第36話 会議と過去
俺達がテントの一番奥に座っており、俺から見て右手に初老の細身の男性が王国からの王様。左手に獅子の獣人族で、見ただけでギラギラしている気配を放つ獣王様。そして、正面には得体の知れない気配がする老人のエルフの長老様が座った。
各代表の後ろには、国を代表する騎士と思われる人達が立っている。
各国は、雰囲気からして、とても仲が良いとは思えない。
「では会議を始めさせていただきます。今回の一件の経緯、事件、現状を報告させていただきます」
それから淡々とギルドマスターからスタンピードの一件を説明した。
説明が終わってもそれぞれの代表は顔色一つ変えずに、そのまま聞き続けていた。
「そこで首謀者が暗殺された件ですが、エルフ側から何か情報はありませんか?」
ギルドマスターの質問に長老の眉が一瞬ぴくっと動いた。
「どうして我々に?」
「連合の中でもっとも聡明なエルフ族なら、彼が魔族であることと暗殺されたことに何か思い当たるものがあるんじゃないかと思いまして」
「…………ないな。そんなことより」
長老の鋭い目線が俺の隣に座っているシアに向けられた。
「どうしてここに忌み子なんかがいるんだ?」
彼の言葉でその場にいる全員の視線がシアに向く。
「彼女は多くの人を守った英雄です。忌み子なんかではありませんよ? 長老」
誰よりも先に反応したのは、グランドマスターだ。
長老とシアの間を割るようにグランドマスターが手を伸ばして遮った。
鋭い視線がシアからグランドマスターに向く。
「忌み子に守れるとは、相変わらず脆弱な種族だな」
「…………長老? 彼女の
長老の眉がまたもやぴくっと動いた。
「貴方たちにとって忌み子がどんなものかは分かりませんが、大事なのは彼女が忌み子であることよりも、何者かによって我々が攻撃されたこと。その話を逸らそうとしたからには、どうやら長老にも
「…………」
「沈黙は肯定として受け取りますが……?」
「くだらない。わしは何も隠してなどおらん」
そのとき、じっと見守っていた獣人王と目が合った。
「おいおい。言い争いするために集まったわけじゃねぇんだろう。それより、街を救ってくれたのはお主だな? アラタとやら」
「どうも。ですが俺だけではなく、ここにいるみんなの力がなければ無理でした」
「ふむ……」
レイラ、シアを見て、最後にアレンを見たとき、獣人王の表情が少し変わった。
「そんな小さな子が……ほお? すでに〖身体強化〗を取得しているのか」
一目でアレンの力を見抜いた。
だが、その言葉に誰よりも驚いたのは――――他ならぬ、エルフの長老だった。
その好機を見逃すはずもないギルドマスターが声を上げた。
「長老? 何か知っているようですね。いまの連合は非常に危ない状態です。スグラ町で行われたのは、ダンジョンの魔物を暴走させる行為。そもそもダンジョン入口の上に建てられた町なので直接被害がありました――――と言い切るのは危険でしょう。あれで溢れた魔物が連合国中に広まってしまうと、甚大な被害が起きるでしょう。長老。連合国のためにも知っていることを教えてください」
あのままスグラ町が崩壊していれば、魔物達はそのまま広がっていくはずだ。
そうなれば、被害はとんでもないものになったはず。
マーレンを口封じのために暗殺した者がいたのなら、彼もまたスタンピードを
ギルドマスターの鋭い質問に、長老は諦めたように溜息を吐いた。
「いいだろう。見た感じ、五歳くらいで〖身体強化〗が使えるということは……我々にも
希望……? どういう意味だ?
みんなの視線が長老に向いた。
「わしが幼い頃、
魔王!?
当然、レイラも反応を見せる。
「魔王に支配され、世界は滅ぼされる寸前とまでいった。だが、それを阻止したのは――――他でもなく、人族から生まれた【勇者】である」
今度は勇者!?
「勇者の力によって魔王は封印されることとなった」
「封印だと!? 倒したのではないのか!?」
獣人王が驚いた表情を見せる。ギルドマスターもトレイアル王国の王様も驚いたまま長老に注目した。
「ああ。封印した。倒すことなどできなかったのだ。いや、厳密に言うと倒すことには成功したものの、あまりにも強大すぎる魔王の力は魔王の意志を失い封印するしかできなかったのだ」
「では今まで伝わった勇者が魔王を倒したというのは、半分嘘だったということか……」
「そうなるな。それはともかく、魔王の力は封印された上に、現在も魔王は生まれておらん。しかし、このタイミングでその男の子――――アレンと言ったな? あの子があの年齢で〖身体強化〗を使えたのなら話は別だ。人族で五歳から〖身体強化〗が使えるのは勇者の証でもある。そんな勇者が生まれたってことは、今度こそ
「なるほど…………小さい中にも深い力を感じられたのはそういう理由があったんだな」
前世でも【勇者】といえば、世界を救う者として有名だった。
アレンやシア、レイラの才能から見ても彼らが特別な存在なのは一目瞭然だ。
なのに……どうして彼らは生まれながら、奴隷になったり、辛い環境に生きるようになったのか今でも疑問が絶えない。
だからといってそれを長老に聞いたらシアやレイラのことまで詮索され、しまいにはレイラの【魔王】という才能を【悪】だと呼び、断罪させようとするかもしれない。
そのとき、獣人王が大きな笑い声を上げた。
「がーはははっ! これも何かの縁だ! アレンとやら。我が国へ来い。我が直々に稽古を付けてやろう!!」
意外な提案に驚いたが、たしかに魅力的な提案ではある。
俺自身ではアレンに何かを教えることはできないし、チャンスがあるなら俺も少しでも強くなっておきたい。
とくに今回の一件でより思うようになった。
「ん? 後ろにいるのは――――聖獣なのか! ますます気に入った!」
後ろで静かにしていたクウちゃんとマルちゃんを見た獣人王はより大きな声で笑い始めた。
終始暗い感じだった会議だが、獣人王によって雰囲気が一変し、終わることとなった。
トレイアル王国からは町を守ってくれたということで、報酬としてまたもや金貨を何枚も渡された。
エルフの長老はシアをひと睨みして、何故か逃げるように去っていった。
「アラタさん」
「ギルドマスター。今日はお疲れ様でした」
「いいえ。こちらこそ、参加してくださりありがとうございました。それよりも――――」
ギルドマスターが小さな声で俺に耳打ちをする。
「エルフの長老ですが、まだ何かを隠している気がします。むしろ――――そっちの方が大事な情報だったかもしれません。あの場面で【勇者】を引き合いにしたのは、その情報から視線を外させるためでしょう。私もこれから調べてはみますが、アラタさんもその点を忘れないようにした方がよいかと」
「ええ。実は俺も少し気になることがありました。
「はい。それなら大丈夫そうですね」
少し離れたギルドマスターは笑顔を見せる。
「我々冒険者ギルドと私は、いつもアラタさんたちの活躍を楽しみにしておりますし、今回助けてくださったことは決して忘れません。何か困ったことがあれば、いつでもギルドを訪ねてください。各ギルドにも話を通しておきますので、どの支店でも支店長に話してください」
「ありがとうございます。これからも頼りにさせてもらいます」
「ふふっ。それはこちらこそです。よろしくお願いします」
ギルドマスターと握手を交わして、俺達は獣人王と共に、スグラ町からミーアルア国に向かって出発した。
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