第12話 記憶とレベル
相変わらず朝に弱い二人を置いて、俺とレイラで朝食の準備を進める。
食糧庫にはパンを大量に購入しておいたので、朝食はパンを食べられる。
食糧庫の良い店は、中に入れた食材や食べ物を腐らせない効果を持つ。それどころが暖かいうちに入れると暖かいまま取り出すことができるのだ。
以前レイラに教えてもらったお湯に入れたらコンソメ風スープになる葉っぱ、コソメ葉っぱを大量に仕入れておいたので、コソメスープを作る。
大陸南の地域はこの葉っぱで作ったスープが流行っているし、普通に安価で買える。森に入れば普通に取れるしな。
二人が起きる前にレイラと一緒に朝食を食べ終えた。
「アラタ……? 私達の武器って凄く高かったんじゃない?」
「そんなことない。それに値段以上にみんなの活躍が目覚ましいからな。大半が猪の素材を売った金だから」
「そっか……」
「それに里のみんなが半分持ってくれたからな」
里を救ったから里からお礼をさせてくれと、お礼として食糧を求めた俺達だったが、それだけじゃ足りないと、三人の武器を購入する際に半分を里のみんなが持ってくれた。
実際俺が払った額以上の品ということになる。
前世の感覚からすると一本数十万円もするから、異世界の安い物価から考えれば、確かに高額武器なのは間違っていない。
納得してくれたようで、明るい表情を浮かべてお茶を飲む。
「そういや、以前戦った魔物はまた現れないな」
「あんな化け物。そうそう現れたら困るでしょう?」
「そりゃそうだけどな。不思議な魔物だったんだよな~」
「色んな魔物が合体していたんだっけ……」
「そうそう」
ふむ……と小さい声を漏らしたレイラが考え込む。つくづく五歳児には見えない。
「なあ。レイラ」
「うん?」
「お前ってさ。本当に五歳なのか?」
「ぶふっ!? そ、そうだけど……?」
「ふう~ん」
「……生まれた年齢は五歳だけど、確かに私には色んな
どこか大人びた表情で、遠くを見つめる。
「アカシック・レガシーって知ってる?」
「ん? いや、初めて聞く」
「人族にはあまりないけど、エルフ族や魔族のような長寿種族によくある現象で、みんながあるわけじゃないけど、時々、始祖の記憶を断片的に持って生まれる子供がいるの。記憶と言ったら大袈裟かも。どちらかというと、始祖の記憶を覗くって感じ?」
画像を見せられている感じか……?
「だからだと思う……私が二人より色んな知識を持っているのは」
「そうだったんだな。やっぱり――――レイラって凄いんだな」
手を伸ばせば届く距離だったので、無意識でレイラの頭を優しく撫でてあげる。
「…………アラタって気軽に頭撫でるよね」
「っ!? ご、ごめん!」
「い、いいのよ。ただ、アラタって他の大人と全然違うなって……私が見てきた記憶でも、私がずっと過ごしてきたところも、アラタみたいに優しい大人は見たことなかったから……」
三人がこれまで過ごした時間は聞いているので、想像しただけで胸がムカムカしてくる。
その時、テントからモソモソと眠そうな目を擦りながら、二人が一緒に出てくる。
こう仲良く手を繋いで出て来るのがまた可愛らしい。
「レイラ」
「うん?」
「ちゃんと二人の手、繋ぎ止めてあげてな。俺が見守っているから」
「……うん。ほら、二人とも~ちゃんと顔洗うんだよ~」
「「あぃ……」」
なんだかレイラがお母さんみたいになっているな。
もし自分が生まれてすぐに、断片的とはいえ過去の出来事を見せられたら、やはり達観するようになるのだろうか?
その上で、自分の力では何もできない現状に絶望せずに頑張れるのだろうか?
二人を見守るレイラの背中は、今までよりもずっと大きく見えた。
◆
キャンプを片付けて、みんなに干し肉を一つずつ渡す。歩きながら食べるためだ。
朝食で腹いっぱいにはなっているが、おやつ感覚で噛みながら歩く。
「干し肉って美味しい……」
「私も好き! 凄く美味しい!」
どうやら気に入ったようで良かった。これからおやつは干し肉で問題なさそうだ。
俺達はそのまま森を北に進み続けた。
時折現れる灰色の狼は、単体だとアレンが剣術で、複数だとレイラが魔法で倒しながら進んでいく。
エンビ里で聞いた通り、森の中を突き切るのは自殺行為だ。一時間に一回は魔物に出くわすし、場合によっては数分間隔でも出くわす。
それでも森の中を進んだのには大きな理由がある。
距離稼ぎたい――――というわけじゃない。俺にはないが、子供達には【レベル】という概念が存在するからだ。
転生する前に女神様の異世界講座で教わったんだが、異世界人は全員【レベル】が存在していて、レベルが上がると能力値が上がって強くなったり、新しいスキルが目覚めるらしい。もちろん、持つ才能によって大きく変わるという。
現在、俺のステータスには【レベル】というものが存在しない。これには大きな理由がある。
女神様に異世界に転生する際、異世界人として生まれると言われて俺は全力で拒否した。以前にも述べたように、俺は両親が残してくれたこの体で異世界を満喫したいと申し出をしたのだ。
そういう転生は初めての出来事らしく凄く驚いてあたふたしたけど、俺の意思が固く、転生させないと怒られるからと色々悩んだ末、特殊な方法で転生させることにした。
まず、俺の前世の体は既に亡くなっていているため、そのまま異世界に
ならばと、せめてもの願いで姿だけでも残したかった。
そこで、女神様の提案で、俺と全く同じ姿をした天界でよく使われる【神ノ人形】を作ってもらった。
その人形を異世界に配置し、そこに俺の魂を転生させることで、俺は前世と全く同じ記憶と姿のまま異世界に転生することが可能になったのだ。
ただ、このやり方の弊害として、俺は異世界人じゃないので【レベル】が存在しない。
女神様に散々あきられたけど、全く後悔はしていないし、女神様の厚意によってこの体は非常に丈夫なのだ。
子供達の狩りの重点的に行いなら、俺達は十日をかけて森を抜けて現れたのは――――
「あそこがトレイアル王国の最南端の町、スグラ町みたいだな」
高く聳えたつ城壁が俺達の前に現れた。
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