第13話 お手軽職業?
「止まれ!」
止められるとは思ったけど、実際止められると色々複雑な気持ちになる。
トレイアル王国の最南端であり、南側の玄関町となるスグラ町。
里や村ではないのでそれなりに大きいと思っていたけど、予想通りというかなんというか、非常に大きな町となっている。
当然、門の前には衛兵が立っているうえに、衛兵待機所と思わしき場所まで建てられている。
「はい」
「身分証を見せてくれ」
「申し訳ありません。俺達は旅の者でして、定住地がないので身分証は持っておりません」
「そうか。なら入場料として一人2,000ルクを支払ってもらう必要がある」
俺は予め用意していた銀貨をポケットから素早く取り出す。
あまりの手慣れさに、衛兵が一瞬驚いたけど、銀貨八枚を確認して通してくれた。
エンビ里の雑貨屋店主から色々聞いた情報では、里や村に入場料はないが、町以上の大きさになると、入場料が取られるという。その通りになった。
「見たところ、狩人か?」
俺はともかく、子供達が武器を携えているからそう見えたらしい。
「ええ。狩りで生活しています」
「それなら冒険者になるといい。身分証の代わりになるし、ある程度ランクが上がると入場料も取られないからな」
「それは良い情報を聞けました。ありがとうございます」
意外に親切な衛兵さんに挨拶をして中に入る。シア達が「衛兵さん、ありがとう~!」とみんなで手を振る。
森の中だと気づかなかったけど、意外にも門を通る人がたくさんいて、大通りには多くの人の往来があった。
町の中もそれに引けを取らない――――いや、むしろ、それ以上に賑わっていた。
町民達の服装からして、貧困な感じは見受けられず、多くの人が生気ある顔色をしている。
シアとレイラは広い町は初めてだと言っていただけあって、周りを眺めては「ほえ~」と驚きの声をあげていた。アレンくんは元々大きな町で過ごしていたから慣れている様子。
離れないようにレイラが真ん中で二人の手を繋いでいるので、微笑ましく見守りながらゆっくりと大通りを進んでいく。
大通りの両側には屋台による出店がずらりと並んで、美味しそうなお肉から野菜、果物を売ったり、武器を売ったり、アクセサリーを売っている店もあるし、不思議な置物などの雑貨を売っている店も多くあった。
大通りを歩き続けると、平民地区の中央広場に着いた。
広場はここ一番の賑わいで、人族だけでなく、亜人族も多数見受けられて、待ち人から商売をする人、観光している人、旅人、色んな人が見受けられる。
その中でも、俺達がやってきた反対側の大きな建物には、ひっきりなしに人が出入りしていた。
俺達も最初にその建物の中に入って行った。
建物の中に入ると、大勢の人の声がガヤガヤしている。
鎧を着こんだ大男、ローブを身に纏い杖を持つ男、身軽な格好の女、冴えなさそうな男、女性三人と一緒に談笑をしている金髪の優男と、大勢の人がそれぞれ談笑をしている。
ここに集まった連中が一つだけ統一感があるとしたら――――それは胸元に付けられたプレートがある事。人によって色が違う。
俺達は近くの受付に並んだ。
待っている間、雰囲気に飲み込まれそうになったシアは、不安そうに周りを見ていたけど、レイラとアレンがシアを守るように立ち振る舞って、今度はシアが中心で二人と手を繋いでいた。
「どうぞ~」
俺達の順番になって、十人も並んだ受付の中で、若い女性のところが空いて、そちらに向かった。
「初めてですが、冒険者になりたいんです」
本来の予定なら真っすぐ宿屋に向かうつもりだったが、衛兵さんに教えてもらった冒険者になるために冒険者ギルドにやってきたのだ。
まあ、広場でたまたま冒険者ギルドを見つけたから入ってみただけだけど。
「はい。では説明させていただきます。冒険者になるには、登録料金が必要になります。登録料は10,000ルクを支払うか、もしくは後払いでも可能です。後払いの場合、受けた依頼から天引きされますが、一定期間中に支払えなかった場合、二度と冒険者に登録できなくなります」
それを知った上でどちらを登録するかは任せる……と。登録料を支払えず冒険者として能力がない人は、事前に烙印を押してしまうわけだ。
でも考え方によっては、冒険者という職業を選択から排除することで、違う職業に就きやすくなるのかも知れない。
「では俺とこちらの子供達を後払いで登録させてください」
「……子供達?」
まだ身長が一メートルくらいしかない子供達は、丁度カウンターに隠れて見えてないらしい。
彼女がぐっと体を乗り出して、カウンター下にいる子供達を覗いた。
その時、一瞬だけ、彼女の胸元の中が見えそうになって、ハッとなった。
「ぼくちゃん達。冒険者登録で後払いにして、登録料を支払えないともう登録できなくなるけど、いいかい?」
「「「大丈夫で~す!」」」
三人が仲良く返事をする。うん。ほっこりする。
――――その時。
「おいおい。ガキなんか連れておママごとか?」
後ろから俺に向けられる殺気めいた視線を感じた。
異世界の強さは体の大きさや筋肉量ではない。あくまで才能とそれによるレベルだ。
けれど、筋肉の多さはそれだけで相手を威圧するには十分である。
俺を見下して卑猥な笑みを浮かべた大男は、はちきれんばかりの筋肉を見せつけていた。
取り敢えず、見て見ぬふりをしよう。
「おい! シカトすんじゃねえ!」
「あの。進めてもらっていいですか?」
「は、はい」
受付嬢が少しポカーンとして、何か手続きを進め始めた。
その時、俺の頭を鷲掴みする感触が伝わる。
異世界の大男って手もデカいんだな……。
「あの……これって先に殴られたから殴り返しても文句は言われませんかね?」
「へ?」
「おいおい。こんなひょろ男が俺様に殴り返すだ~?」
はあ……この歳になって、こんな大男に頭を鷲掴みにされるのはあまり好きではないな。
「ブラムさん。ギルド内で冒険者同士の喧嘩は、引き起こした側が懲罰されますよ」
「ちっ……」
というか、最初から注意してくれよ……この受付嬢大丈夫か? というか、周りも見てばかりなのはどうかと思う。それとも……俺達が怪しくて様子見でもしたのか?
俺から大男が離れて、ようやく冒険者登録の手続きが進んだ。
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