part Aki 10/7 pm 11:00
手元のスマホが鳴動し 新着メッセージを知らせてくれる。
少し手を止め 休憩がてら ベッドに寝転び アプリを開く。
『あんまり頑張り過ぎたらダメだよ? あたしもお風呂行ったら寝ます。おやすみ~』
思った通り こんのさんからのメッセージだ。
頑張り過ぎてるのは どっちだよ…。
バレー部のキャプテンの仕事。セッターとしての戦術研究。もちろん 毎日の部活の練習とトレーニング。ファッションショーに向けてのエプロンドレス作りも山場を迎えてる。しかも ボクの分も 諦めてないみたいだ。学校の勉強も手を抜かない。
秋からの こんのさんの頑張りには 目を見張るものがある。
キャプテンを任されたこと レギュラーに定着してきてること。バレー命の こんのさんにとって 部活でみんなに期待されてる 成果が出せてるってゆーのが 張り合いになって これまで以上に バレーも バレー以外のことにも 一生懸命になってるってゆーのは 素晴らしいことなのは 解る。
だけど ボク的には なんだかオーバーワークな気がして スゴく心配。
昨日も11時に『おやすみ』ってメッセージくれたけど 今朝 会ったとき 物凄く眠そうだった。きっと昨日も12時回って1時前だったんじゃないかな…? 『部活休みだから 大丈夫 大丈夫』とか言って 無茶するから…。朝 話したとき 『今日は早く寝てくださいね』ってクギ刺しといたんだけど 大丈夫かな…。
しつこいけど『早く寝てくださいね』って送っておこう。
なんかママみたいに 口喧しい感じでイヤなんだけど……でも やっぱり 心配。
相変わらず ボクは こんのさんのことが好きだ。
好きでいることをやめることなんて できないんだろう…きっと。AYANO. さんのカミングアウトを聞いたときは 目の前が真っ暗になった。その時の衝撃は まだ続いていて まだ 何か暗がりにいるような気がする。世界がモノクロームになったような そんな気分。もちろん 視覚は色彩を捉えている。スマホの画面の背景は青色。部屋の壁紙は クリーム色だ。
でも 色彩がボクの心を捉えることは無い。
あの日 何度も こんのさんに ボクのことを伝えようと思った。
AYANO. さんみたいに 一番近しい一番信頼できる人に伝えて そこから世界を変える。でも ついに言葉にすることは できずに ボクは 帰りの車に乗ってしまった。
そして あの日からボクの世界は 灰色だ。
あの夜から 3日3晩 ボクは39度の高熱にうなされた。たぶん 小6で告白されたとき以来の高熱だ。あんまり覚えてないけど 色んな悪夢を見た。夢の中で『ボクは男の子』って 何度も叫んでた。それだけは 覚えている。
そして 熱が下がって 目が覚めたとき ボクは やっぱり〈女の子〉で 世界は 灰色のまま。
スマホに7月24日23:07の履歴が 残ってた。
『今日はライブ楽しかった ありがと~。大好き』
ってゆー こんのさんのメッセージ。
3日間も未読になってたんだから こんのさん心配しただろうなって思って 高熱が出てたことを伝え 謝罪のメッセージを送った。その日以来 23時ごろに〈おやすみ〉のメッセージを送り合うのが 新しい日課になった。昔 お互いに〈おやすみ〉のメッセージを送り合えたらいいなぁって考えてたことがあったけど 実際 そういう関係になってみると 普通の〈友達〉に一歩近づいたっていう風に感じる。もちろん親しくなったってことでは あるんだけど 想像してたような心踊る感じでは ないかな…。
普通の〈友達〉って言えば 朝 手を繋ぐのも 最近は やって無い。
9月の初め 久しぶりに一緒に列車に乗る時に『まだ 心配だから そばにはいて欲しいけど 手は繋がなくても 大丈夫かも』ってことで その日は繋がなかった。まだ 不安になる時は あるみたいで 手を伸ばしてくるときもあるけど ここ2週間は 一度も手を繋いでいない。寂しくは あるけど こんのさんの心が立ち直ってきてるってことなんだから これも喜ばないといけないハズ。
もう1つ変わったことは こんのさんが お化粧するようになった。
7月の時点では『お出かけくらいは お化粧してみようかな…』とか言ってたんだけど 9月に なって 朝 会ったとき いつもと表情が違うなって よく見たら 目元に微かにピンクのシャドウ。ホント〈おまじない〉程度だけど スゴく嬉しかったし めっちゃ褒めた。こんのさんも 嬉しそうにしてた。
でも 2~3日して 気がついたんだ…。
こんのさんが 学校にお化粧して行くようになった理由。
電車の中で 手を繋がなくなった理由。
それは たぶん
〈好きな人ができた〉から…。
そう思うと 近頃 時折 見せる物思いに沈んだような姿も 納得がいく。駅のホームで列車を待つ時 秋の柔らかな朝日の中で見る物憂い表情。ボクの胸を締め付ける あまりに美しい こんのさんの伏し目がちの睫毛。
恋は 女の子を綺麗にする。
こんのさんを 最高に綺麗にしたのは ボクの〈おまじない〉なんかじゃなくて 未だ見ぬ どこかの〈男〉。
最近のスゴい頑張りも それが理由なのかな?
オーバーワーク気味なのを心配してるのも そんなヤツのために頑張ることないのに…ってゆージェラシーなのかも。4月に約束した『上手に一人で歩けるようになるまで ボクが支えます』ってゆー誓いも そろそろ 終わりの時が近付いてきているらしかった。こんのさんは もう一人で上手に歩けるし 支えて欲しい人間も もうボクじゃないんだ…。……いや 初めから 〈ボク〉の仕事じゃあないな…。こんのさんを支える仕事を〈あき〉から その〈男〉に譲らなきゃならない。
こんのさんの口からは〈好きな人ができた〉って話は まだ聞いてないけど それも もうすぐだと思ってる。一昨日は 試験準備期間ってことで 桜橋の七海堂で〈学校帰りのお茶〉をした。正確に言うとウチは 試験返却期間 かつ文化祭準備期間だったんだけど。お互い 部活や文化祭の話をして 楽しかったけど 1時間ちょっと話して あっさり帰った。なんか ホント 普通に友達って感じ。今度の金土日は 聖心館の文化祭。こんのさんは 県外の高校と練習試合があるらしく 土日は 両方無理らしい。何度も何度もゴメンねって謝ってくれてた。その代わり次の次の日曜日に会う約束をした。その日は ちょうどボクの誕生日。こんのさんは 1日オフらしいし ゆっくり話そうってことになった。きっと その時だろう…。
ただ 7月の時みたいに 取り乱したり 絶望的な気分になったりは しない。その代わりにボクは この2ヶ月の間 あることに没頭していた。
……それは こんのさんの絵を描くこと。
7月にお化粧してあげた時 撮った写真を元に 描いてる。色々構図を考えたけど 結局 こんのさんの眼を描くことにした。正確には 左目を中心に 鼻の上 前髪の下辺りまで。F12の大きめのキャンバスの中央に 高精細画の技法で 色は ほとんど使わずモノクロ。
題名は『瞳~hitomi~』。
ベッドに寝転んだまま 部屋奥のイーゼルに立て掛けたキャンバスに目をやる。ほとんどのパーツは描き上がり 残すは 左目の光彩と写り込み…。それも ほぼ納得の仕上がりだ…。
高精細画は 物凄く時間がかかるから 色は 使わずモノクロにした。
今のボクの気分にも合ってるし…。それでも 8月の頭に構図決めてから 約2ヶ月 毎日3時間以上(休みの日には9時間越えた日もあった…)描き込み続けてやっと 形になってきた。こんのさんの 瞳を毎日見つめて(〈瞳〉ってゆーのは こんのさんのファーストネームでもある…)一筆ずつ 対話を重ねていく それは ゆっくりと こんのさんへの想いを 絵に塗り込めていく作業。
真っ直ぐこちらを 見つめる瞳は 一筆ごとに 笑いそうになったり
次 泣きそうになったり。あの豊かな表情になる一瞬手前の瞳をキャンバスに留めたい。気がつけば 今日も 3時間近く イーゼルに向き合っている。
でもそれも今日が最終。
明日から文化祭。実のところ ボクも 文化祭に向けての聖歌隊の発表練習に 聖歌隊やクラス展示のポスター制作も抱えてたし……結構 オーバーワーク気味。
昨日 ボクが寝たのは 実は2時前。
正直 こんのさんに『早く寝ろ』とか 偉そうに言える立場じゃ無い。限界まで起きてて 気絶するように ベッドに倒れ込んだ。でも そーでもしなきゃどうしようもないんだ。やらなきゃいけないことだらけって以上に 切実な理由がある。……そう。早めに寝たりしたら 夢を見る。
こんのさんの夢を。
優しかったり エッチだったり 色々だけど 息づかいまで 伝わってくるリアルな夢。目が覚めると ボクはボロボロ泣いてて 枕は ぐしょ濡れ。そして 悔しくって情けなくって 大抵 もう一度泣く。
要は 潜在意識じゃ未練タラタラってこと。こんのさんのことを愛してるし 彼女が幸せならボクが報われなくたってかまわないって思う気持ちに嘘は ないけど それでもやっぱり ボクは こんのさんが好きなんだ。
睡眠不足と疲れと未練のせいだと思うけど ボクは最近 よく自殺を考える。首吊りたいとか 列車に飛び込みたいとか 具体的に考えてるワケじゃない。ただ こんのさんに好きな人がいるって話を打ち明けられた時に 〈ボクは 実は男で ずっと愛してた〉って 彼女に伝える。そして永遠に彼女の前から消える。
そんなことを夢想したりする。
ボクの誕生日まで あと十日。
そのとき ボクは彼女の前から消えることが できるんだろうか…?
それとも前決めたみたいに笑顔でおめでとうって言ってるんだろうか…?
………。
……。
…。
to be continued in “part Kon 10/7 pm 11:00”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます