【WEB版】転移したら奴隷の父になったけど、家族として愛でることにした〜実は勇者と魔王と聖女だった子供たちの力がとんでもスキルで使えたので最強です〜

御峰。

第1話 転生……転移?

 パチッパチッと音を立てて燃えるまきを眺めていると、自分が何者であろうが気にすることなく、ただただこの時間に幸せを感じる。


 ピーッという音と共に熱くなったやかんが蒸気を噴出して、ようやく我に返る。


 慣れた手つきで、コーヒーがセットされたカップにお湯を注ぎ込むと、コーヒーの香りが広がって、疲れた日々のストレスから一気に開放された。


「よしよし、次は肉を焼こう」


 今日スーパーで買って来た特価ブロック豚肉! 丸ごと大きな串に刺して薪の火で焼く!


 奮発しただけあって、油が滴り、落とされた炎は嬉しそうに舞い始める。


 今日は天気予報も完璧だし、ここでキャンプして正解だったな。


 俺はのんびり料理をしながら、時間を過ごした。




 その時だった。




 空に大きな轟音が鳴り響いて、暗くなり始めた上空に大きな雷が姿を見せる。


「えっ!? 天気予報で雨0%だったのに!?」


 と言った傍から、空から大粒の雨が急激に降り始めた。


 や、やべ……!


 急いで車に逃げ込もうとしたが、あまりの大量の雨によって足を滑らせて転んでしまった。


 こんなに強い雨は台風でも見た事もないのに、どうしてこんな豪雨が!?


 立ち上がろうとしてもあまりにも強い雨に立ち上がることができず、俺はそのまま意識を失った。


 ◆


「――――た」


 ん……? 誰か……僕を呼んでる……?


「――――あらた」


 っ!?


 声優さんのような綺麗な声が耳元で聞こえて、思わず反応して起き上がった。


「うわっ!?」


 目の前に水色の髪に包まれた美しい女性の顔が見えて、反射的に反対側に飛び跳ねる。


「やっと起きてくださったんですね。あらた~」


「は、は……?」


「初めまして! 私は大空の女神【ネクシス】ですわ。自分のことは覚えてますか?」


 自分の事?


「え、えっと……木村きむらあらた。三十五歳。独身。仕事はゲーセンの店員……?」


「わあ~! ちゃんと覚えていてくれて本当にありがとうぉぉぉぉ!」


 急に顔をしかめっ面にして、大きな涙をポロポロ流す自称(?)女神。声は声優さんに匹敵するくらい良い声で、顔立ちも日本人に似てて一億人の一人と呼ばれるくらい美少女。服装は天女みたいな少し透ける白いドレスだが、不思議と中は透けていない。体つきも健康的な体をしていた。


「あ、あの……? ここはどこですか?」


 少しだけ冷静になったので、周りを見渡すと、人生初めて見る景色に圧倒される。


 平坦な山の上に立っているが、ここに来る道は見当たらず、周囲には絶景が広がっている。


 虹色のホタルのような光が世界中を待っていて、水は逆さに登っているし、初めて見る長い胴体を持つ龍が動いたり、あまりにも現実世界とはかけ離れた景色だ。


「ここはアラタ達の言葉でいうなら【神界】という場所よ? 私は女神。おっけ~?」


 急に英語かよ!


「お、おっけぇ……」


「じゃあ、事情を手短に伝えます。実は…………え、えっと、いろいろ・・・・ありまして、アラタが住んでいた地域に集中豪雨を通り越した一千倍の量の雨が降ってしまったの」


「…………」


「それで空前の大災害になってしまったんだけど、実は被害者はたった一人で済んだの」


「…………」


「その一人が、アラタ! 貴方なの! ――――なの!」


「聞こえてますよ」


 二回言わなくても何となくわかったっての。


「それで、俺は亡くなったって単純な話ですね?」


 女神様は大きく頷く。美しい水色の髪が波を打った。女神様で違いはなさそう。


「でもおかしいですね」


「な、なにがおかしいかしら……?」


 この女神様……すぐに顔色に出るんだな? 本当に神か?


「そもそも亡くなっても女神様には関係ないと言うか、集中豪雨の千倍……? それってもしかして女神様のせいで起こしてしまって、その償いとして俺をここに呼んだとか?」


「ギクッ!」


 あ…………視線を逸らしたな。何となく読めてきた。


「理由を聞いても……?」


「あ、あはは……あはは………………ちょ、ちょっとだけ~疲れて眠ってたら~間違えて強制放水ボタンを…………ね?」


 ね? って可愛く言っても、事実は変わらないよ! というか全面的に女神様のせいじゃんか!


「そ、それでね? このままアラタを輪廻転生させてしまうと、私がものすごく怒られてしまうの。そこでアラタに納得する形で転生させてあげないといけなくて、だからお願いっ! 貴方を転生させてください!」


 まさか女神様に土下座させる羽目になるとは。不思議と胸元は見えなかった。


「わ、わかりましたから土下座はやめてください!」


「本当? 本当にいいの? 私を許してくれる?」


「ゆ、許しますから!」


「やった~!」


 ぴょ~んと飛んだ女神様が俺の前に座り込んだ。


 俺も女神様の前に座ると、さすが女神様。すごくいい香りがする。


「そこでアラタに転生してもらう世界は地球は無理なので、地球から見たら異世界になる【アルシマ】に行ってもらうよ。もちろん、転生させるからには、色々特典とかも付けてあげれるから! 欲しいものがあったら全部教えて!」


「特典……ですか? わかりました」


 それから俺は女神様と数時間に渡り協議を行った。


 生きた歴=彼女いない歴の俺にとって、こんな美少女相手に意外に冷静に話せたなと驚くが、まあ、死んでいるって言われて色々吹っ切れたかも知れない。


 両親も病気で亡くなり、俺は持ち家で一人暮らし、家賃も掛からない上に保険金なんかもあったら、のんびりと暮らして趣味はキャンプだった。


 地球に未練がないと言えば嘘になる。やりたいゲームもたくさんあったし、この歳になっても彼女ができるかもなんて思ってたから。


 でもそんなことより、異世界に行けるならそっちの方が楽しみだ。




 この時、想像だにしなかった出来事が異世界で待っているとは、一切思わず、ワクワクしながら異世界転生を受け入れた。

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