第35話 会議前

 スグラ町の地下牢。


 魔族の姿のまま、マーレンは特殊な手錠にかけられて牢の中に入れられていた。


 身動き一つ取れないように固定されたマーレンだった。


 その時、とある靄が地下牢に入ってくる。


 鋭い瞳を光らせた衛兵を包み込むと、衛兵はその場で倒れた。


 靄はそのまま進み、マーレンの牢の前に留まった。


「…………無様だな。マーレン」


「ッ!?」


 目と口も封じられているマーレンだが、靄を感じていた。


「ん!? んん!? んっ!!」


 黒い靄の中からは残虐な気配が放たれ、牢の中にいるマーレンを包み込んだ。



 ◆



 スタンピードから三日。


 スグラ町で瓦礫の撤去から建物の修繕の手伝い、困っている家庭のために三日間毎日お昼と夕飯のキャンプ飯の炊き出しを続けた。


 食材はというと、意外にも三日間来てくれた人々が持て余した食材を大量に持ってきてくれた。


 とくに多かったのは野菜類。肉は狩りで補充できるのでものすごく助かる。レイラたちのことを考えても肉ばかりじゃなく、野菜も食べてほしいからな。


 今日は会議の日なので、先に冒険者ギルドのギルドマスターの執務室に集合した。


「アラタさん。いらっしゃい」


「どうも」


 ギルドマスターに促され、時間までソファに座り込んだ。


「今日は先に一つ謝らなければなりません」


「ん? どうかしたんですか?」


「大変申し訳ないのですが…………せっかく皆さんが捕まえてくださったマーレンですが……見守ってはいたのですが、暗殺されてしまいました」


「暗殺!?」


 まさかの出来事に驚いてしまった。


「あの日、すぐに彼の家を探索しましたが、証拠・・になるようなものは全て処分されていました……彼が一体誰の命令であんなことをしたのか…………」


「そう言う割には、確証があるようですが……?」


 彼の瞳の奥に思慮深さを感じる。


「ふふっ……いえ。本当に確証はありません。ですが――――おそらくは、帝国の仕業でしょう」


「根拠はあるんですか?」


「単純な話、帝国しか得をしないからですね。それに、噂によれば……帝国の裏では特殊な魔物を研究しているという噂もあります。ギルドが手に入れた情報はここまでですが……これから出会うエルフ族の長老・・・・・・・なら何か知っているかもしれませんね」


 その言葉に一番大きく反応したのは、当然――――シアだ。


 シアはエルフ族からダークエルフとして追放された身だ。闇魔法に適性があるというだけで、そう言われたらしい。


 どうしてもそれに違和感を覚えざるを得ない。もちろん、レイラとアレンもだ。


「今回の会議に俺達を強く勧めたのはそういう狙いも・・・・・・・あったんですね」


 ギルドマスターは、その鋭い目を光らせた。


「これはアラタさんたちにとっても大きな話だと思いますから」


「ええ。下手に甘い言葉を並べるよりずっと信用できます」


「ふふっ。腹の探り合いはそこまでにして、こちらを受け取ってください」


 彼はテーブルに置かれていた革袋を手に取り、俺に差し出した。


「これは?」

 

 中を開くと――――そこには金色に輝く貨幣が無数に入っていた。


「金貨……?」


 あるのは知っていたけど、実物は初めて見る金貨。一枚で日本円に換算すると十万円以上の価値があり、物価の安さを考えればそれ以上の価値がある。


皆さん・・・のスタンピードでの活躍とそのあとの活躍。全てを評価しての報酬になります」


 活躍に応じて報酬を支払う。それは力を持つ者を囲う・・ことにも繋がる。


 正当な評価と報酬。俺だけでなく、レイラやシア、アレンとみんなで掴んだ報酬で正当な評価だからこそ嬉しく思う。


「冒険者は騎士ではないので、誰かを助けるために命を投げ捨てろとは言いません。ですが、その勇気に応えられる冒険者ギルドになりたいと思ってます。これからもよろしくお願いします」


 報酬というしっかりとした形で答えてくれる理念があるのが一番信頼できる。


「ではこれから会議のところに向かいましょう」


「ええ」


 そのままスグラ町を出て北に向かう。


 そこには大きいテントが建てられており、目が鋭い強そうな冒険者や兵士たちがまもっていた。


 中でも目立つのは――――獣人族の兵士とエルフの兵士。


 人族の兵士の場合、分厚い鎧を着ているけど、彼らは軽めの装備をしていて身軽さを重視した防具なのが見て取れる。


 彼らが守っている間を通り抜けていくときのことだった。


 エルフ側の兵士たちの視線が鋭いものに変わる。


 その視線が向いているのは俺――――いや、俺の足元にいるシアだ。


 あからさまに嫌そうな顔を見せる彼ら、それに気づいて落ち込んでしまうシア。


 子供達から聞いた過去から、シアがダークエルフと間違われて・・・・・捨てられたと聞いている。今のシアを見れば闇魔法なんて使えないのが分かるはずだ。


「――多分聞かないと思うわよ。アラタ」


 溜息を吐きながら、俺が考えていることを見抜いたように小さい声で話した。


「どうしてだ?」


「エルフ族は長寿種族として若い頃はまだマシだけど、年齢を重ねれば重ねるほど、外を拒絶するの。いまさらシアちゃんが魔法を使ったとしても、過去を重んじる・・・・・・・エルフ族は聞く耳持たないと思うはずよ」


「なるほど……」


 その視線から色々納得いく部分も多い。


 あきらかにこちらを拒絶する目線。最初から敵意を向けた態度だ。どう頑張っても彼らを振り向かせるのは難しいだろう。


「アラタおじさん……私、大丈夫! みんながいてくれるだけで十分だよ!」


 そう話しながら笑顔を見せる。


 その笑顔が――――無理をした笑顔なのも分かる。


 大人として保護者として情けないものだと思う。子供に無理して愛想笑いなんてさせてしまうなんて……。


 いつか。


 いつか必ずシアがダークエルフではないことと、心優しいエルフであることを彼らにも伝えられる日が来たらいいなと思いながら、そうなるように俺も頑張りたいと思う。


 俺達は中央の大きなテントに入った。


 そこにはテーブルが四角を囲うように並んでいて、それぞれのテーブルのように椅子が並んでいた。


 誰もいないテントの一番奥に向かい、一番前にギルドマスター、その後ろに俺と子供たちが座る。


「これから各国の代表が来ます。アラタさんなら王様たちが来ると言った方が早いですかね」


「みんな王様なんですか?」


「人族と獣人族は王様ですね。エルフ族は王がいないので長老が来ます」


 なるほど……長老が王の役割をしているんだな。


 外が少し賑やかになって、テントの入口から誰かが入って来た。

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