第2話 訳あり三人の幼児
体が軽い。元々筋トレは欠かさずにしていたから体型はマッチョスタイルのはずだ。
目を覚ますと、どこかもわからない平原が果てしなく続いていた。西洋の映画とかで広大な平原を見ているかのような。
さて、ひとまず、今やるべきことをやる――――え?
女神様に言われた通り【ステータス】を確認しようとしたその時、座り込んだ俺の体に謎の
視線を下げてみると、あぐらを組んだ俺の足元に何かがしがみついている。
「――――はあああああああ!?」
あ、あのバカ女神! 最後に「あ~! アタラ! 異世界に転生――――じゃなかった、転移するついでに、ちょっと守って欲しいものがあるからよろしくね~」と言っていた。
守って欲しい
その時、俺の前に一枚の手紙が光と共に現れた。
あ……嫌な予感しかしない……。
浮遊している手紙を受け取って中身を取り出した。
どれどれ…………。
「やっほ~アラタくん! ちゃんと転移できた? まさか転生じゃなくて体そのままに転移したいだなんで、面白いことを言うなと思ったんだよね~」
転生じゃなく転移を選んだ理由は、俺が俺じゃなくなるのも嫌だし、三十五年間生きた証を消したくなかった。両親が生んでくれたこの体で過ごしたかったからだ。
「もう【ステータス】とかは見たのかな~? 今のアラタなら異世界でも楽しく生きれると思うよ~でもあまり悪さはしないでね? 私が怒られちゃうから!」
そういや、誰かに怒られると言ってたけど、一体誰に怒られるんだ?
「最後にお願いがあるんだけど、今のアラタに
繋いでいるの……じゃないわ! はあ!? ど、どういうこと!?
「アラタが死んじゃうとその三人も死んじゃうし、鎖の範囲を超えても三人の生命力はどんどん減って死んじゃうの。だからちゃんと三人を守ってね。あと一人でも死んだら私が怒られるから、ぜっっっったいに三人共守ってね! お願いだからね! じゃあ! 楽しい異世界ライフを~!」
「楽しい異世界ライフを送れるかああああああああ!」
思わず大声を出してしまった。
その時。
俺を中心に周囲に凄まじい音圧が広がっていき、周囲の雑草が一斉に倒れていく。
は……?
「PS.最初は力の加減とか大変だろうけど、頑張ってね!」
それを早く言えええええ!
その時、視界の下から「ん……」と可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。
しかも連鎖するのか、他の二人の子供も起き始めた。
ちょこんと座り込んだ三人が、目を擦り始める。
「ここどこ……? おじさん誰……?」
お、おじさん……!? そ、そうだな……もう見た目ならおじさんだよな……。
「俺は木村新。アラタと呼んでくれ」
「アラタおじさん……?」
俺に声をかけるのは、エルフのシアちゃんだ。
黒髪が腰までストレートに伸びていて凄い艶がある。顔の左右には尖った耳が出ていて、翡翠色の綺麗な目をしている。育ったら絶対に美女になることが約束されている。
「お、おう。おじさんと呼んで構わんぞ」
恐る恐る手を伸ばしてシアの頭を撫でてあげる。
以前知り合った近くの女の子から頭を撫でてって言われたことを思い出したからだ。
最初は少し驚いたシアちゃんだが、次第に表情が緩んで気持ちよさそうに変わった。
さて、あとの二人だが――――かなり警戒されている。
男の子はアレンくん。
どうやら【勇者】らしいが、その言葉がこんなにも似合う男児がいるか? ってくらいに美少年だ。短髪だが風になびくサラサラ金髪と青みのある碧眼。育ったら色んな女性にモテるのは確定事項だな。
もう一人の女の子はレイラちゃん。
前世の知識なら勇者の宿敵である【魔王】を持つ女の子。ウェーブかかったショートの紫髪に、頭部には二本の小さな黒い巻き角が見える。シアちゃんは可愛いらしい顔立ちに比べて、レイラちゃんは大人びた顔立ちなのか少し近づきがたい雰囲気も感じる。
「みんなの名前を教えてくれるかい?」
「私はシアだよ~」
「僕は……アレン……」
「レイラ」
ふむふむ。シアちゃんは明るい性格、アレンは内気な性格、レイラちゃんは……何だか悲しい目をしている。
「三人とも、今から話すことを絶対に覚えて欲しい。俺と君達の間に、この鎖が見えるかい?」
意識すると俺の心臓部分から三人の心臓部分に透明な白い鎖が繋がっているのが見える。
三人とも触ろうとするが、触れないようだ。触れるのは俺だけか。
「俺も理由はわからないが、俺の生命力に君達が繋がっているらしい。だからこの鎖が切れてしまうと大変なことになると言われ――――」
「誰に?」
レイラちゃんの鋭い質問が飛び込む。
「女神様に」
「…………」
頷いて返事する。
「離れすぎると切れてしまうらしいからね。悪いがこれから俺と一緒に過ごしてもらうよ?」
シアちゃんとアレンくんは「よろしくお願いします」と頭を下げる。
五歳だというのに、現状をよく理解している気がする。
レイラちゃんは難しそうな表情を浮かべた。
まあ、こればかりはすぐに受け入れるのは難しいよな。俺だって今の現状をまだ受け入れ切れていないからな。
その時、勢いよく「ぐ~」って腹の虫が鳴った。
「あはは……わりぃな。なんかお腹空いたみたいだ」
「あはは~おじさんのお腹の音面白い~」
笑うシアちゃんをよそに、レイラちゃんがじっと俺を見つめた。
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