第9話 勝利
パチッパチッと燃える音が聞こえる。
そういや、キャンプのためにブロック肉買ったんだっけ。あれどうなったのかな?
いやいや、そんなことどうでもいいか。というか、この燃える音…………何だか落ち着くな。キャンプで何度も聞いて心を癒してくれた音だ。
右手に感触があって、目を覚ますと目が赤く腫れたレイラが覗いていた。
「よぉ……」
「アラタ!」
「ちゃんと……約束……守っただろ?」
「そ、そうだけど! こんなにボロボロになって……!」
「ふふっ。それにしても、ありがとうな。レイラの応援がなかったら、負けていたかも知れん」
いまでも鮮明に覚えている。魔物に殴りかかった時、無機質な女性の声が聞こえてきて、才能【魔王】を確認したら、体の中からものすごく力が湧き出たんだっけ。
「みんなは……?」
「シアちゃんはケガ人に回復魔法を使ってあげてる。アレンくんはケガ人の世話をしてあげてるよ」
「そっか。みんな立派だな」
「アラタが守ったから……」
「ん?」
「アラタが守った里だから。起きた時に、みんな亡くなったら悲しむからって、シアちゃんが張り切って回復魔法で走り回ったんだよ?」
シアちゃんが…………大したものだ。昨日まで闇魔法しか使えないと絶望していた少女でさえも、覚悟を決めたらこんなにも凄いんだな。
そういや、あの魔物を倒したら新しいスキルを覚えたんだっけ。覗いてみるか。
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【ステータス】
名 前:アラタ
年 齢:35歳
種 族:人 族
加 護:大空の女神の加護
才 能:絆を紡ぐ者
【巫女】【魔王】【勇者】
身体能力:超級 魔法能力:超級
耐性能力:超級 運 :超級
【スキル】
〖身体強化〗〖耐性強化〗〖威圧〗〖手加減〗
〖解体知識〗〖解体アシスト〗〖体力回復〗
【聖痕】
〖キャンプセット〗〖食糧庫〗〖素材庫〗
〖命の鎖〗
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まず才能という部分が追加されて、下に【巫女】【魔王】【勇者】が追加されている。
新しいスキルは〖体力回復〗。これのおかげなのか、すっかり体が軽い。
「もう起きていいの?」
「おう。あの魔物を倒したら、新しいスキルを獲得してな。それでもう回復済みだ」
「それならいいけど……無理はしないでよね?」
「おう!」
手を伸ばしてレイラの頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。
「う、うぅ……う…………」
ちょっと強くし過ぎたかな?
レイラの可愛らしい表情を堪能したので、頑張ってくれるシアの激励に向かう。
シアはケガ人に淡い緑色の光を放っていて、それを受けたケガ人のケガがどんどん回復していった。
「アラタ。回復魔法って凄く貴重なんだよ」
「そっか。覚えておくよ。ありがとう」
それにしてもレイラって博識だな。今度どうしてなのか聞いてみるか。
「シア~」
回復を終えたタイミングでシアを呼ぶと、ガバッと立ち上がって俺を向いたシアは、大きな涙を浮かべて全力で走ってきて、俺の胸に飛び込んできた。
「回復ありがとうな。シア」
シアは何も言わず、ただただ俺の胸に顔を埋めた。
「アレン~」
「アラタさん!」
アレンとすぐにやってきて、俺に抱き着いた。
「レイラ~右手が空いてるんだ」
「え~」
嫌そうにしながらも、レイラもやってきて、三人の子供達をぎゅっと抱きしめる。
ああ……俺、頑張って良かった~。
というか、本気で死ぬかと思ったよ! あのバカ女神様。な~にが異世界で死なない程度に強くなったから、弱い者いじめとかしないでよねーだ! 全然強くないじゃないか!
最後だって、才能が開花しなかったら本気でやばかったぞ!
はあ……まあ、生きているからいいか。異世界だし、こういうことだってあるってことなんだな。これから子供達の安全も考えて行動しなければ。
「ごほん。失礼する」
後ろから声が聞こえて、子供達を離して後ろを向くと、顔色があまり良くない猫耳の男性老人が一人立っていた。
「初めまして。わしは里の長をやっている者じゃ。此度は里を守ってくれて本当にありがとう」
「いえいえ。助けることができて良かったです」
「それにお嬢ちゃんには貴重な回復魔法まで使ってくれてありがとう」
「えへへ~」
「それでぜひお礼をさせて欲しいのじゃ」
お礼か……元々そういうのが欲しくてしたわけじゃないんだが……。
その時、アレンが声をあげた。
「食糧がいいです!」
「ん? 食糧?」
「はい。食糧を持ち運べるので、食糧をたくさんもらえると助かります」
「ほっほっほっ。今年は豊作も相まって食糧はたくさんあるから、ぜひお礼をさせてもらえると嬉しいのじゃ」
アレンの逞しい返事で、報酬を貰えることになった。
それと、念のため俺のことも、シアの回復魔法のことも全て秘密にしてもらうことになった。
普段から仲良い里民達だから漏れる心配はないと里長が話していたのが印象的だった。
こうして俺達は里を助けたことで、英雄扱いを受けて色んな人から感謝を言われるようになった。
さらに宿屋のおかみさんからは、いつまでも無料で過ごしてくれていいと言われたが、こちらはさすがにやんわりと断った。
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