第30話 スタンピードの行方

 溢れた魔物はアッシュラットやスケルトンのような生易しい魔物ではなかった。


 大きな体を持つ猛獣のような魔物で見たこともない魔物ばかり現れた。きっとダンジョンの奥に生息している魔物に違いない。


 戦い始めた冒険者達はそれぞれグループに分かれてチームで対応している。足が速い冒険者は個人で小型魔物を倒しまわっている。


「アレン! できるだけ困ってる冒険者達を手伝ってくれ!」


「はい!」


 頼もしい返事をしたアレンは、周りを眺めて魔物に押し切られそうな冒険者達パーティーを手伝いに跳び込んだ。


 俺は目の前の魔物を倒しながらダンジョン入口付近に向かって走っていく。


 幸いにも〖身体強化〗のおかげで魔物は一撃で倒しながら進める。


 夢中になって魔物を倒しながら突き進んでダンジョンの入口付近に着いて、溢れてくる魔物を倒し続ける。


 周囲には叫び声から怒声まで何人も現状の戦いに不安を口にしていた。


 しばらく戦っていると、遠くから大勢の人が現れた音が聞こえる。


「兵士達が来たぞ!」


 シアの時間稼ぎもあって、最悪な事態になる前に兵士達が来てくれてよかった。


 必死に戦っていた冒険者達に兵士達も混ざり合い、魔物を丁寧に倒し続ける。


 それからもしばらく魔物を倒し続けた。


 目の前に魔物の屍が段々と壁を作り、息をするたびに悪臭がする。


 それでも自分でできることを精一杯こなして魔物を倒していくが、俺が倒す速度よりも魔物が溢れる速度の方が上回っていて、どんどん後ろに流れていく。


 一度後ろに戻る最中、遠くにシアを守るクウちゃんと、そこから闇魔法を放って援護するレイラの姿が見えた。


 どれくらい戦ったか分からないが、周りの顔から疲労の色が見え始め、ケガ人が増え始めた。


 ケガ人が増え続ければ、その分戦力がダウンしていく。それが段々と悪循環を繰り返し、防波堤となっていた冒険者と兵士達のパーティーが崩れていく。


 町の中ということもあり、レイラに広範囲魔法をお願いするわけにもいかず、どうしたらいいか、自分で出来うることを全力で考え続ける。


 何か方法がかならずあるはずだ。


 キメラ魔物との戦いでも何とかなったから。


 ――――ふと、キメラ魔物と戦っている時の自分を思い出した。


 あの時だって、俺一人というより、レイラやアレンとの絆の力で倒すことができた。


 もしシアの回復魔法が使えたならケガで戦えなくなった人達をまた戦いに参戦させられる。それができれば、この劣勢にも歯止めが効くはずだ。


《才能【絆を紡ぐ者】が開花しました。才能【巫女】を確認しました。》


 体の中から温もりが伝わってくる。優しさ。誰しも慈しむ聖母のような温もりだ。


 俺は魔法が使えない。でも女神がくれたこの体には魔法能力まで備わっている。その意味をようやく理解できた気がする。


 自分の中にある魔素を全て――――超広範囲回復魔法を発動させる。


「――――アークヒーリングミスト!」


 本来の回復魔法は全ての存在を回復させてしまう。それでは魔物まで回復させることになる。そこで味方だと認識・・・・・・した者だけに回復する〖アークヒーリング〗。それを霧状にして広範囲に広げる。


「ケガが治り始めたぞ!」


「この黄色い霧のおかげだ!」


「全力で魔物を止めろおおおお!」


 冒険者達と兵士達の士気が一気に上昇し、後方で傷の手当をしていたケガ人達も立ち上がり、前線に加わった。


 シアと目が合う。


 にこっと笑うシアと、隣から驚いたように俺を見るレイラ。


 二人に親指を立てて、俺もまた前線に加わる。


 回復魔法を発動させたまま戦う。


 押され気味だった前線は一瞬で立て直され、段々押し上げることに成功。


 俺達は数分もしないうちにダンジョン入口を綺麗に囲んで安定した戦いに持っていくことに成功した。


 安定した前線は一度も崩れることなく戦い続け、やがて――――ダンジョンから魔物が現れなくなった。


「ま、魔物が止まったぞおおおお!」


「「「「うおおおおおお!」」」」


 周りは歓声を上げ、中には抱き合う人々も多くいた。


 体の疲れはあまりない。でも精神的な疲れからか、一気に体が重くなる。魔法を使い続けた反動かもしれない。


 俺はただ魔物の亡骸が積み重なったダンジョン入口前を眺めながら、その場で座り込んだ。


 ああ……これでみんなを助けることができたのか……それなら嬉しいな。


 次の瞬間、俺の後ろに何かがぶつかってきて――――温もりが伝わってくる。


「アラタさん! 守りましたよ!」


「アレン。そうだな。アレンもよく戦ってくれた」


 続いてクウちゃんとレイラとシアもやってきて、俺に抱きついた。


「アラタ……! アラタのおかげでちゃんとみんなを守れたよ!」


「アラタおじさん! 大好き!」


「レイラ。ちゃんと冒険者達を助けてくれてありがとうな。シアも最初の結界がなければ、今頃町は大変なことになってた。ありがとう」


 スタンピードというイレギュラーな戦いを終えて、初めて長時間魔法を使ったこともあって、このまま床に寝転がって眠ってしまいたくなる。


 周りを眺めると、どうやら死者は出ていないようでひと安心だ。


 ようやく町に平和が訪れたんだなと思ったその時――――何か嫌な予感がして振り向いた先には、濃い緑色の霧が建物の屋根の上からこちらに向かって降りてきた。





――――【お知らせ】――――

 

 【WEB版】転生したおっさんは異世界の訳あり幼児達とキャンプしながら笑顔にしてあげます~絆を繋ぐ物語~を長らく止めてしまい大変申し訳ございませんでした。


 ようやく色々落ち着いたので、連載を続けていきます。


 そして、当作品が『コミカライズ』決定しましたぁぁぁ~!


 ぜひこの先とコミカライズ連載を楽しみにしていただけたら嬉しいです! それと続けて応援してくださると嬉しいです~!


 ps.アルファポリスから来てくださった皆様。本当にありがとうございます。これから更新続けていきますのでよろしくお願いします!

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