第44話 武器と才能
孤児院の薬草採取での出来事から数日が経過した。
元々子どもたちが薬草採取に向かう際には護衛が必ず一人付くが、ときおり俺とソアラさんが護衛に参加した。シアとレイラが行きたがっていたからだ。もちろん、アレンもすぐに打ち解けて、友達ができたと嬉しそうにしていた。
毎日稽古ばかりだからこうして友達を作れるならとてもいいと思う。保護者として子どもたちのために応援してやらないとな。
それもあって、薬草採取に行く日は軽めの稽古を、逆にない日はがっつり稽古を行っている。
そして本日はまた薬草採取のために軽めに行った。
休憩時間。
「師匠。一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「うむ? 改まってどうした?」
気にはなっていたけど、まだ必要がないと思って話していないことを相談しようと思う。
「アレンが片手剣を使うように、師匠は大きな両手剣を使いますよね?」
「うむ」
「自分に合った武器はどう選べばいいですか?」
「なるほど。アラタも自分の武器について考えたいということだな?」
大きく頷いて答える。
思い出すのはクウちゃんたちとキメラ魔物と戦ったときに、レイラが作ってくれた暗黒大剣のこと。
あのときは、咄嗟に思いついて大剣を指定したけど、普段の俺はどちらかというと格闘をメインに使っている。
成り行き……といえばそうだが、異世界に来たからには何か武器を持ってみるのもいいかもと思う。
「そんな難しいことはない。全ての武器種を試してみたらいいんじゃないか?」
「なる……ほど?」
「練習用武器を持ってこさせよう。アレンも今はまだ体の大きさで使えない武器もあるが、一通り触っておいた方がこれからのためになるぞ」
「はいっ! 僕もいろいろ使ってみたいです!」
「うむ!」
それから兵士さんが用意してくれた多くの木製武器が並んだ。片手剣や両手剣、槍、斧、ハンマーから、中には大型鎌やモーニングスターの形で作られたものもあった。
「めちゃくちゃ多いですね……」
「ああ。人族はまだしも獣人族はその種族によって得意不得意分野がはっきりと分かれている。俺のような獅子獣人族は俊敏さよりも腕力に重きを置けるので両手剣や斧を使うが、兎獣人族のように腕力より俊敏さに重きを置いた短剣を使ったり、片手剣を使ったりする。中には槍が得意な種族もいれば、こういうモーニングスターなんてのもあるな」
「基準とかはあるんですか?」
「いや、あくまで目安でしかない。中には兎獣人族でも両手剣を使う者もいれば、ハンマーを使う者もいる」
「なるほど……なら、全部一通り試してみます」
「そうだな。全部試してみるといい」
それから俺とアレンは全ての武器を試してみる。
武器を振り回して手と武器の感触を確かめたり、木人を叩いたりして体験もしてみる。
結局、午前中の稽古時間は武器を試すだけで終わりを迎えた。
「どうだ? 手に馴染んだ武器はあったか?」
「う~ん。それが、どれもないですね」
「うむ。それはある意味当然ということだ」
「当然……ですか?」
「もしアラタに剣の才能があるなら、すでに剣を握っていただろう。それは運命ともいうし、必然とも呼ぶ。アレンがこうして片手剣を握っているようにな」
なるほど……ステータスが存在する世界だからこそ、何かの武器に対する
「となると、俺はそういう特性がないからどんな武器も使えない……?」
「くっくっ。武器に対する才能がない者は、大半の者は身体能力が高い傾向にある。いまのアラタもそうだろう?」
「身体能力の高さ……なるほど…………師匠から見て、俺の身体能力は高いんですか?」
そもそも自分の身体能力の高さがどれくらいのものなのかすら理解していない。
だって、誰かと競っているわけでもないし、アレンとなら競っているが、いくら勇者とはいえアレンはまだ子どもだし、俺がアレンより身体能力が高いのは当然だ。
ふと思い出すのは、女神の失敗によって転生することになって、転生ではなく女神が作った魔法人形に魂を付着する転移に近い形で転生したこと。
今の俺の体は地球の体にそっくりの別物だ。
ステータスでも身体能力は『超級』って書かれていたりする。
「何度も言っているが、アラタの身体能力は世界でも指折りに高い。まだ経験が足りなかったり、意識が戦いに向いてないから気付かないだけだ」
「あはは…………冗談で言ってたんじゃないんですね……」
「うむ」
獣人王から時々王国に仕えるように誘われていたしな。
いろんな武器を試したことで、少しだけ自分のことを認識できた気がする。
強い自分。強い身体能力。強いスキル。
どれもがどこか夢のように感じていたが、これは間違いなく現実そのものだ。レイラ、シア、アレンを守りたくて強くなりたいと願ってこの場に自分の意志で立っている。
もっと自分を見つめ直して、もっと高みへ、もっと強くなり――――今度こそレイラのときのように子どもたちを一人にしないようにしよう。
――――だが、そんな俺の覚悟とは裏腹に、どす黒い闇はすぐ近くまで迫っていた。
ミーアルア国の王都の近くの森の中。
黒いフードを被った大勢の男たちが目を光らせて王都を睨んでいた。
「くっくっくっ…………ようやくだ……ようやく時がきた。覚悟しておけよ――――」
暗い森の中に男の不敵な笑みの声が響き渡った。
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