第16話 対スケルトン

 スグラ町の地下ダンジョン。


 入口付近はブラックマウスしか出現せず、現れるブラックマウスも一度に一匹のみだった。


 レイラ曰く、復活したブラックマウスが溜まってしまうと、群れになったりするので注意が必要だというが、Eランク依頼の中でも比較的に簡単で、報酬もEランク依頼の中では比較的に高いので人気があるから、あまり心配ないらしい。


 それにしてもいくら先祖様の記憶を覗き見れるとは言え、ここまで詳しく覚えているレイラは特別な気がする。それになんたってリアル魔王様だしな。


 ブラックマウスとの戦いは全てアレンが請け負ってくれた。


 無理に戦わせるつもりはないが、少しでもアレン達のレベリングのためになると思うと、危ない以外では手は出さないつもりだ。


 十匹を倒して牙を二十個剥ぎ取って、依頼は完遂したことになる。あとはギルドに戻り牙を渡して報告するだけだ。


「まだ時間があるから、奥も向かってみない? 他の依頼書にも奥のモンスターがあったし」


「そうだな。あまり手ごたえが無さすぎるのも訓練にならないしな。無理のない範囲で進んでみよう」


「「「は~い!」」」


 洞窟を先に進むと、分かれ道が現れた。しかも四か所も。


「随分と分かれ道が多いんだな」


「どこのダンジョンも分かれ道は多いよ。だから方向を失って帰れなくなる人もよくいるみたい」


 それはちょっと怖いな。


 そういや、ここでテントを取り出したらどうなるんだろう……? いつかダンジョンの中でキャンプをするときも来るだろうか? 景色を楽しみながら、美味しい料理を堪能できるキャンプがダンジョンの中に……。不思議とちょっと想像しただけでワクワクする。


 レイラが選んだ道は一番左側の道。


 中を進むと、またブラックマウスと数匹遭遇して、全てアレンが倒した。


 さらに進むと、洞窟の土の色が明るい色から少し暗い土色に変わった。


「土の色だけでなく、匂いまで変わったな」


「ええ。奥に入れば入る程、出て来る魔物が強くなると同時に、地面の色とかも変わるの。魔素量が濃くなっていくからね」


 魔素は目に見えないが、濃い場所は黒ばんで行くと女神様も言っていた。そう思うと、以前現れたキメラ魔物を覆っていたオーラは、魔素が凝縮して具現化したのかもしれない。真っ黒なオーラだったから。


「依頼書では、スケルトンが出てくると書いてあったから気を付けて。遠くから攻撃されたりするから」


「「あいっ!」」


 緊張を浮かべて道を進むと、陰になっている道の奥から殺気が伝わってくる。それと同時に、空気を切り裂く音と共に鋭い矢が一本飛んできた。


 急いで矢を払おうとしたが、それよりも先にシアが【結界魔法】の一種、【結界盾】を発動させて防いだ。


 これは【結界】系列の魔法の中で、もっともポピュラーで消費魔素量も少なく、何より即座に発動できる利点を持つ。代わりに高さ一メートルの横幅五十センチの長方形の盾しか作れないらしく、その範囲を超える攻撃は防げないという弱点もある。


 でもこういう一点攻撃に対しては絶大な効果を持つ。


 【結界盾】に阻まれて地面に矢が落ちると同時に、アレンが素早く前に飛び出す。


 決して無謀な突撃ではなく、アーチャーのリロード時間を読んだ上での行動だ。


 ただ、敵の姿がここから目視できないので、俺達もアレンを急いで追いかける。


 アレン達のレベルが数段上がったおかげなのか、五歳児とは思えない程に身体能力が高い。もちろん、今の俺が本気で走れば余裕で追いつく速度ではあるが、基本は後衛職であるシアとレイラを守るために残っている。


 グランドボアやアッシュウルフと一対一なら負けないくらい強いのは知っている。でも五歳児という年齢がどうしても心配になってしまう。


 暗闇の向こうで、金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。


 何度も聞いた事があるアレンの剣戟の音だ。


 暗闇の中からアレンが見えるところに着くと、アレンよりも遥かに大きい人間の骨みたいな魔物と戦っていた。


 近くに既にボロボロになったスケルトンがいて、骨で作られた弓が落ちている。


 もう一体、アレンと戦っているスケルトンは、骨で作られた長剣を持って戦っていた。


「――――【暗黒刃ダークネスカッター】!」


 レイラから放たれた黒い刃がアレンを援護してスケルトンの足に直撃した。


 態勢を崩したスケルトンの一瞬を見逃さず、アレンの剣が腕の骨を断ち切る。


 骨の剣が地面に落ちる前にアレンの二連撃目の剣戟がスケルトンの首を落として、スケルトンの赤い目が消えていった。


「レイラちゃん、ありがとうございます」


「こちらこそ。アーチャーの対応よかったわよ」


「えへへ~」


 いつも自信なさげにしていたアレンも、最近は目一杯笑うようになった。


 子供達の目覚ましい成長に嬉しくなって笑みがこぼれる。


 アレンが、落ちたスケルトンの頭部を剣の柄で優しく叩くと、ひびが広がっていき、ボロボロと崩れた。


 その中に、赤黒い小さなビー玉が現れた。


「これは【スケルトンの核】という錬金術の素材だよ~」


 相場を勉強しただけあって、すぐに素材を判断するアレンの目利きの良さも素晴らしい。


 保管のために渡された【スケルトンの核】は少しだけぷにぷにしていた。


 シアはすぐにアレンの傷をチェック、無傷だったので継続して狩りを続けることとなった。

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