第28話 魔力安定水晶

 クウちゃんとマルちゃんを連れて町に戻ってきた。


 入口が何だか騒がしい。


「お、お前さん達! 無事か!」


「はい?」


 衛兵が慌てて俺達に近づいてくる。


「ええ。なんの問題もありませんが……?」


「それならよかった。さあ、西の山では何か強そうな魔物同士が縄張り争いをしているみたいだから、しばらくは近づくなよ!」


 西の山……? 強そうな魔物同士の争い……?


 チラッと見たクウちゃんは見えない目で知らんぷりをしている。


 いや、犯人はお前だろ…………まあ、いっか。


 クスクス笑うシア。クウちゃんとマルちゃんを連れて中に入った。


「先に宿屋を借りてしまおうか」


「じゃあ、私達はこのままダンジョンに向かうよ」


「ん? 大丈夫か?」


「クウちゃんがいるから大丈夫。ね? クウちゃん」


「分かった。宿屋を取ったらすぐに地下ダンジョンに向かうよ。クウちゃん。頼んだ」


「ワフッ」


「おう」


 レイラ達と別れて、俺は宿屋に向かった。


 中に入ると、相変わらず巨大なそれをテーブルに置いて、妖艶な笑みを浮かべるおかみさん。


「あら~お帰りなさい~」


「どうも。また三日滞在します」


 同じ部屋をまた三日借りて、迷惑かけない犬が増えたことを伝えて了承をもらってから地下ダンジョンに向かった。


 外の騒ぎがあったからか、ダンジョンには人が非常に少ない。


 それにしても…………今回別れて正解だったかも知れない。


 ここ数日、ずっと俺達を付いて回る連中がいる。大体どこの誰だか察しは付いているけど、確証も被害もないんで放置していた。


 狙いはやはり…………。


 ダンジョンを進み、戦いの音を頼りにレイラ達を探す。くねくねしたダンジョンの道、そんなダンジョンでも時折少し広い間が現れる。


 レイラ達はいつもの作戦でスケルトンと戦っていた。


 それを後ろから眺めるのは――――


「またお前らかよ」


「なっ!?」


 こうしつこく引っ掛けてくるのはこいつらだけだな。遠くから煙たがる冒険者はいても、直接何かをするのはこいつらだけだ。


「それで、俺達に何か用か?」


「クソが……! 貴様なんてどうせ魔族に力を貰って強くなっただけの、人として最低クズ野郎だろうが!」


 言い得て妙だが、確かに俺はレイラから力を貰ってる・・・・・・。俺の才能で使う力もそうだが、今回トカゲとの戦いでもレイラの力はいっぱい借りた。でもそれは誰かを傷つけるためではなく、助けるためだし、こいつらが言っている「貰った」とは全然違うはずだ。


「そもそもお前達は魔族だとか言いながら、か弱い女の子をイジメる最低野郎じゃねぇか」


「ふざけるな! あの魔族が大人になったら、何人もの人を殺すと思ってるんだ!」


「多分、0人」


「そんなわけあるか!」


「そもそもまだ起きてもない事を、さもそうなるに決まってるみたいな言い方はやめてもらおう。うちの子達はわざわざそんなことをするような子じゃない」


「そんなこと……だと! 貴様は同じ人として、最低裏切りクズだ! あの帝国の皇帝と一緒なんだ!」


 四魔貴族とかいう最強魔族四人を従えた皇帝が築いた国だったな。中には皇帝が操られているという噂もあるとかなんとか。


「仮に四魔貴族とやらが酷いとして、悪いのはそいつらでうちの子が悪いわけじゃねぇ」


「魔族はみんな一緒だ! あいつのせいで……この町ももう崩壊するんだ!」


 ……ん? 崩壊?


「きひひひ。そうだ。貴様が悪い! あんな魔族なんかに手を貸すからだ!」


 ん? よくよく見ると、こいつの目。瞳孔の部分が淡く赤色に光っている。


 ――――次の瞬間。


 冒険者達は懐から何かを取り出して、地面に叩きつけた。


 パリーンと硝子が割れる音が聞こえてくる。紫色の水晶を地面に叩きつけたのだ。


「きひひひひ~! 貴様らもろとも死ねええええええ!」


 今度は殴りかかってくる。


 相変わらず直線的な動きなので、対策は何一つ難しくなくて、投げ飛ばす。


 さて……問題は、こいつらより、こいつらがやったことだ。何かを割った……?


「アラタ!」


「レイラ。こいつらが変な水晶を割ったんだ。何か分かるか? この水晶」


 欠片を手に取ってレイラに見せると、顔色が一気に変わる。


「こ、これって! 魔力安定水晶! しかも、三つも!?」


 レイラの反応と名称を聞いただけで、それが何を意味するのかすぐに理解できる。


「みんなクウちゃんの背中に乗れ! 急いでダンジョンから出るぞ!」


 俺達は全力でダンジョンから外に向かう。


「あの水晶は、周囲の魔力を安定・・させる効果があるんだけど、割れることで安定させていた魔力を逆に狂わすことができるの! 外に使ったらまだマシだけど、ダンジョンで使うとなると……大変なことになっちゃう……」


「くっ……魔物が押し寄せる的なことが起きるのか?」


「うん……! 魔物は魔力から生まれるから、魔力が溢れて、強い魔物がたくさん生まれてしまうの!」


「こいつら……大変な事をやってくれたな……!」


 そのままするわけにもいかず、クウちゃんの背中に乗せている。


 朝の一件のおかげか、ダンジョンに人が全くいないのが功を奏して、俺達が外に出るまで誰一人に出会わなかった。


 ダンジョンから逃げるように出た直後、衛兵が見えた。


「衛兵さん! 大変な事が起きる! ダンジョンの中で【魔力安定水晶】が割れた・・・! しかも三つも!」


「ん? 魔力安定水晶?」


「アラタ! それは魔族にしか伝わらないと思う!」


 くっ……。


「分かった。レイラとアレンはクウちゃんと冒険者ギルドに! シアはここで一緒にくれ」


「「「了解!」」」


 クウちゃんが二人を乗せて冒険者ギルドに走った。

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