第34話 レイラの意志
「三日間外でキャンプしようか」
俺の問いにアレンとシアは嬉しそうに「は~い」と答えてくれたが、レイラは暗い表情になる。
どうしたのだろうか?
「レイラ?」
「う、うん! いいんじゃない? 行こう!」
「…………レイラ。ちゃんと思ってることは言ってほしい」
レイラと目線を合わせて、ちゃんと目を見つめる。
「……スタンピードでみんな大変な目に遭ってるのに、私たちだけ外で楽に暮らすのは何だか嫌かなって…………」
そういう風に思っていたのか。俺としては、レイラに敵意が向かないようにしたかったというのがある。
「ねえ? レイラちゃん」
「うん?」
「みんなレイラちゃんに石を投げてたのに、レイラちゃんはみんなを助けたいの?」
「それは……」
正直にいえば、俺もそう思っている。
理不尽に陥った人を助けたいとは思う。
異世界に来て、レイラたちのことを見ていてもそう思ったし、スタンピードのときだってそう思った。
でもレイラに石を投げた連中は、言わば――――敵対した人にもなる。
――――でも緊急時は助かるだろう? と聞かれれば、助けると答える。それは善意だとかそういうものというより、泣いている誰かを見たくないという思いがあるからだ。
前世で両親が亡くなった時、俺は何もできなかった。何もしようがなかった。
その頃だったから……守れるものがあるなら守りたいと思うようになったのは。
「私は……今、ものすごく幸せで、アラタとシアちゃんとアレンくんと一緒に過ごしてすごく幸せで…………困ってる人を助ける力があるなら、そうしたい……そう思ったんだ」
「レイラちゃん……あの時だって、クウちゃんと向かってたもんね」
「うん。アラタの家族だもの。やっぱり困った人は見捨てられないよ。アラタ!」
「うん?」
レイラは何かを覚悟したように、凛々しい表情を浮かべて俺を真っすぐ見つめた。
「アラタが作るキャンプご飯は世界一美味しい! だから困った人達にも――――振る舞ってあげられないかな?」
「レイラがそうしたいなら俺も構わないぞ。シアとアレンも――――ほら、みんないい顔だ」
シアとアレンの頭をポンと優しく撫でてあげる。
「い、いいの?」
「もちろんだ。それにレイラがやりたいことはとてもいいことだと思うし、応援したいからな。これからもそうしたいことがあったらいつでも言ってくれよな?」
「う、うん!」
いつも大人びていても、こう見ると可愛らしい子供だとよくわかる。
「よし、せっかくなら困っている広場でやるか!」
「「「は~い!」」」
それから俺達は広場に向かった。
慌ただしく壊れた道や建物の瓦礫を運んでいる人が見える。
瓦礫は町の外でスキル持ちによって粉砕していると、冒険者ギルドで聞こえてきた。冒険者にはそういう仕事もあるから、助けながらお金稼ぎにもなっていて町の循環がよくできているなと感心した。
全てあのギルドマスターが作ったんだろうな……思慮深い目をしていたし、各国の王との会議でも何も心配しないようにと言ってくれたほどだ。
会談の日は少し不安ではあるが、ギルドマスターを信じてみてもいいかもな。
広場に着くと、冒険者だけでなく住民達も懸命に作業をしていて、たった数時間というのに随分と進んでいた。
「よし、俺とアレンは手伝うから、レイラとシアはキャンプ飯作りを頼むぞ。匂いで応援にもなると思うからバーベキュー肉をいっぱい作ろう」
「「「は~い!」」」
混雑している広場の傍にキャンプを召喚する。できるだけ作業の邪魔にならないように端に作ったので問題なさそう。
念のため、護衛はクウちゃんとマルちゃんにお願いして、大量のお肉や素材をテントの中におく。
あとは任せて俺とアレンは手分けして瓦礫片付けを手伝う。
程なくして、香ばしい肉を焼く匂いが広場に充満し始めた。
「う、美味そうな匂いが……」
「みんな! 作業後には肉を振る舞う! 楽しみにしてくれ~!」
「「「「うおおおお!」」」」
作業していたみんなが大声を上げて、気合が入ったようだ。
一所懸命肉を焼いていたレイラとシアが嬉しそうな笑みを浮かべる。
数時間の作業で凄まじい速度で瓦礫が片付き、多くの冒険者、住民たちがキャンプの前に並んだ。
「みなさ~ん! たくさんありますので、焦らずに並んでください~!」
みんな一列になって並ぶと、レイラが焼いてくれたバーベキュー肉と野菜、シアが作ったスープをみんなに配り始める。
念のために準備しておいた使い捨て用の葉っぱ皿が大いに役に立ったな。いつかこんな日が来たらと思ってたのに、意外にも早かったな。
みんな食事を貰うとき、レイラに「ありがとう」と声を掛ける。
満面の笑みで答えるレイラがまた可愛らしい。
作業を頑張ってくれたみんなに振る舞ってもあまるほどのバーベキュー肉とスープ。
多めに作るとは思ってたけど、あまりにも多いなと思ったら、レイラがとある方向に向かって声を上げた。
「みなさんもどうぞ!!」
そこには――――レイラに石を投げていた住民たちが立っていた。みんな服が汚れていて、復興の作業を頑張ったのは見て分かる。
「お、俺達もいいのか!?」
「はい! 作業を頑張ってくださった皆さんに振る舞うものです! それと被害に遭われた方々もどうぞ!!」
彼らは顔を合わせて、恐る恐るやってきてレイラの前に立つ。
「あ、あの!」
「はい?」
最初の男性が、少し恥ずかしそうにしながら声を上げた。
「さ、さっきはすみませんでした! 魔族と言われてカッとなってしまいました……本当にすみませんでした!」
ポカーンとしたレイラ。すぐに笑みを浮かべる。
「気になさらないでください。魔族を嫌うみなさんの気持ちも分かりますから」
角さえ見えなければ、ただ可愛らしくて心優しい少女だ。
「聖女さまだ……!」
「彼女は魔族じゃない! 聖女さまだ!」
段々広場に「聖女さま」という言葉が広がる。
彼らだけでなく、昨日助かった冒険者たちも、作業を手伝っていた住民たちもみんなレイラを称え始めた。
エンビ里のときは、回復魔法を頑張ったシアがみんなから称えられていたけど、今回はレイラが称えられる。
彼女がずっと頑張っていたのは事実だし、ようやくみんな分かってくれて俺も嬉しい。
食べ終わった冒険者たちはキャンプ飯を運んであげたりと、みんなが協力し合って楽しい時間を過ごした。
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