第25話 才能の力と協力する力

 体の奥から溢れてくる力を感じながら、白い大型犬に対峙するトカゲに向かって飛び込んでいく。


 あまりの速さに自分の意識がまだ追いつく前に、反射的に右拳をトカゲの体に叩き込んだ。非常に硬い鱗の感触はあったが、トカゲが木々を何本か折りながら大きく吹き飛ぶ。


「悪いな。うちの子供達がお前さんを助けて欲しいというから、横から邪魔させてもらったぞ」


 言葉が通じるかは分からないけど、ひとまず事情を説明しとく。


 毛がモコモコして目は見えない。が、毛の中から俺をじっと見つめる視線は感じる。


 次の瞬間、吹き飛んだ側から強烈な黒い爆炎が放たれた。


 俺を守るようににて前に立った大型犬は、全身に淡い緑色のオーラを放つと、暴風の魔法を口から放った。


 黒い爆炎と緑の暴風がぶつかり、混ざりあって凄まじい勢いで周囲に広がっていく。


 当然、木々も全て吹き飛んで森だった部分は焼け野原になった。


「俺も手伝う。なんか使えたりはしないが、殴るくらいなら少し慣れてる」


「ワフッ」


 さすがに犬語は分からないが、「いいだろ」と言った気がする。


 火を吐いたトカゲが、今度は猛スピードでこちらに向かって走ってくる。大きいだけあって、走るだけで地面が揺れる。


 大型犬の前足に不思議なオーラが灯り、突っ込んできたトカゲを蹴り飛ばすが、トカゲの勢いを殺すことはできず、子供達の方向にまで突き進められた。


 その時、トカゲが進む進路が子供達ではなく、とある方向な気がした。


 念のため、俺も急いで参戦してトカゲの体を横から殴ると、また大きく吹き飛んで大きな岩にぶつかった。


 それでも鱗が硬すぎて傷一つないトカゲは、またよや奥に向かって走り始める。


 一体トカゲはどこに向かって……?


 その時、トカゲが向かう先に一匹の――――小さな白い犬が見えた。


「っ!? シアああああ! その犬を結界に入れてくれ! アレン! 全力で保護だ!」


「「了解!」」


 全力でトカゲの尻尾を掴み、その背中を大型犬が強打する。


 トカゲを止めている間に、全力のアレンが子犬を抱きかかえてシアの所に戻り、再度結界を張った。


 だが、正直今のままではよくない。トカゲを止めることはできても、ダメージを与えることは今の俺ではできないし、大型犬もできない。


 攻撃は大したことがないが、防御力は桁違いに高い。前回戦った熊型キメラと違って、今回のトカゲキメラは防御特化型のようだ。


 何とか……トカゲにダメージを与えないと、このままジリ貧で子犬だけでなく子供達だって危険な目に合う。


 なんとか……方法が…………。


 ふと、熊型キメラと戦っていた時のことを思い出す。


 あの時に使った力は〖身体強化〗ではなかった。新しく開花した才能【絆を紡ぐ者】という力で、才能【魔王】を使った攻撃だった。



《才能【勇者】を確認しました。》



 前回はレイラの力魔王だった。今回はアレンの力勇者だな。


 俺が思い描く【勇者】というもの――――今のアレンにも重なるそれを思い描く。


 一気に思考速度が加速して、何をやるべきか最適解を導き出す。


 そして、それを実行に移す。


「レイラ! 魔法で大きな剣を作れるか!?」


「えっ!? つ、作れるわよ!」


「では大剣サイズの剣を作ってくれ!」


「分かった!」


 魔法を唱えたレイラ。俺の後ろに禍々しい紫色の大剣が逆さで地面に刺さった。


 トカゲを大型犬が抑えているうちに、大剣に飛び込んで右手で抜く。


 ずっしりとした重さが右手を伝うが、〖身体強化〗のおかげなのか、片手でも十分に振り回せそうだ。


「白犬! 行くぞ!」


 声をかけて、先にトカゲの前足を狙う。


 全速力で走って飛び込んで斬りつけながら通り過ぎた。


 直後、ブシュッと音が響き、トカゲの痛々しい鳴き声と共にどす黒い血液が弾け散る。


 右前足の次は、左前足を回転斬りで斬りつける。


 剣術なんて初めてだけど、不思議とどうやって動かせばいいのかが分かる。これも【勇者】の力なんだと自然と理解できた。


 まるで剣を使った舞のように、俺は体を滑らかに動かし、背中に生えているトカゲの頭部を切り落とした。


 さらに次々急所を狙って攻撃の手を休めない。


 大型犬が抑えていたトカゲの暴れていた体は次第に動かなくなり、禍々しいオーラが空高く弾け飛ぶのが見えた。


 そして、俺が持っていた大剣が消え、遠くで全身汗びっしょりのレイラが息を上げながら親指を上げるのが見える。


 もちろん、俺も親指を上げて応えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る