第48話 転生者vs盗賊獣人リーダー

 獣人王に学んだ通り、強者の戦いは部分〖身体強化〗を極力最低限度に使いながら、隙を狙う戦いだ。


 獣人族には強者も多く、獣人王とソアラさんの強さには舌を巻くほどだった。目の前にいる悪党の獣人もまさにそれくらい強かった。


 相手も格闘術を使っており、お互いの腕や足がぶつかる度に周囲に衝撃波が放たれる。その度に木々が大きく唸り始めた。


「どうして人族が獣人族の味方をするんだ!」


「それこそ、どうして獣人族同士でこんなことを平気でできるんだ!?」


「くっくっ。それは人族だって同じじゃないか? お互いに国を作って、国同士で戦ってまとまりなんてない。だから帝国があんなになっても誰も気にしない!」


「たしかに人族は同士で争ってる…………だが!」


 少し強めに〖身体強化〗を込めて叩き込む。


 相手も俺の気配を読み、強化した拳でお互いに合わせる。


「くぅ……人族ごときにこんな強者がいるとは……」


 お互いに後方に吹き飛ばされる。


 俺は全身を強化してたからそれほどダメージは受けていない。だが、相手はそれなりにダメージを受けているように見える。


「たしかにお前の言う通りだ。でも、俺が見た獣人族はみんながお互いを支え合い、助け合う社会だった。弱い者を守る獣人王の姿こそが俺が知る獣人族の姿だ!」


「獣人王……!」


 やはり獣人王を知っているようで、酷く――――怒りを露にする。


「弱いやつは強いやつのために生きて尽くすのが自然の摂理だ! あいつのせいで力ある者がどうして損をしなければならない!! 貴様に獣人族を語ることなんて百年はえーんだよ!」


 目が真っ赤に染まった盗賊獣人は両手の爪が三倍ほど大きくなる。


 獣人王が一度だけ見せてくれた獣狂化戦闘モードというものだ。獣人は『獣』と『人』の両方の力を持ち、普段は『人』の方に意識を傾けている。それによって自制心を持ち、本能を抑えている。


 その『枷』を外すことで獣としての本能をさらけ出す『戦闘モード』だ。


 戦闘モードとなった獣人は爪が大きくなるだけでなく、体も一回り大きくなる。そして――――見た目通りに全ての身体能力が向上する。


 一瞬で距離を詰めてきた盗賊獣人の攻撃が始まる。


 俺はそういう能力は持っていないが、豊富に持っている〖身体能力〗の体力を使い、全身に力を巡らせて疑似的に『戦闘モード』になる。


「グルアアアアアア!」


 獅子らしい咆哮を上げながら強烈な攻撃が俺を襲う。


 攻撃一つ一つを丁寧に塞いでいく。


「人ごときが獣人族のことに首を突っ込むんじゃねぇええええ!」


 自制心がなくなった分、本性を露にして口が荒くなっていく盗賊獣人。


 それだけ彼の心に獣人族に対する怒りを感じる。けれど、その怒りは俺にとって真っ当なものには感じない。


 俺だってきれいごとを言うつもりはない。レイラたちと一緒に暮らすようになったけど、全世界の子どもたちを助けたいというのとは少し違う。もちろん、目の前に困っている人がいたら手を差し伸べていただろう。


 でも…………全世界で困っている子どもたちや人々を救えるなんて大それたことは考えていない。


 弱者から奪い自分の私利私欲を満たすことにだけは共感したくない。


「きれいごとと言われてもかまわない! 俺は俺の手が届く範囲の人々を守る! お前のように弱者から奪うことしかできない強者なんて、俺が止めてやる!」


「ふざけるなあああああ!」


 鋭い爪に引っ掛からないように細心の注意を払いながら、隙のあるところに弱い攻撃を叩き込む。


 それを何度も繰り返していく。


 後ろから聞こえていた盗賊たちとクウちゃんの戦いの音が止まって、盗賊たち全員が片付いたのがよくわかる。


「もうお前一人しか残っていないぞ!」


「グルアアアアア!」


 本能丸出しなのもあり、焦っているのがよくわかる。


「何故人族風情に俺様が勝てないんだ!!」


「ただの身体能力では獣人族であるお前の方に分があるだろう。でもそれこそ生かすも殺すも使い手次第。お前の攻撃は迷うばかりだ! お前が今まで生きてきたようにな!」


 彼の人生を俺が知るはずもない。でも、攻撃一つ一つに込められている『誰かを恨み続けるだけの気持ち』が手に取るようにわかる。


「何故当たらないんだ! 何故だああああああ!」


 大ぶりの殴りを避けると地面に爪が突き刺さる。その隙を見て俺は右拳に全力を込める。


 想像するのはあの時に獣人王が見せてくれた必殺技。大地と繋がり、大地の力と自分の力を混ぜ合わせ使うことで発現する〖太極〗。


 あの日からずっと練習していたけど、使うことができなかった力。


 それなのに――――今は大地と深い繋がりを感じる。


 これは――――『怒り』の感情だ。それだけじゃない。彼ほどの力を持つ者が私利私欲だけしか考えないことに対する『憤り』。だが、そんなことよりもずっとずっと――――レイラの危機に駆け付けられなかった自分の情けなさに対する『憤り』が込み上がる。


 大地から全身を通って力が流れてきて、体の中から右手に流れを感じる。


 最初のキメラ魔物と戦ったとき、レイラから力を借りたときと感覚が近い。あのときはレイラの〖魔王〗の力と俺の力が混ざり合い放ったような――――必死だったが、そのとき感じていた自分の無力さへの『憤り』。アレンのときも自分にはキメラ魔物の鱗を貫くことができないことに守れないことに感じた『憤り』。


 その全てがいま俺の内側から溢れ出す。


「――――『大地ノ憤怒』」


 自然と口に出たその言葉。


 まるで大地の怒りを感じさせる凄惨な強烈な一撃が盗賊獣人リーダーの腹部にのめり込んだ。

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