第17話 成果の報酬金が要らぬ誤解を招く時もある

 ダンジョンというのは、俺が想像していたものとは全然違うものだった。


 遺跡のようなもので、階層に分かれているものだとばかり思っていたのに、まさか、階層は存在せずに広大な洞窟になっているらしい。


 玄関から奥に入っていけば行く程に強い魔物が出る。それがこの世界のダンジョンだ。


 名前はダンジョンだけど、大きな洞窟というイメージだな。


 スケルトンを大量に倒してから、外に出た。


 外はすっかり夕方になっていて、宿屋に戻る前に冒険者ギルドに向かう。夕方というのに、相変わらず出入りする冒険者が多くいた。


 お昼よりは人が少なく、とくに受付はわりと空いていたが、その分受付嬢も人数は少ない。


 列に並んで待って順番になって向かうと、朝と同じ受付嬢だった。


「あら、おかえりなさい~」


「どうも。依頼報告に来ました」


「かしこまりました。素材はこちらの箱に入れてください」


 指示通り、ブラックマウスの牙を二十個入れる。


 【素材庫】から取り出したのを見て、受付嬢の目が見開く。【アイテムボックス】は珍しいから驚く人も多いからな。


「【アイテムボックス】をお持ちなんですね」


「運が良かったんです」


「ふふっ。運も実力ですからね? 冒険者さんの中でも最後まで生き残った方が偉いですから、無理をせず危なくなったらすぐ逃げてくださいね?」


「ありがとうございます。それはそうと、素材って依頼以外の分は買い取って貰えないんですか?」


「素材買取は承っておりますよ~素材によっては、事前に依頼があるか、買取から一日以内で依頼があった場合、依頼クリアになります。その時は、買取料に報酬金が上乗せになりますので、明日以降ギルドに来た際に受け取れます」


 レイラの提案通りに奥に進んでスケルトンを倒してきて良かった。


「ではこちらも一緒に買取お願いします」


 箱の中に【スケルトンの核】を大量に注ぎ込む。大体二百くらいか。


「こ、こんなに大量に……」


「少し張り切ってしまいました」


「あはは……では買取ですが、ブラックマウスの牙二十個納品で報酬金1,800ルク。スケルトン核は全部で二百個ですので、一つ500ルクですから買取額100,000ルクですね」


 素材によって値段の差が出るのは知っていたけど、ここまで大きな差が出るんだな。


 ブラックマウスは牙とお肉が獲れるが、牙は一つ50ルクと安いが需要があるので常に売れる。二十個だと1,000ルクだが依頼なので1,800ルクとなった。スケルトンは核だけを落として、一体に付き一つ拾えるので、一体に付き500ルクだ。


 異世界が弱肉強食の世界であり、才能がなければ子供達はブラックマウスすら倒すのが困難だ。一日命を懸けてブラックマウスを十匹倒せても1,800ルク…………何という理不尽さだ。


 とはいえ、ここで文句を言っても仕方がないので、報酬はちゃんと貰う。


 こう考えるとグランドボアは一体で相当稼げたのがわかる。肉は基本的に売らずに全部【食糧庫】に入れているが、それも全部込みで綺麗な状態で売ったら一体34,000ルクも稼げたりするからな。


「もしかしたら【スケルトンの核】の依頼があるかも知れませんので、明日か明後日に追加報酬が支払われる可能性もあります。もしある場合は、こちらにいらした時、お伝えしますね~」


「よろしくお願いします」


 受付嬢に挨拶をして、今日の仕事を終わらせて宿屋に帰って来た。


 レイラが急かすので、食事よりも先に水浴びをする。スイートルームの良い点は、部屋の中に水浴び室が完備されている。前世の家電のような、魔道具と呼ばれるものがあり、そちらを捻ると温かいお湯が出る。但し、シャワーとかではなく、おけの一杯分のみだが。


 使えるのは一日十回までと決められているので、水道が完璧だった日本が恋しくなるばかりだ。


 通常水は俺のキャンプで補充できるので、狩り後の水浴び以外は基本的に飲み水と一緒に兼用している。これでも他の冒険者からしたら十二分に贅沢なはずだ。


 レイラとシアが最初に入り、二人が終わってアレンと俺が入る。


 桶一杯分の水にタオルを付けて、お湯で体を拭く。背中はアレンと洗いっこをする。


 異世界の人は基本的に井戸から水を汲んで体を洗うが、井戸水はどこも非常に冷たい。飲み物としても使うので、飲む分にはいいんだが、いかんせん井戸水を汲み上げるのは弱い人には大変で、運ぶのも大変だ。


 それと男性はまだマシで、最悪パンツ一丁で体を洗ったりできるが、女性となるとそうもいかない。たまに構わずに拭いている人もいるけど、そういう方がいる時は絶対に視線を向けないようにするのが異世界マナーだ。


 まぁ……中には守らない変人もいるようだけど。


 暖かいお湯でアレンの手が届かない場所を拭いてあげると、くすぐったいのか「くすぐったい~」と声を上げる。


 もう何度目かわからないけど、アレンと洗いっこしている時が異世界に来て一番幸せに思える瞬間だ。息子ができて一緒に風呂に入るってこんな感じなんだな。


 外に出るとまたジト目で見つめるレイラを見て見ぬふりをして、みんなで一階で食事を食べる。


 五百円玉サイズのパンが大皿いっぱいに並んで、みんなでシェアする。


 それぞれにスープと鳥胸みたいな肉にトマト風味のソースがかかっていて非常に美味しい。サラダも大盛りで果実水も一杯貰えて満足した食事を食べられた。


 食事が終わったので部屋に戻って、子供達とソファーで向き合う。


「はい」


 俺はレイラ達の前に銀貨を三十枚ずつ置いた。


「アラタ……?」


 みんなポカーンと口を開いて俺を見つめる。


 小鳥たちが驚いて口を開けたまましているみたいでちょっと可愛い。


「今日みんなが頑張った分だ。残りは一応貯金。今日は色々頑張ったから明日は休息日にしよう。みんなが稼いだ金なんだから好きなものに使っていいからな」


「貰えないよ! しかもこんなにもたくさん……」


「いやいや、これはみんなが稼いだ分だ」


 そう話してもシアとアレンが銀貨を俺に押しながら、全力で首を横に振る。


 どうしてかレイラも少し泣きそうな目で、銀貨を受け取ろうとはしない。


「みんなが頑張った分の報酬なんだから、みんなが貰うべきだよ」


 そう話すと、みんなが顔を曇らせてうずくまった。


「アラタさん……」


「ん?」


「…………僕達、ここで捨てられるんですか?」


「え……? ど、どういうことだ!?」


「だって……銀貨三十枚も……私達はもうここで……」


「いやいやいやいや! いやいや!、いや、いやいやいや!」


 もう何を言っているのか理解できなさすぎて、「いやいや」しか言葉が出てこない。


「だって……これだけの大金を渡すって……もう僕達は用済みだから、ここでさようならって……」


「んなわけあるかああああ! もしかして、シアとレイラも?」


 二人とも首を縦に振った。


 …………異世界ルール。ヨクワカラナイ。


 でも何となくだけど、みんなが言いたそうなことは伝わってきた。


「あのな。俺はちょっと悲しい」


「悲しい……?」


「はあ……俺はさ。君達のことを自分の子供だと思ってる。奴隷とか、そういう意味で君達と一緒にいるわけじゃないんだ。だからこれは手切れ金でも何でもなく、本当に君達が自分の手で達成したことへの報酬なんだ。里では色々買い物があったが、これからは報酬はみんなで分けるから、そのつもりでいろよ?」


「僕達……捨てられない?」


「か~! 寧ろ、俺をそんな風にしか見てなかったのか~? それならちょっとショックだわ~」


 いや、本当にちょっとショックかも。


 だって、俺は自分の子供のように接してきたつもりだったから。


 でも…………それが異世界らしいといえば、らしいのかもな。


「ご、ごめんなさい……」


 今にも泣きそうな三人だ。


「みんな。おいで」


 一斉に俺の胸元に飛んできた子供達を、俺は大切に抱きしめた。

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