりあえずウチまで走ろっ!」
せっかく買った生地を濡らしたくない。
そう思って 走り出したのが マズかった。
あたしは スニーカー。
だけど あきちゃんは 厚底のミュール。
「きゃっ!?」
ガッッシャーン!!
あきちゃんの小さな悲鳴と 自転車が倒れるハデな聞こえる。
振り返ると あきちゃんがバランスを崩して転んでいた。
慌てて引き返して助け起こすけど ワンピースは ずぶ濡れ。
頭にまで泥水が跳ねていた。
「ごめんなさい。鈍くさくて転んじゃいました…」
「ううん。こっちこそ ゴメン。あたしが急に走り出したから…。ケガは ない?」
「それは 大丈夫っぽいです。背中から落ちたんで ちょっと背中が冷たいですけど」
そう言って笑う。
背中から落ちた?
もしかして 半分持ってくれてた生地を 濡らさないように 庇ってくれたの?
「もしかして生地 庇ってくれた?」
「いやぁ… ホント鈍くさくて… ズルッと滑っちゃいました。でも まぁ 水溜まりに落とさなくて良かったです」
そう言いながらも 生地の入った紙袋を抱きかかえて 雨から守ってくれてる。
ああ…もう!
なんか…もう!!
なんだか猛烈に腹が立ってきた。
あたしなんかの為に そこまでしなくていいのに…。
素敵だった クールグリーンのシャツワンピースの右背中は ぐっしょりと濡れ 三編みカチューシャの髪にも泥がつき 雨が垂れている…。
なのに あきちゃんはニッコリ微笑んでくれてる。
そのこと自体に腹が立つ。
怒ったらいいのに。
嫌そうな顔すればいいのに。
ホント 腹立つ。
なんで笑ってられるのよ?
絶対 絶対に あきちゃんを元のキラキラあきちゃんに戻してから 帰ってもらう。
心に固く誓うと あきちゃんの腕を引っ張って 家まで連れ帰る。
勝手口で ママにタオルを取ってもらって 大方あきちゃんを拭きおわると 背中を押すようにして 2階の脱衣所に押し込む。
「あきちゃん シャワー浴びてきて。その間に 服洗って乾かしとくから」
「いや…そんな… 悪いですし… 家で洗います。折り畳み傘もあるんで帰れないこともないですし…」
なんかゴニョゴニョ言ってるけど 聞く耳持たない。
既に これは
「ダメ。さっさとシャワー浴びてきて。絶対 あたしが洗って乾かすから」
「え… じゃあ 置いといてください。あの 自分で洗いますし…」
「それもダメ。絶対
「え…。 あっ… はい。わかりました…。じゃあ すみませんけど お願いします…」
納得して シャワー浴びるって言ったクセに あきちゃんは まだ何か言いたそうに こっちを見てモジモジしている。
ホント じれったい。
……言いたいことあるなら はっきり言えばいいのに。
「何? 言いたいことあるなら はっきり言ってくれていいよ?」
うわっ…。
キッツい言い方になってしまった。
これじゃ まるで喧嘩腰。
さすがにあきちゃん怒るかも。
でも まあいいや。
これで あきちゃんが怒って 言いたいこと言ってくれたら それでもいい。
そっちの方がスッキリする。
「あの… こんのさん」
意を決したって感じで あきちゃんがゆっくり口を開く。
緊張して心拍数が上がる。
でも ここは覚悟を決めなきゃ。
気を使ってもらうばっかより お互い 言いたいこと言える方が ずっといい。
「……服 脱ぎたいんで できたら出ていって欲しいんですけど…」
「えっ? …あ。……ごめん」
慌てて脱衣場から出て 中に声をかける。
「服 そこの脱衣籠に入れといてね?」
ちょっと拍子抜けする。
あたし 独りで何プリプリ怒ってんだろ…。
……。
…。
3階の自分の部屋に上がって あきちゃんに着てもらう服を見繕う。
中学時代の体育用のスパッツ。
大きいとは思うけど 腰ひもきつめに括れば なんとか着れるだろう。
あとは 黒のタイトなTシャツ。
これなら あきちゃんでも肩がずり落ちたりはしないハズ。
2階に戻り 脱衣場をノックする。
返事がないのを確かめて 中に入る。
浴室から シャワーの音が聞こえてくる。
脱衣籠には きれいに畳まれたワンピースとキャミと下着。
「あきちゃん シャンプーとか石鹸とか適当に使ってくれていいからね? あと 籠に着替えとタオル入れとくね」
浴室のあきちゃんに声をかけてから ワンピースを籠から取り出す。
きれいに畳んであるけど 背中のあたりはぐっしょり濡れて 泥がまだ少しついている。
洗面台にお湯を張り ついた泥を丁寧に落とす。
……そう。
あきちゃんが悪いワケじゃない。
あきちゃんに何にもしてあげれない自分に腹立ってる。
それは 少し落ち着けば 直ぐに理解できた。
洗い終えたワンピースを軽く絞り 洗濯機に入れて 脱水 乾燥に設定する。
次は下着。
服は ともかく 下着は 貸してあげるワケにはいかない。
あきちゃんだって嫌だろうし…。
キャミは少し濡れてたみたいだけど ポリエステル製で ほぼ乾いている。
念のため 軽くドライヤーを当てる。
でも あきちゃんに もっと本音を見せて欲しいってゆーのも あたしの本心だ。
怒ったり泣いたり そんなネガティブな感情も あきちゃんのなら受け止めてあげられる。
あきちゃんだって ホントに天使なワケじゃないんだから きっとドロドロした人間臭い部分とか持ってるハズだけど そこを あたしに見せないようにしてるってゆーのが寂しい。
あたしは あきちゃんに甘えっぱなしだけど あたしだって あきちゃんに少しくらい甘えて欲しいんだ…。
しっかり乾いたキャミを畳み直して 籠に戻す。
ショーツは 濡れてないみたいなんで そのままにして ブラを取り出す。
思った通り右の肩紐と右後ろのバンド部分がかなり湿ってる。
そこの部分を中心に 丁寧にドライヤーを当てて乾かしていく。
赤のタータンチェックの可愛らしいブラジャー。70の(A)。
スポーツブラしか使ったことないから こーゆーいかにも女の子って感じのブラジャーを手にすると 妙に気恥ずかしい。
あきちゃん相手だと なんか変に意識しちゃうんだよね…。
こないだのお股おっ広げ事件を思い出す。
あの時は
お股も全開だったけど…。
そう。
そうしたら あきちゃんのこと もっと深く知れる気がする。
でもな…。
天使なあきちゃんの奥底に隠れてる。
なんか
まあ ずっとあんな調子だったら あきちゃんしゃべり放しで こっちの話 聞いてくれなさそうではあるけど…。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 7/23 pm 4:02”
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