第5話 紺野さんとあきちゃん

part Kon 7/24 pm 2:23





 ……ヤバい。


 家を出る時間まで 30分 切ってる…。

 大急ぎで シャワーを浴び 汗を流す。

 

 中央体育館で行われた インターハイ出場をかけた県予選リーグ最終戦は 藤工が県商に快勝して 見事 インターハイ出場を決めた。

 

 応援のみんなと ファミレスでお祝いがてらランチしたんだけど ついつい盛り上がってしまって 家に帰ってくるのが ギリギリになってしまった。


 とはいえ 今日も真夏の快晴で 超暑かったし あきちゃんに会うまでに 汗を流しておきたい。

 やっぱ 汗臭い女の子なんて 嫌がられると思うし…。


 


 昨日の夜 気づいたあきちゃんへの想いは 朝 目が覚めても 変わってなかった。


 

 あたしは あきちゃんが好きだ。


 

 その気持ちに迷いは ない。

 ただ そっから先 あきちゃんに好きになってもらうために どうするか?って考えると 大混乱だ。

 

 恋愛経験 皆無のあたし。

 ましてや 女の子を好きになった経験なんてない。

 

 幾多の片想いの経験は あるけど 遠目に憧れて 何かの機会にカワイイって思ってもらえたら嬉しい……その程度。

 

 好きになった人と 2人でお出かけとか いきなり過ぎる気がする…。

 

 とはいえ あきちゃんには 何度も部屋にも上がってもらってるし 昨日なんか 一緒にAV見たんだよね…。

 

 片想いの相手との関係としては どーなんだ?

 考えれば考えるほど 混乱が広がっていく。


 ……いや そんなことで 悩んでる時間は 無い。

 

 さっさと髪を乾かして着替えなきゃ。

 待ち合わせに 遅れるのは なんにしても 最悪だ…。



 

 今朝 悩みに悩んで 選んだ勝負服は 白のショート丈の広襟Tシャツに 下は 黒の見せキャミ。

 そしてハイウエストのデニムパンツ。

 

 ……結局 いつもと 一緒じゃん。

 

 思わず 自分でツッコミを入れてしまう この状況。

 でも 可愛いスカートなんて一枚も持ってないし トップスも似たようなもん。

 

 一応 黒リボンのキャノチエかぶって オシャレしているんだって自分に言い訳する。

 靴もパンプスなんて持ってないから スニーカー。

 7月に おろしたばっかのヤツだから あんまり汚れてないのが唯一の救いだ。

 バッグもなくて 啓吾のデイバッグを無断拝借した。

 まあ 部活仕様のデカいリュックよりは マシ。

 

 ……だと思おう。



 今日の帰りは あきちゃん 車で迎えに来てもらうとかで 駅まで歩いて来るらしい。

 

 だから 待ち合わせは いつものYIN&YAN じゃなく 桜橋の改札口。

 走って行けばすぐだけど せっかくシャワー浴びたし 汗をかかずに行きたい。

 ちょっと余裕を持って出かけよう。

 


 下駄箱のところでスニーカーの紐を結んでたら 厨房からパパが声をかけてきた。


 

「おう 瞳。めかし込んでどうした? デートか?」


 

 ……絡み方がウザイ。


 

「うん。…じゃあね。行ってきます」


 

 冷たく受け流し 動揺するパパを尻目に さっさと家を出て 桜橋まで歩き始める。

 ママには あきちゃんとライブって言ってあるし 帰って来て説教ってことには ならないだろう。

 

 それに 今日は ホントにあたしにとっては〈初デート〉なんだ。


 ……いや〈デート〉は 違うか。

 

 デートって やっぱ 好き同士の2人が 特別な思い出を作る時間。

 

 あたしが好きなだけじゃダメ。

 あきちゃんにも 好きって思ってもらわなきゃ。


 うん。

 ここがポイントだな。

 あきちゃんに好きになってもらう。


 なんだろう…。

 

 トンでもないことのハズだけど なんだかできる気がする。

 なんてったって 昨日『もし男だったら交際申し込んでる』って言われてるんだ。

 

 もちろん冗談だったけど…。


 でも あたしのこと嫌いだったら 冗談でも言わないハズ。

 なんだか あきちゃんって 女子校行ってるからってだけじゃなくて 本気で男の子に あんまり興味なさそうなんだもん。

 

 昨日も『どんな男の子が好み?』って聞いたときも いまいちピンときてなかったし。

 もしかしてレズっ気あるのかも?


 あきちゃんにレズっ気…。

 

 そう考えたとき あたしの中で パズルのピースがパチッと嵌まった。


 

 もしかして あきちゃん あたしのこと……。


 

 そう。

 あたしは男子には 全くだけど 女子には モテる。

 中学んときは マジなラブレターもらったし 冗談で告白されたことなんて数えきれないほど。


 どうなんだろ?

 

 いっつも信じられないほど親切だし 美人とか可愛いとか めっちゃ褒めてくれたりするのは あきちゃんが あたしのこと好きなんだって思えば ある意味 納得できる。

 

 でも どーなんだ?


 今まで あたしのこと好きって言ってきた子たちは あたしのこと〈カッコいい〉 〈ハンサム〉とか そんな感じで見てた。

 王子様キャラ扱いだ。

 

 あきちゃんは あたしにそんなこと1度も言ってこない。

 あきちゃんは いつもあたしのこと ちゃんと女の子扱いしてくれる。

 そういうところが男の子っぽいって思うし そこが好き。


 でも もし あきちゃんが あたしのこと好きだとしたら やっぱりあたしに王子様的役割を求めてるんだろうか?

 ってゆーか そもそも あきちゃんにレズっ気があるかもってゆーのも あたしのこと好きかもってゆーのも 全部 if の話。


 確かなことは 何一つ無い。


 何をどー考えたらいいのか全く解らない。

 あきちゃんに会ったとき あたしは どんな顔すりゃいいんだ?

 それすら解んない…。


 ヤバい。

 桜橋の駅が 見えてきた……。

 ………。

 ……。

 …。

 



                        to be continued in “part Aki 7/24 pm 2:32”

 

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