第7話 みんなの過去

 みんながソファーに座って休んでいる間、俺はテーブルに買って来た二枚の地図を広げる。


 大陸の名前は【アルシマ】。異世界の名前と同じ名前がついている。


 地図でしかわからないが、どうやら巨大な大陸が一つだけ存在しているようで、海の外については一切描かれていない。


 世界地図の方を見ると、大陸中心部には【ガルレア火山】というのがドーンと構えているけど、大陸全体から見ればほんの一部だ。


 火山を中心に四つ方向に分かれているようで、俺達が今いるのは南側で、密林地帯らしい。だから山も森も多かったんだ。


 反対側の北側はどうやら雪原地帯になっている。東側は平原地帯と書かれており、西側に砂漠地帯が広がっていた。


 どういう仕組みでこういう地形になっているのかは知らないけど、異世界不思議ということにしておこう。


 世界地図には代表的な山や神殿の名前や地帯の名前くらいしか書かれていなくて、どういう種族や国があるのかまでは書かれていない。


 次に、南側の地図には反対に事細かに書かれている。


 俺達がいるのは森林地帯でも最南端に位置するようだが、南側に広がる山脈のせいで海を見ることは難しそうだ。


 南側は亜人族の国がたくさん集まって【クデリアル連邦国】という名前が付けられているし、中立の町や里もあるという。


 俺達がいる里は【エンビ里】。中立の里のようで、周りにも中立の里が六つ程存在する。


 東側に進むとエルフの国【セレディア国】、西側に進むと獣人族の国【ミーアルア国】、北に進むと人族の国【トレイアル王国】がある。つまり、南側は全体で四つの勢力で構成されていることになる。中立を一つに見立てればの話だが。




 地図と睨めっこしていると、すっかり時間が経過したようで、子供達がボーっと俺を見つめていた。


「みんな、お腹空いてないか?」


「え、えっと……」


「さあ、一旦昼食にしよう」


「「「は~い!」」」


 みんな笑顔になる。


 一階に置いて、料金を支払って待っていると、わりと大盛りの昼食が運ばれて来た。


 キャベツの見た目の野菜を千切りしたサラダには香ばしいソースが掛かっているし、久しぶりのコッペパンと、豆と粒肉がたくさん入ったコンソメ風スープ、メインディッシュは意外にも魚の丸焼きだった。


「さあ、食べよう。いただきます」


「「「いただきます!」」」


 手を合わせてみんなで昼食を食べる。


 異世界だからなのか箸の文化はないようで、スプーンの先が少しフォークのようになっている先割れスプーンが主流のようだ。


 周りの食べ方から、魚はどのまま手で持ってかぶりついて食べるらしくて、真似てみると魚の淡泊な美味しさが口の中にぐっと広がる。


 俺を真似て子供達も魚にかぶりつくと、美味しさで次第に顔が緩んでいく。


「「「「ごちそうさまでした」」」」


 美味しいご飯に感謝を述べて、また部屋に戻った。


 ◆


 丁度二人が座れるソファーが向かい合わせなので、俺が片方に座り、三人が向かいに座る。子供だから三人でもソファーにまとまって座れる。


「あまり聞くつもりはなかったが、俺があまりにも知識が足りないせいで、君達のことがまだわからないんだ。辛いことは答えなくてもいいけど、みんなのことを少しでもいいから教えてくれないか?」


 真ん中にレイラが座り、二人の手をしっかり握っている。が、三人の表情はあまり芳しくない。あまり話したくはないようだ。


「聖痕〖命の鎖〗」


 俺の心臓から子供達の心臓に透明の白い鎖が目視できるようになった。


「俺は女神様から君達を託された。この鎖がないと君達は死んでしまうと言われたんだ。仕組みは正直俺にもわからない。ただ距離はそうだな……この里の端と端くらいで外れるそうだ」


 みんな賢い子だからか、俺が言っていることの意味は理解できるはずだ。


 不安な表情を浮かべた子供達だったが、一番冷静なレイラちゃんが口を動かした。


「アラタ。アラタはどうして私達を守るの?」


「確かに俺に君達を守る理由はないかも知れない。まだ知り合って二日とかだからな。まあ、理由の一つは女神様にお願いされたのもあるが、この鎖がある以上、君達を守りたいと思ったからだ。俺が住んでいた国には古い言い伝えがあってな、【袖振り合うも他生の縁】という言葉があるんだ」


「ふりそ…………?」


「見知らぬ人と触れ合う程度でもきっと昔から因縁があるってことわざなのさ。こうして鎖で繋がった仲だし、知らない地で一番最初に出会ったのも君達だし、何より――――俺には君達の力が必要なんだ」


「私達が?」


 みんな目を見開く。


「レイラは俺には見えないものが見えたり知識もたくさんある。シアも遠くの音を聞き分けたり珍しい知識もたくさんある。アレンは少し弱気が気になるがずっと率先してみんなを手伝いをしたり、何より商売に色んな知識があるのが本当に助かるんだ。これだけでも俺一人じゃ絶対にできないことを三人ができる。三人ができないことを俺がやる。これから俺がみんなと一緒にいたい理由なんだ。駄目かな?」


 そう聞くと、三人とも全力で首を横に振った。


 本当……優しい子達だ。見ず知らずの俺に出会って不安もあっただろうに、こんな鎖に繋がれても反応一つせず・・・・・・、当たり前と受け入れている。


「以上が俺のことだ。どうだ? 信用してもらえたか?」


「元々信用してる!」


「お、おう……わりぃ……」


「…………私は、生まれながら魔力がない子供で、魔力がない魔族は【忌み子】とされているの。両親にはすぐに捨てられ、気づけば奴隷になって……毎日下働きをされていたの。昨日……アラタと会うまでずっと……」


 っ…………。


「わ、私も……エルフ族は光魔法と風魔法に適性があるのに、私は闇魔法に適性があって……それはダークエルフの適性なんだけど、私はエルフのはずなのにそうだから【忌み子】と呼ばれて……里から追い出されてしまったの……近くの村で保護されたけど、鎖に繋がれて毎日下働きをさせられたの……」


 シアまで…………。


「僕は…………」


 みんなが大粒の涙を流す。でもアレンの手を握ったレイラが力強く握り絞めると、アレンがレイラを見つめる。レイラは、小さく頷いた。


「ぼ、僕は……ずっと昔から奴隷だったんだ……まだやったことはないけど……盗みとか覚えたり、特に商品の値段を全部覚えないと…………」


「っ…………もういい。十分だ」


 俺は彼女達に寄り添って、せいいっぱいみんなを抱き締めた。


 悔しくて、自分が無知すぎて涙が溢れた。


 女神様に助けてくれと頼まれたから。確かにそんな単純過ぎる理由だった。


 偽善? そう言いたければ言えばいい。俺は偽善と言われても、俺の手が届くこの子達を守っていきたい。理由なんてどうでもいい。俺の……心がそうしたいから。


「俺達の間には確かに血が通っているわけでもないし、種族だって違う。でもな。せっかく出会えたんだ。もうみんなには奴隷の頃みたいなことはさせないし、しなくていい。俺達はこれからもずっと――――家族だ」

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