第27話 新しい家族

「飼いたいっ!」


「飼えたらいいなぁ……」


「飼いたいんです!」


 三人が同時に言い寄ってくる。


 アレンの腕の中にある白くてふわふわした子犬と、シアとレイラが両前足をそれぞれ抱きしめたまま、俺に圧力を送ってくる。


「みんなの言いたいことは分かる。でも飼う・・というのがどれだけ大変なのか、ちゃんと理解しているのか?」


 そう話すと、みんなが「しょぼん……」な顔になった。


 こういう時の連携力はさすがだ。


「あのな……そもそもさ。白犬の意思もあるだろ? 野良の犬なんだから人に飼われたいと思わないだろうし……」


「ワフッ」


「ほら! 飼われたいって!」


 いやいや……レイラだって犬語は分からないって言ったじゃないか。


「このつぶらな瞳を見れば、伝わってくるの!」


「目、見えないよ!」


 白い毛に覆われてつぶらなのかどんな目なのか見えないぞ!?


「アラタ…………犬って嫌いなの?」


「そうじゃなくてな」


 俺はゆっくり近づいてシアとレイラの頭に優しく手を上げた。


 手がもう一本あったらアレンにもしたけど、視線だけアレンにも向ける。


「命には意思があるんだ。だから飼いたいと言われて、じゃあ飼っていいぞと答えるほど、命を預かるって簡単なことじゃない」


「……おじさん。それって私達も?」


 シアが痛いとこを突く。でもそれもまた事実だからな。


「正直に言えば、その通りだ。ただ俺と君達では条件が違う」


 白い鎖を発現させる。触ることができない透明で白い鎖――――【命の鎖】だ。


「ただ、一つ言えることは、俺はこれがなくても君達と一緒にいたと思う。不憫だからという理由もないといえば嘘になる。でも君達が一緒にいてくれれば、俺も生活が楽になる。三人とも本当に凄いからな。料理も準備も狩りも何から何まで手伝ってくれるし、何より――――」


「何より?」


「みんなも俺を助けてくれるから。お互いがお互いを必要としているからな。誰彼構わず助ける程、俺は優しい人間でもないし」


「そうかな? 誰彼構わず助けるよね?」


「い、いや、そんなことはないと思うぞ……」


 多分。


 というか、元々誰かを救うなんて言える人間じゃないしな、俺って。


 …………多分。


「言いたい事がぐちゃぐちゃになってしまったが、俺が言いたいのは、片方だけの意思と思いだけで、命を預かるのはダメってこと。みんなと一緒にいたい。みんなと家族になりたいと思わない限り、一緒に住むのはダメだ」


 すると、どうしてかレイラは顔がぐしゃっとなるくらい笑顔になった。


「やっぱり……アラタって優しいね。うん。飼うじゃダメよね」


 レイラが大型犬に向く。


「ねえ! 私達と家族にならない? ご飯はアラタが何とかしてくれるから! だから、私達と一緒に住まない?」


 俺が何とかか……と言っても、狩りは殆どレイラ達が行ってるから、彼女達のために使うと決めている。彼女達の意思がそうなら、俺としてもう言うことはないな。


「ワフッ」


「ワンワン!」


 子犬がものすごく嬉しそうに飛び跳ねる。


「やった~!」


 アレンも子犬と一緒になって跳びはねる。


 な、なんだこの可愛い生物達は…………異世界に来てもう数十日は経過したというのに、前世のストレスが全て浄化されるかのようだ……おぉ……癒される……。


「アラタ! やっぱり、一緒に暮らすって言ってるよ!」


「本当か? まあ、ちゃんと伝わってて、白犬達もそれでいいながら、俺も賛成だぞ」


「「「やった~!」」」


 三人が喜んでる隙に、大型犬が俺に飛び込んできた。


「ぬわっ!? や、やめ――――はぁ……俺はこういう待遇なのな」


 大きな舌で顔をベロっと舐められる。


「じゃあ、家族になったわけだし、名前を教えてくれるか?」


 そう聞くと、白犬は首を横に振った。


「もしかして名前ないのか?」


「ワフッ」


「そうか……じゃあ、みんなで名付けてあげよう。名前がないと呼びにくいからな」


「「「名前~!」」」


 白犬……しろけん……白子……しろこ……しらこ…………ダメだ。絶望的にセンスないわ俺。


 こういうのは子供達に任せるに限るか。


「う~ん。白くてふわふわして大きい……」


「つぶらな瞳で小さくて可愛い……」


 シアとアレンがそれぞれの犬達の顔をじっと見つめた。


 一生懸命に考える二人がまた可愛らしい。


 レイラは今回は見守る側になるようだ。


「クウちゃん!」


「マルちゃん!」


 沢山食べるってところから「食う」が出たんだな? 子犬は丸いからきてるんだろうな……。


「ワフッ」


「ワンワン!」


 喜んでるみたいだな。大丈夫そうだな。


「よし、それでいこう。大きい母犬はクウちゃん。娘はマルちゃんだな」


「あれ? アラタ? 女の子って分かってたの?」


「へ? そう言われてみれば、どうして知ってるんだろ?」


 何か不思議な感覚だ。


 なぜか彼女達が雌だって分かるんだよな。


 ともあれ、無事名前を付けて、俺達に新しい家族が増えた。


 クウちゃんとマルちゃん。


 とても頼もしい番犬だ。

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