第26話 白犬

「レイラ。大丈夫か?」


「大丈夫……じゃないかも……」


 全身から大きな汗を流している。見るからに辛そうだ。


 レイラが作ってくれた闇の大剣だが、思っていた以上に消耗が激しそうだ。


「ありがとうな。おかげで勝つことができた。あとは俺達に任せてゆっくり休んでな」


「うん……」


 小さな体を抱きかかえて、お姫様抱っこをする。


 レイラは弱った体のまま、目を閉じてじっとする。


「アレンもナイスだった。シアも守ってくれてありがとう」


「「は~い!」」


 アレンの両手の中には、白くてふわふわした子犬が抱きかかえられている。


 後ろから足音が聞こえてきて、白い大型犬が近づいて来た。


「お前さんの子供なんだろ?」


 そう話すと、「ワフッ」と返してくれたが、やっぱり犬語は分からない。


 シアとアレンも何を言っているのかは分からないようだ。


 アレンが子犬を地面に置くと、少し惜しそうにアレンを見上げた後、大型犬に向かって走り出した。


 足元に着いた子犬を、大きな舌でべろっと舐める大型犬。その姿がとても愛くるしい。


「それにしても、まさかキメラ魔物と遭遇するとはな。やはり、あの魔物はあっちこっちで現れるんだな」


「普通の魔物と違って、体から黒いもやが出てましたね」


「そうだな。アレンはあれが何か分かるのか?」


「いいえ。でもアラタさんと戦っているところを見ると、あれは魔素とは違う気がします」


 魔素とは違う……何か別な力ということか?


 アレンはこの世界にとって正式な【勇者】だ。そんなアレンが言うのなら間違いと思っていていいだろう。


「さて、ひとまず戦いは終わったが…………犬達はどうしよう」


 と、次の瞬間、俺の体の後ろをずっしりと重みが襲う。


「ぬわっ!?」


「ワフッ」


 白い大型犬が俺の背中に寄りかかった。


 身体能力値とかがなかったら、耐えられなかったかも知れん……。


「どうした? 白犬?」


「ワフッワフッ」


「わ、分からん……」


 大型犬は、大きな舌で俺の顔をベロっとなめまわした。


「おじさんが舐められてる~! あははは~!」


 それを見たシアが大声で笑う。


 きっと助けてくれてありがとうと言いたげだな。まあ、そういうことにしておくか。


 子犬はやっぱりアレンが気になるようで、アレンの足にすりすりしている。


 あっちは可愛くていいな……まぁ大人には大人の魅力があるさ。


 顔を舐められて唾が大変なことになっているので、焼け野原になった森の傍にキャンプを作る。


 すぐに水場で顔を洗うと、子犬がやってきて水を飲み始めた。すると、大型犬も一緒に水をがぶ飲みする。


「喉乾いてたのか。お腹空いたなら肉でも焼こうか?」


「ワフッ」


「うわっ!? 分かったから舐めるのはもう勘弁してくれ」


「ワフッ」


 こいつ……ずっと「ワフッ」しか言わないけど、違う鳴き声はないのか? 子犬は「キャンキャン」とか「ワンワン!」とか色んな鳴き声で、アレンにアピールしているのに。


 椅子で休ませていたレイラが目を覚ます。


「レイラ。果実水だ。飲めるか?」


「うん。だいぶ良くなったわ」


 元気になったレイラが果実水を飲む。


「お犬さんも無事で良かった」


「やっぱりあの犬が気になったのか?」


「う~ん。よく分からないけど、山の上から変な感じがしたから、それがお犬さんだったのかもね」


「聞いたか? 白犬。レイラが気にしてくれなかったら、危なかったぞ? ちゃんと感謝しとけよ?」


 そう話すと、大型犬はレイラに近づき、自分の頭をレイラに優しく擦り付けた。


 ……俺ん時はべろべろ舐めたのによ。


「このもふもふ……ふかふか~シアちゃんもおいでよ~」


「うん!!」


 シアも大型犬にもふっと突撃する。


 まあ……子供達が嬉しそうならいいか。


 せっかくキャンプを設営したんだから、お昼飯にしよう。


「なあ。白犬。お肉食えるか?」


「ワフッ」


「食べれるって」


「えっ……? 分かるのか?」


「分からないけど、多分そうだと思う」


 まあ、余ったら食糧庫に入れておけばいいしな。


 大きなお肉の塊をスライスして鉄板で焼いていく。


 事前に作っておいた醬油に近いソースをかけると、より香ばしい匂いがふわりと広がる。


「さあ、できたぞ。白犬達の分もあるからな」


 地面に大きな皿を二つ用意して、大型犬と子犬の分を置く。


 シアとアレンが一生懸命に息を吹きかけて冷ましてあげると、二匹の犬がむしゃむしゃとお肉を食べ始めた。


 お腹が空いていたのか、かぶりつきがいい。


 俺達もそれを見届けて自分達の分を食べ始めた。


 俺は大型犬がどれだけ食べるか分からないから、もう少し焼きながら食べる。


 大型犬は見た目通り、凄まじい量のお肉を食べた。


「ワフッ」

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