【WEB版】転生したおっさんは異世界の訳あり幼児達とキャンプしながら笑顔にしてあげます

第23話 異世界不思議材料で作る異世界ピザ

　子供達が公園で遊んで、すっかり空が夕焼けに染まった。

　これから向かうのはいつも泊っている宿屋――――ではなく、スグラ町の外だ。

　実は宿屋は昨日までの契約だった。もちろん、延長する選択肢だったあったけど、今日はせっかくなので、野宿をしようと思う。

　そもそも普段から移動中に野宿しているのに、なんでわざわざかというと、町の中はレイラ達にとって気を楽にして休める場所じゃないと知った。

　ならば、魔物避けもあるキャンプの方が良いとまで考えた。

　ただ、町の近くなので、魔物ではなく誰かに教われる可能性もあるのが玉に瑕（きず）だ。

　早速町近くの森の奥深くに入り、キャンプを設置する。

　森の中というのもあって、入った時から少し暗かったけど、いまではすっかり暗闇の中だ。

　キャンプのランタンを全て点灯させる。

　周りの木々がランタンに照らされて、森に抱（いだ）かれるような温かみを感じる。

　俺が何も言わなくても、子供達が次々準備を進める。皿、鍋、鉄板から焼き網まで。何でも使える状態にしてくれた。

「今日は鉄板を使おう。鍋はシアに任せるよ」

「は～い！」

　シアは慣れた手つきで、調味料袋からいつものコソメの葉っぱを取り出して、鍋でお湯を沸かして葉っぱを入れる。

　一番飲まれるコンソメ風スープは、日本の味噌汁並みに今ではなくてはならない恋しい味だ。

　俺が作るのは、俺の腕くらい太いソーセージだ。それを細く切るとサラミソーセージのように薄いものができる。

　次は売っていた大きなパン。薄っぺらいこのパンは前世のナンを想像させる作りになっている。名前は特になくて、まとめてパンと呼ばれている。薄広いパンと呼ばれていた。

　それを弱火で温めた鉄板に置く。

　次にやるのは、トレットの実という実を取り出す。前世でいうミニトマトそのものだ。

　トレットの実といくつかの調味料をボウルに入れてすり棒で丁寧にすりつぶしていく。

　少し雑だが、できたのは即席トレットソース。ケチャップそのものだ。

　温めてるパンの上にトレットソースをたっぷり塗っていく。そこに先程切ったソーセージを散らせる。

　もうこの時点で何を作っているのか分かると思う。これは前世で誰もが大好きな――――ピザだ。

「美味しそうね」

　レイラ達が準備を終えて、鉄板の中を食い入るように見つめていた。

「楽しみにしとけ？　めちゃくちゃ美味しいから」

　次は野菜を細めに切って散らす。

　うん。どこからどう見ても美味しそうなピザだ。生地はナンだけど。でもそれが却ってピザ感を増してていい。

「さて、最後の仕上げが残ってるな」

　次に取り出したのは、片手にすっぽり収まるくらいの実を一つ。

　色は茶色で、リンゴみたいな形をしているが、皮はゴワゴワしていて、とても美味しそうには見えない。形だけなら、小さなヤシの実みたいな形だ。

　こちらの実の名前はチーザの実。

　俺がこの世界で出会った実の中で最も驚いた実で、最高に美味しい（・・・・）実だ。使い方次第で。

　皮に包丁で切れ込みを入れて、手でビーっと引っ張ると気持ちよく引き裂かれる。

　中に見えているのは――――肌色の得体の知れない何か。

　皮を全て剥き終わったら、取り出したチーズグレーターで擦り付ける。

　パラパラと粉のようにグツグツと上がっているトレットソースの中にたんまりと降らせる。

　赤色と肌色が回り合って、さらに香ばしい匂いが回りに広がる。

　子供達も思わずつばを飲み込んだ。

「よし！　チーザ大盛りピザの完成だ～！」

「「「わ～い！」」」

　アツアツのピザを広い木製皿に移して、テーブルに持って行く。

　キャンプに前世の道具は何でもそろっているので、ピザカッターを取り出して切れ目を入れる。

　八等分になったピザの前で手を合わせる。

「「「「いただきます」」」」

　最初に俺が食べ方を見せる。

　欠片の一つを手に取って、真上に引き上げると溶けたチーザがびよ～んと伸びる。

　それを見て笑顔に染まるアレン達。味だけでなく視覚でも楽しませてくれるのが、ピザの良いところだ。

　ふ～っと息を掛けて少し冷ましたら、口の中で頬張る。

　口の中に広がるトレットソースの爽やかな酸味と深い甘味。後を追うかのように風味を主張するチーザ。噛む度に新鮮な旨さを出す野菜達。トドメは丸く切られた薄いソーセージから溢れる旨い肉汁が協奏しながら、口の中でハーモニーを繰り広げた。

「う、うめぇ～！」

　俺の声に我に返った子供達が、身を取り出してピザを手に取った。

「熱いから気を付けろよ～」

「「「は～い！」」」

　それぞれピザの欠片を両手に持って、ふ～ふ～と息を吹きかける姿がまた可愛らしい。

　子供に取ってピザの一欠けらがとても大きい。

　みんなは少し冷ましたピザにがぶっとかぶりついた。

「「「ん～！　美味しい～！」」」

　森の中に俺達の嬉しそうな声が響き渡った。