第29話 スタンピード

「おいおい。一体何があるってんだ?」


 衛兵が情けない声を出す。


「これからダンジョン内部から、魔物が溢れてきます!」


「は……? 何を馬鹿な……魔物は生まれる数が決まってて、ダンジョンの外に出ることなんて滅多に…………」


 その時、町全体が揺れ始める。


 激しい揺れではない。が、大勢の何かが近づいてくる地の揺れ。


「まずいな……シア。結界って衝撃の大きさで受けるダメージってあるのか?」


「う、ううん。結果は強制的に止めるから、ダメージはないよ?」


「じゃあ、この玄関を結界で覆えるか?」


「分かった! やってみる!」


「全方面からも入れないようにシアを中心に張ってくれ」


「あい!」


 シアがダンジョン入口で【防御結界】を張る。


 半透明で綺麗な防御結界はダンジョン入口を扉のように綺麗に塞いだ。


 俺がシアの後方・・まで覆うように指示したのには理由がある。


 レイラが言っていた水晶を何故冒険者達が持っていたかが明らかになっていない。その理由がもし・・町の中に犯人がいるのなら、シアが狙われる可能性もあるからだ。


 地鳴りはますます大きくなって、ダンジョンの奥から爆音と共に、無数の魔物が入口に向かって突撃してくた。


「ま、魔物だああああああ!」


 周囲の人々が叫ぶと、大勢の人がダンジョン入口から逃げ始めた。


 目を大きく見開いて固まっている衛兵を呼び起こす。


「衛兵さん! とにかくこれを上に知らせて来てください! 冒険者ギルドはうちの子供達が向かいましたから!」


「わ、分かった!」


 あたふたしながらも衛兵の詰所に向かって走る。


 このまま時間稼ぎになればいいが、シアが結界を張り続けられる時間はそう長くない。


「シア。辛くなったらすぐに教えてくれ」


「う、うん!」


 目の前の凶悪な形相の魔物に睨まれるシアは、毅然とした態度で結界を張り続けた。


 レイラとアレンの覚醒。きっとその姿を後ろから眺めていたシアだからこそ、自分の力も信じて突き進むと覚悟を決めたのだろう。


 後は冒険者達が来るまで、ここを死守する。


 ◆


 十分後。


 シアの頭から大量の汗が流れ、少し息も荒くなってきた。


 その時、満を持して、冒険者達が大勢やってきた。


「ダンジョンから魔物が!」


「急いでバリケードを作ってください。このままでは無数の魔物が溢れ出ます!」


「わ、分かった!」


 リーダーと思われる冒険者に伝えると、みんな慣れた手付きでバリケードを設置し始めた。


 シア……もう少しだ。頑張れ……!


「シアちゃん! アラタ!」


「レイラ! アレン! よくやってくれた!」


「中々頷いてもらえなくて……受付のお姉ちゃんのおかげで何とか来れたよ」


「感謝しなくちゃな……! それより、シアがそろそろ限界だ。結界が途切れた瞬間、俺が飛びこんでシアを助ける。アレンは無理しない範囲で迎撃を。レイラとクウはシアを守りながら、遠くから攻撃をしてくれ」


「「了解!」」「ワフッ」


 冒険者達の準備が終わる前に、シアが張った結界の色が薄くなっていく。


「おじ……さん……ごめんな……さい……もう……」


 硝子が割れる音が響いて、シアの結界が割れた。


 俺は全速力でシアに向かって飛び込み抱き上げ、その場を後にした。


 当然、ダンジョンの中から無数の強力な魔物達が溢れ出る。


「魔物達が溢れたぞ! 全員迎え撃て!」


「「「「うおおおおお!」」」」


 それぞれ前衛後衛に分かれた冒険者達と魔物の群れが激突した。


 俺は少し離れた場所にいるクウちゃんの下に行き、シアを託す。


「レイラ。魔物よりも周りを気を付けろ」


「周り……?」


「あの水晶。魔族にしか作れないんだろ? ということは、どこか魔族が隠れている可能性がある」


「えっ…………」


「注意しておくことに越したことはない。レイラ。一緒に守ろう」


「…………うん!」


 一瞬悲しげな表情を浮かべたレイラは、決意した表情で答えてくれた。


 俺は〖身体強化〗を発動させて、戦いに参戦した。

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