part Kon 7/24 pm 5:15
メローペガーデンのウッドデッキを あきちゃんと 手を繋いで 歩く。
メローペガーデンのこの辺りは 初めて来たけど 港の景色が一望できる素敵な場所。
夜景には まだ早いけど 恋人同士で海を眺めている人達が何組もいる。
手を繋いだり 肩を抱いてたり ハグしてたりと思い々々の過ごし方をしてる。
…あっ。
あそこの柱の影の2人 キスしてる…。
こんなデートスポットみたいなところに来るのは 初めて。
そして イチャイチャしてるカップルを生で見るのも 初めて。
なんとも目のやり場に困る。
マンガやドラマじゃ 見慣れてるけど 現実の光景だと 戸惑う。
この後 やっぱりホテルとか行って セックスしちゃったりするんだろうか…?
そんなところにまで 想像が広がって 目が泳いでしまう。
カップルばっか見てるって あきちゃんにバレたら恥ずかしいし 雲とか飛行機とか 目についたモノを 口にして カモフラージュする。
……でも どうせ あきちゃんにはバレてる。
あきちゃんは 何だってお見通し。
今 あたしが何考えてるかも あたしがエッチで はしたない子だってことも あきちゃんが好きだってことも みんなバレてる…。
…でもいいんだ。
隠す必要なんてない。
あたしは あきちゃんに身も心も捧げちゃったんだから…。
手を繋いで歩く大学生風のカップルとすれ違う。
あたし達もあんな風に カップルに見えてるんだろうか?
……いや 違う。
そうじゃない。
それは 昨日 見た夢。
さっき あきちゃんに〈綺麗〉って言ってもらってから 心が浮わついて 夢と現実の境があやふやになってる。
魔法にでもかかったみたいに 心に靄がかかっている。
なんか自然に手を繋いで歩いてるけど あたし達は 付き合ってるワケじゃない。
ってゆーか 電車の中はともかく 手を繋いで歩くのって 初めてかも。
好きな人と 手を繋いで歩いてる。
そう考えたら〈綺麗〉って言われてから ずっとドキドキしっぱなしの心臓が さらに速く脈打ち始める。
繋いだ手から 好きって気持ちがバレちゃうんじゃないかって心配になったり 好きって気持ちに気づいて欲しいって思ったり 頭の中がグルグル廻って 考えがまとまらない。
何もかもが混乱して不確か… そんな中で 唯一 確かなのは あきちゃんの手の温もり。
そして あきちゃんが好きだっていう気持ち。
何度も あきちゃんの手を握り直して それを確かめる。
ちゃんと好きだって伝えなきゃ。
あたしは好きだって思って繋いでるのに あきちゃんは 友だちって思って繋いでくれてる。
それは あきちゃんへの裏切り。
あたしの気持ちを ちゃんと伝えなきゃ。
気持ちがすごく焦る。
伝えなきゃって思えば思うほど 緊張して 喉の奥が干からびてヒリヒリする。
片想い専門のあたしに 告白する勇気なんてあるハズない…。
でも 伝えなきゃ 絶対 後悔する…。
考えは堂々巡りで 時間だけが 過ぎていく。
そんな時 あきちゃんが あたしの手をぎゅっと握ってくれた。
心の中に勇気が湧いてくる。
そう。
あきちゃんと出会って あたしが学んだこと。
『やらずに後悔するより やるだけやって後悔する方がずっといい』
でも 告白するのって やっぱ 勇気がいる。
あきちゃんに もう少しだけ 勇気をもらいたい。
立ち止まって あきちゃんを真っ直ぐ見つめて お願いする。
「ねぇ あきちゃん…。お化粧してくれてホントに ありがと。あのさ… もう1回 あたしのこと〈綺麗〉って 言ってもらっても いいかな…?」
あきちゃんは 少し不思議そうな表情を浮かべたけど あたしの真剣な気持ちに気づいてくれたのか あきちゃんも あたしのこと真っ直ぐに見つめながら ゆっくりと
「こんのさん スッゴく綺麗です」
って言ってくれた。
その言葉は お世辞でも 冗談でもなく あきちゃんのホントの気持ちだって 心から信じることができる。
心の奥がジーンと熱くなって 本物の勇気が湧いてくる。
フラれてもいい。
自分が正しいと思ったことをやるだけ。
一度 息を深く吸ってから 自分の気持ちを言葉に代える。
「あのさ あきちゃん。あたし あきちゃんのことが 好き。大好き」
あきちゃんは 一瞬 キョトンとした表情を浮かべた後 ニッコリ微笑んで言った。
「えへへ 嬉しいです。アタシも こんのさんのこと 大好きです」
それは あたしが予想してたのとは 全く違う あっさりした反応。
あたしがLoveのつもりで言った〈好き〉をあきちゃんはLikeって受け取ったみたいだった。
誤解を解こうとした その時。
「あの そ… キャァ……ッ」
ゴォっと 風鳴りの音。
一瞬 身体がよろめく。
あたしは とっさに押さえて無事だったけど あきちゃんのベレー帽は 宙を舞い 花壇の奥へと飛んでいく。
反射的に駆け出し 後を追いかける。
もうちょいで追い付くってとこで 2陣目の風が さらに奥へと吹き転がす。
その先には 大きな池と噴水。
昨日みたいに あきちゃんを ずぶ濡れにするワケには いかない。
さらに加速してダッシュ。
なんとか 池の手前で 水色のベレーを取り押さえることができた。
「すみません。ありがとうございます」
後から追いついてきた あきちゃんに 帽子を手渡す。
「スゴい風だったね」
「あー ホントに。 ビックリしちゃいました」
あきちゃんも 走ってきたらしく 少し息が上がっている。
水色のベレー帽を もう飛ばされないように グッと深くかぶり直す。
あきちゃんの長い栗色の髪が 海風にたなびき 夏の夕日を浴びて 黄金色に輝く。
4月 初めて会ったときも この黄金色の髪に見とれてたんだった。
今 思えば あの時 一目惚れだったのかも…。
風に邪魔されたけど もう一度ちゃんと好きだって気持ちを伝えなきゃ。
「…あ あのさ…」
ピピピッ… ピピピッ… ピピピッ
突然のアラーム音に 心臓が跳ね上がる。
それは 魔法の終わりを告げる 十二時の鐘。
突如 理性が戻ってくる。
ちょっと落ち着け。
さっき あたしはちゃんと〈好きだ〉って 伝えた。
でも あきちゃんは〈like〉って意味にしか思えなかったんだ。
賢いあきちゃんだから もし あたしのことそういう対象だって思ってたら ちゃんと〈love〉って解ってくれたハズ。
答えは どうであれ…。
「こんのさん そろそろ 開場の時間みたいです。すみません… 話の途中で。で 何のハナシですか?」
スマホを確認して ポーチにしまいながら あきちゃんが 訊ねてくる。
「あ ううん。何でもない。それよか いよいよライブだね。スゴく楽しみ。早く行こ?」
あたしは あきちゃんが好き。
でも あきちゃんは あたしのこと そんな風には思ってない。
たぶん 嫌われてはないと思うけど。
だから まずは 好きになってもらわなくっちゃ。
焦りは禁物。
そこからスタートだ……。
………。
……。
…。
to be continued in “part Aki 7/24 pm 6:29”
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