第32話 マーレンとの決着

「みなさん! お願いがあります!」


 レイラの凛々しい声が広場に鳴り響く。


 結界の中にいる男達がレイラに注目した。


「シアを……私の家族を守ってください。お願いします」


「何を言っているんだ! 君達は俺達が守るぞ!」


「いえ。皆さんはずっと頑張ってくれました。このまま彼と戦っても犠牲者を増やすだけです。私が戦います」


「なっ!? 君のような小さな子供に――――」


「大丈夫。なんせ――――私はアラタの家族ですから。それに私一人じゃありません。クウちゃん! 一緒に戦ってくれる?」


「ワフッ!」


「ありがとう! 皆さん。シアと子犬のマルちゃんをよろしくお願いします。それにクウちゃんはものすごく強い聖獣なのでアラタが戻るまで時間稼ぎになります」


 真剣な表情を浮かべたレイラに、冒険者達は彼女の覚悟と実力に納得した。


「分かった。でも危なそうな時はすぐに助けに――――いや、壁になりにいくよ」


「ふふっ。分かりました。皆さんを壁にしないように頑張りますね! クウちゃん! 行こう!」


「ワフッ!」


 レイラがクウちゃんの背中に乗り込むと、クウちゃんは一気に走り込み、結界から外に出る。


「…………正義の勇者気取りですか? 魔族のくせに!」


 マーレンの闇魔法が展開され、自分に向かってくるクウちゃんに向かって放たれる。


 クウちゃんは事前に匂い・・を嗅ぎ分けて、闇魔法を全て避ける。


 レイラが反撃のために手を差し伸べた。


「――――暗黒刃ダークカッター!」


 無数の闇の刃が放たれて、マーレンを襲う。


「ちっ!」


 レイラの魔法から強い魔力を感じたマーレンが魔法を避ける。


 時間稼ぎになったおかげでマーレンのもとにクウちゃんがたどり着いた。


「ワフッ!!」


「なっ!?」


 そのまま体当たりでマーレンを吹き飛ばす。


 それとほぼ同時に黒い槍が二人を襲う。


「――――暗黒双剣ダークツインエッジ!」


 二本の黒い剣が黒い槍を跳ね返す。バチバチと黒い雷が散る。


「クウちゃん!!」


 レイラがその場で高く跳び上がると、クウちゃんがマーレンに向かって突撃する。


「小癪な!」


 マーレンが魔法を放つがクウちゃんの体は一切効かない。


「ばかなっ! 闇魔法が効かないだと!? まさか!」


「ワフッ!!」


 クウちゃんの咆哮で放たれた音波がマーレンを吹き飛ばし後ろの壁にぶつかると、壁に大きな亀裂が広がった。


「ぐはっ…………まさか……聖獣…………だがこんなところで……負けるわけにはいかない!」


 マーレンが懐から袋を取り出してその場で振りかける。


「クウちゃん! 逃げて!」


 レイラの声に反応して全身していたクウちゃんがその場から高く跳び超えて、マーレンがいる場所を遥かに超えて建物の裏に消えていった。


「っ……! 今のうちにっ!」


「――――暗黒針ダークニードル!」


「なっ!?」


 レイラの闇魔法がマーレンを襲う。


 全身に魔法が刺さって壁に打ち付けられる。


「ぐ……はっ…………な、何故だ…………何故魔族が……人族の……味方を……するっ」


「私は確かに魔族……でも…………魔族である前にアラタの家族なの! アラタは私を見捨てることなくずっと守ってくれたの! アラタが悲しまないように人々を守るの!」


「くっくっくっ……そんなはずないだろう……人族はいつまでも我々魔族を虐げるぞ!」


「…………私は生まれながらずっと虐げられました。同じ……同じ魔族にも…………でも、アラタだけは違った。私達を何の見返りもなく愛してくれる。だから私は彼を信じたい。人族にどれだけ指を差されても私はアラタを信じるの!」


「…………」


 その時――――。


「レイラああああああああ!」


 空の上から飛び降りてきたのは、アラタだった。


「レイラ! 無事か!」


「あ、アラタ?」


 やってきたアラタは問答無用にレイラを抱きかかえて、マーレンに対峙する。


「レイラ。ケガはないか?」


「う、うん。ないよ?」


 レイラは真剣に怒っているアラタの瞳に、自分と同じ思いを垣間見る。


「マーレンさん。まさか貴方が首謀者だったとは……どうしてですか!」


「…………くっくっくっ。我々魔族がまた世界を支配する日を――――デモンペイン!」


 マーレンの全身が大きく膨れ上がり、目が真っ赤に染まる。そして、理性を失ったマーレンが咆哮を上げる。


 キシャァァアアアアアア!


「あ、アラタ!?」


「大丈夫だ。レイラ。俺に任せろ。絶対に守る」


 レイラを強く抱きしめるアラタ。


「アラタ…………自分を怒らないで・・・・・・・・?」


「レイラ……」


「私、クウちゃんとちゃんと戦えたから。決して無理はしてないよ? だからね?」


「…………そうだな。すまなかった。さあ、一緒にマーレンを止めよう」


「うん!」


「またあれを頼むぞ!」


「はいっ!」


 アラタの目の前に大きな闇の剣が現れる。


 右手にレイラを抱きかかえたアラタは左手で大剣を握りしめた。


「マーレンさん。貴方は本当にレイラを心配してくれて変化の薬をくれたと思いました。だからずっと感謝していました。こういう形になるのは残念です」


 アラタの大剣の一振りによって――――マーレンの凶暴化は止められ戦いは終わることとなった。

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