第45話 不安の的中

 アラタとアレンが王宮で稽古に勤しんでいる間。レイラとシアは王都の散策に出ていた。


 本日は珍しく護衛のソアラがおらず、二人はクウちゃんとマルちゃんと歩いている。


 すっかり王都の民とも顔見知りとなり、道行くところで手を振ってくれる人も増えてきた。


 ちょうど店が並んでいる道中。何かの障壁があるわけでもないが、レイラは少しだけ残念そうにシアの手を引いて立ち止まった。


「レイラちゃん? ここまで?」


「そうね。これ以上は行かない方がいいわ」


「そっか……」


 シアもまた少し残念そうな表情を見せる。


 二人の視線の先にあったのは、とあるスイーツ店だ。


 王都内でもそう多くないスイーツ店の一つ。いつもの店には毎日通っているのもあり、新しい甘い物を食べてみたいが、これ以上王宮から離れると危険なので立ち止まったのである。


「残念だね……」


「うん……」


 そんな二人の頭の上をクウちゃんの顔が後ろから覆いかぶさった。


「クウちゃん。ありがとう。この先は行かないよ!」


「ワフッ」


 そんな二人は先に行くことを諦めて、いつものスイーツ店を訪れてパンケーキを楽しんだ。



 いつもなら店でお菓子を買っていくのだが、本日はみんな薬草採取に向かっているので買わずに出る。


「レイラちゃん。これからどうしよう?」


「シアちゃんは行きたいところある?」


「う~ん。とくにないかな~? あ~でも」


「でも?」


 シアの視線がとある場所に向けられる。


「あそこなら森が見えるかも!」


 指差した場所は、王都を囲んでいる高い壁であった。


「なるほどね。そこなら距離的に問題なさそうだし、行ってみようか!」


「うん!」


 二人はゆっくりと城壁に向かう。


 遠くからだと開けていた空が段々城壁に阻まれて二人の視界は大半が城壁に埋まった。


「ん? レイラちゃんじゃないか。こんなところに来るなんで珍しいな?」


 城壁の上からレイラたちのことを知っている兵士が声を掛ける。


「こんにちは~城壁の上から外を眺めたいんですけど、いいですか~?」


「おう! 構わないぞ~!」


 許可が出てレイラとシアは顔を合わせて笑顔になった。


 そのまま階段を上がり城壁に上がる。


 城壁に着いた二人の景色は――――


「わあ……! 遠くまで見えるよ! レイラちゃん!」


「そうね! とてもいい見晴らしだわ!」


 二人は嬉しそうに声を上げた。


「ミーナちゃんたちはあそこに向かったのかな?」


 シアが指差す森は王都の南側の森。本日孤児院のみんなで薬草採取に向かっている森だ。


「そうね」


「また怖い魔物が出ないといいけど……」


「ソアラさんたちがたくさん探索して、あれから出てないみたいだし、大丈夫だと思うよ?」


「それならいいけど……」


「どうしたの? 何か気になる?」


「うん……」


 少し不安そうに頷いたシア。その姿にレイラも少し考え込む。


(たしか……アラタが言うにはシアの不安は的中しやすいんだよね? 不安になってるってことは…………まさか!)


「シアちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」


「お願い?」


「これから王宮に戻って、アラタにみんなが心配だって伝えてくれない?」


「えっ? 私だけ?」


「そうね。クウちゃんかマルちゃん!」


「じゃあ~マルちゃん!」


 するとクウちゃんの上に乗っていたマルちゃんがシアに飛びこむ。


「シアちゃん。よろしくね」


「うん! わかった!」


 シアは何一つ疑うことなく、レイラが言うことなら全て信頼できると思い、マルちゃんとともに王宮を目指した。


(シアちゃんの不安が外れて何もないといいけど……念には念を入れないとね)


 レイラの視線が森に向く。


 森からは何も感じられず、特段不安感も感じないし、おかしい気配もない。シアの不安が外れるといいなと思うレイラであった。




 ――――その時。




 森の奥からほんの少し、嫌な気配・・・・がした。


(っ!? 今のは何……?)


 得体の知れない気配に身震いするレイラ。だが、確証があるわけでもなく、何か現れたわけでもない。


「クウちゃん! あそこから何か感じる?」


「くぅん……?」


 聖獣であるクウちゃんが反応しないなら魔物ではなさそうと思いながらも、どこかで感じたことがある嫌な気配にレイラの視線が森に釘付けになった。


 そんな時間が数分ほど経過した時のことだった。


 森の中から――――大勢の子どもたちが王都に向かって逃げて・・・きた。

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