第21話 魔族について知る
子供達が寝静まった後、俺は宿屋の一階にやってきた。
「すいません。夜遅くに」
「いえ~」
緩い返事を返す宿屋のおかみさん。年齢は三十代で、大きな胸が目立つがちゃんと旦那さんもいる女性なので、口説きたいとかではない。
夜更けに彼女にお願いしているのは――――色々聞きたいことがあるからだ。
俺はそっと銀貨十枚を渡す。
「ふふっ。私に答える範囲なら~なんでも答えますよ~」
「ありがとうございます。では早速、おかみさんが知っている魔族について全て教えてください」
「あ~魔族ですね~あまり関わるのはおすすめしませんが~いいですよ?」
それからおかみさんが知っている魔族に関する情報を全て教えてもらえた。
全てをまとめると。
大昔、魔王率いる魔族と勇者率いる人族が大陸の覇権を巡って戦争を繰り返した。
結果的には勇者が魔王を倒して勝ったかに見えたのも束の間。勇者の人命が終わると魔族の反撃が始まり、世界は魔族によって支配されることとなった。
ただ、魔族は勇者との戦争で大きく数を減らして、今や少数種族となった。
そこで一つ気になったのは、少数種族となったのなら、どうしてレイラは奴隷になったのかという部分だが、その答えになりそうな部分として、魔族は全員が孤高の存在であり、同じ魔族だとしても敵対するという。
現存する魔族の中で一番有名なのは、【ヘデトリア帝国】に所属している四人の魔族。通称【四魔貴族】で悪逆非道な魔族として有名で、彼らのせいで大勢の人族は奴隷になったりと大変な目に遭っているらしい。
トレイアル王国で冒険者をしている多くは、ヘデトリア帝国から逃げてきた者が多く、魔族に対しての印象は最悪だという。
だからレイラが魔族と分かっただけで、みんな冷たい視線を送るようだ。
他にも魔族はいるが、大半が大陸の北、雪原地帯に住んでいるらしい。レイラも俺と会うまでは雪原地帯に住んでいたと話していた。
偶然かは分からないが、アレンもシアも雪原地帯に住んでいたそうだ。
ひとまず、魔族が嫌われる理由は大体分かったが、やはりそいつらが悪いだけで、レイラが悪いわけじゃないのは間違いない。
現状を何とかできないかなと思いながら、子供達の下に戻り、眠りについた。
◆
次の日。
すっかり元気になったレイラがいつもの調子で話しかけてくれて嬉しい。
一階で朝食を食べていると、おかみさんがやってきて「冒険者ギルドから手紙が届いてましたので~」と一枚の手紙を渡してくれた。
確かに冒険者ギルドが発行しているハンコが押されていたので間違いなさそうだ。
中を開いてみると、俺達が大量に売った【スケルトンの核】を買っているという錬金術師が俺達に会いたいらしく、会ってもらえないかという手紙だった。
気になる言葉に「魔族のことで相談に乗れる」という文言があったので、どうしても気になる。
レイラ達にも内容を伝えると、俺の判断に任せるそうなので、食事を取り、ギルドに向かった。
「あ~! アラタさ~ん!」
いつもの受付嬢が珍しく受付ではなく、こちらにやってきた。
「おはようございます。手紙の件で」
「助かります~ぜひこちらにどうぞ」
ここに来たってことは、会うという返事になるので、すぐに部屋に案内された。
こじんまりとした部屋で、必要最低限のテーブルと椅子しか置かれていない。
「実はお会いしたい方というのが、錬金術師のマーレンさんという方で、うちの町でも一番の錬金術師さんなんです。レイラちゃんの話を聞きつけたようで、ぜひお会いしたいとのことでした」
「どうしてうちのレイラに?」
「理由までは教えて頂けませんでしたが、魔族に関するものだとか?」
まあ、元々そこが気になってここに来ているから、会ってみたいとは思う。
「分かりました。ひとまず、会ってみます」
そう答えると、笑顔で胸をなでおろした受付嬢は、地図を一枚渡してくれた。
町の南側にひっそりと建っている屋敷のようだ。
俺達はその足でギルドからマーレンさんとやらの錬金術店を目指した。
やってきた場所は言われた通り、人通りが少なく閑散とした場所だった。
お店と思われる場所に着くと、広めの敷地に玄関には錬金術店を示す看板が掲げられていた。
恐る恐る中に入ってみる。
「こんにちはー」
中は窓から日が差しているものの、暗い研究室の雰囲気だった。
カウンターに片眼鏡をした若い男性が、こちらを見て笑顔で「いらっしゃいませ」と声を上げる。
「冒険者ギルドから来た者です。【スケルトンの核】の件で俺達に会いたいと聞いて来たんですが」
「ああ。例の魔族の……こちらにどうぞ。お店は閉めますので」
男性は部屋中にあるロウソクに手早く火を灯して、窓とカーテンを閉めて、玄関口も閉めた。
丸太で作られたテーブルと椅子に座って待っていると、白衣のままお茶を出してくれる。
怪しいものが入ってたりしないよな……?
男性はすらっとした体型で身長は高い部類だ。百八十くらい。二十代の見た目で、濃いめの青い髪が肩に掛かるほどでとてもサラサラしている。さぞかしモテそうだ。
向かいに座った彼は笑顔のまま話し始めた。
「急に呼ばれて驚いたことでしょう。僕の名前はマーレンといいます。ここで長年錬金術師をやっているんです」
「どうも。俺はアラタといいます。俺達に会いたいと聞いていますが」
「はい。噂話で魔族の少女を連れているとか。恐らく――――彼女ですね」
どこか知的な紫色の瞳が、俺からレイラに向く。
「どうして魔族を?」
「ふふっ。その前に一つ聞きましょう。アラタさん」
「はい?」
「貴方から見て、僕は――――いくつに見えますか?」
質問の意図が全然分からないが、聞かれたことには素直に答える。
「えっと、二十代の好青年に見えますね」
「ふふっ。とても喜ばしいことです。ですが――――残念ながら僕がここで錬金術師をやって既に二十年以上が経過します」
「二十年以上!?」
「ええ。僕の年齢は――――もう四百を超えているのですから」
そう話した彼は、ゆっくりと立ち上がり、少し距離を取って俺達を向いた。
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