第10話 試験

「シアちゃん! そっちに行ったよ!」


「うん! 任せて! ――――【防御結界】!」


 シアを囲う透けて見える水色の箱。そこにグランドボアが全力で直撃した。


 傍から見れば、シアの体の何倍も大きいグランドボアによって、彼女が吹き飛ぶことを想像してしまいそうだが、結果は全くの正反対になる。


 シアが張った【結界】に直撃したグランドボアは、その場で脳震盪を起こして倒れ込んだ。


「――――【暗黒鎌ダークネスサイズ】!」


 レイラの凛々しい声が響くと、倒れた猪の上部に禍々しいオーラを放つ一本の巨大な死神の鎌が現れて、サクッと猪の頭を切り落とした。


「わ~い! また倒したよ~レイラちゃん!」


「うん。これも足止めしてくれたシアちゃんのおかげね」


「えへへ~」


 同じ五歳だというのに、レイラは大人びた笑顔でシアを褒めて頭を撫でてあげる。


 倒れた猪の後方からやってきた小型剣を持つアレンにも「アレンくんもよくやったわ」とすぐに褒める。


 俺達がエンビ里に来てから二週間が経過した。


 幸いにも異世界でも一週間法が制定されており、曜日はないが、一日~七日までが一週間で統一されていた。ただ、月だけは違うようで、一月から四月までしかなく、各月で十五週の百五日が一月になるようだ。一年は四百二十日になる。


 あの事件の時、力を惜しみなく使ったシアに影響を受けたのか、次の日からレイラが魔法を使い始めた。アレンも二人から置いて行かれないために、自らの足で衛兵さんに弟子入りして剣を教わり始めた。


 アレンに関してはさすがは【勇者】というべきか、めきめきと上達して、たった二週間でグランドボアを軽々と避けられるようになっている。


 シアは相変わらず回復魔法から結界魔法まで幅広くメンバーを補助する魔法を使いながら、魔法に慣れ始めている。


 最後にレイラ。さすがは【魔王】。もはや俺よりも強いんじゃないかってくらい、二週間で闇魔法の使い方が上手くなった。


 魔法には初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法、神級魔法があって、すでに中級魔法なら片手間で使えるし、さっき使った【暗黒鎌】は上級魔法だったりする。


 本当に末恐ろしい……。


「アラタ!」「おじさん!」「アラタさん!」


 三人が俺をキラキラする視線で見つめる。


「よし、三人とも――――合格だ!」


「「「わ~い!」」」


 こういう時ばかり子供らしくはしゃぐ三人。知らない人が見たら、彼らが目の前のグランドボアを倒したとは到底思わないだろうな。


「では、これから三人の狩りを許可する。言わなくてもわかっていると思うが、決して油断したり、楽に勝てる相手だと思わないこと。いいな?」


「「「は~い!」」」


 賢い子達だからな。俺が言うまでもないか。


 子供達が倒した猪を俺が解体し始めて、全て【食糧庫】と【素材庫】に分けていれる。


 通常だと【アイテムボックス】というスキルらしいけど、形は同じらしいが、俺の聖痕は名前が違うので性能も違うかも知れない。【アイテムボックス】を持っていないので検証のしようがない。


 解体が終わる頃、遠くから三人でグランドボアを引っ張ってくるのが見えた。


 この短時間でもう一体狩って来たんだな。三人で狩るのは初めてだから楽しいのかも知れないな。


 それから子供達がどんどん乱獲して、グランドボアを十体解体する頃、日が傾き始めたので終わりにした。


 ◆


「よ~今日は子供達はこないのか」


「ああ。みんな先に宿屋に戻りたがってな。特にレイラがな」


「残念~」


 狩りを楽しんだレイラは、俺に一切近づいてこなくて、すぐに宿屋に戻りたいとわがままを言った。ついでにシアも。


「今日の買取頼む」


 そう言いながら雑貨屋のカウンターに大量のグランドボアの角と革をあげる。


「いや……大量過ぎだろ」


「子供達が張り切っちゃってな」


「今日が初めての狩りだったな」


 最近雑貨屋の店主と仲良くなって、色んな話をするようになった。


 アレンの武器を新調してやりたくて相談したのがきっかけだったりする。


 だから今日子供達だけで狩りをする試験の日だったのを彼も知っているのだ。


「それにしても、レイラちゃん達も強いもんだな。お前さんも随分と強いけど」


「そうか? クマに死にかけたくらいなのだがな」


「いやいや、あれはお前さんしか倒せなかったぜ。あのままなら里全滅だった」


「そんなにか? 煽てても値切りには応じないけどな~」


「ちぇっ! こんな大量なんだから少しくらい安く売ってくれてもいいではないか!」


「逆だろ! 大量に売ってあげるんだから、もう少し高く買ってくれよ」


「はい、銀貨二百三十枚だ」


「あいよ」


 毎日乱獲していたら、買取値段が少し下がった。本来なら一体で二万六千だったのが、二万三千に下がった。今日の十体で大量の銀貨獲得だ。


「それで、いつ出るんだっけ?」


「例の武器が届いたらかな」


「ああ。あれは――――ほらよ」


 そう言いながら八十センチ程の縦長長方形の箱を三つ取り出した。


「届いていたのか」


「今日な。ちゃんと確認してみな」


 三つの中身を確認する。


「俺は目利きできないが、間違いなさそうだな」


「一週間もかかってしまったが、それがうちで取り寄せる一番良い品だ。それは保証するぜ」


「疑っていない。大丈夫だ。ありがとう」


 つい先ほど貰った銀貨に加えて、以前稼いだ銀貨を上乗せしてカウンターの上に並べる。


「銀貨六百枚。確かに確認した」


「おう。ありがとうさん」


「こちらこそ、まいどあり~」


 店主に挨拶をして宿屋に着くと、レイラ達がすっかり綺麗になって待っていた。


 もしかして……水浴びしたかったのか……。


 夕飯をご馳走になって、部屋に戻り、俺はみんなの前でそれぞれの箱を取り出した。


「今日の試験合格の祝いだ」


 目を大きく見開いた子供達が、恐る恐る箱を開いた。


「わあ~! 綺麗な杖~!」


 シアには魔法を使った際に消費魔素量を減らしてくれる魔法の杖。上部に緑色の宝石と木製の杖だ。


「綺麗……」


 レイラには魔法を使った際に出力を上昇させてくれる魔法の杖を。上部に真っ赤な宝石と金属製の杖だ。


「かっこいい!」


 アレンには鋼と少量のミスリルが混じり合った剣を贈る。


 三人共嬉しそうに武器を手に取って笑顔に染まっていった。

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