第15話 初依頼
「いらっしゃいませ~!」
宿屋に入ってすぐに元気いい女の子の声が響き渡る。
カウンターから身を乗り出して手を振る若い女性。と同時にカウンターに乗り掛かった彼女の大きな胸が目に入ってしまった。
何だか最近こういうのばかり見てしまう気がする……。
「部屋を借りたいんですが、できればみんな同じ部屋でお願いします」
「は~い」
緩い言葉遣いの彼女は、台帳を広げて部屋を確認する。
「特大サイズのベッド部屋なら8,000ルクですが、通常サイズのベッド六つ部屋なら6,000ルクですね」
宿屋の形式を以前聞いたのは、通常サイズのベッドの部屋は基本的に寝泊りのためだけの部屋なので安価なのが常識だとか。特大サイズのベッドがある部屋は、前世の感じでいうならスイートルームに近い扱いなので、少し高い代わりに、部屋の設備が充実していて、テーブルやソファーなどがあるのが特徴だそう。
エンビ里で泊まった部屋を思い出すと、まさに過ごしやすい部屋だった。
それにしても物価が違うのか、随分と値段が高い。向こうでは3,000ルクしかしなかったのに、その二倍を超えている。
「では特大サイズのベッド部屋でお願いします。三日分お願いします」
「は~い」
銀貨二十四枚を取り出して、カウンターに置くと一枚ずつ数えられ、鍵を渡された。
「二階の一号室です~スイートルームを借りたお客様は朝昼夜の通常食事は無料になりますので、いつでも注文してください~」
なるほど。食事も込みの値段か。食べない人も考えると、確かにこっちの方が宿屋としては賢いやり方だ。
先に部屋に上がり、歩き疲れた足を休ませる。
一週間ずっと森の中を歩いたり狩りをしたりしたけど、町の中はそれはそれで疲れるというか、森とは違う気を張ってしまう。
アレンも随分気を張っていたようで、ソファーに座ると、すぐに倒れ込むように眠りについた。
シアは鏡を見ながら、ネックレスを嬉しそうに覗き込んでいる。
レイラは相変わらず、すぐに風呂場をチェックしてお湯を溜め始めている。
綺麗好きというか、汚れるのがあまり好きではないらしい。
旅をしているとどうしても汚れてしまうが、その度に嫌そうな表情を浮かべていた。
その日は宿屋でゆっくりして、夕飯を食べて眠りについた。
◆
次の日。
早速、冒険者ギルドにやってきて、依頼を探す。
お金が足りないわけではないが、冒険者に慣れておいた方がいいと思ったからだ。
依頼掲示板には大量の依頼書が乱雑に付けられている。依頼書の右上に大きくランクが書かれていて、中心部には大きな絵が描かれていて、下部に詳細内容が描かれている。
Eランクは最低ランクというだけあって、魔物の素材よりは、採取の依頼が主だった。
どちらも素材を普通に売るよりは高価になるように依頼値段が調整されている。
素材が必要な人が足りない素材を欲しているからだろう。
「アラタさん。この依頼どうですか?」
アレンが指差しが依頼書には【ブラックマウスの牙二十個納品】と書かれていた。
「生息地は……地下ダンジョン……ダンジョン!?」
異世界ならダンジョンがあってもおかしくないのか? 女神様からはダンジョンの話は聞いていないが……。
「町の地下ダンジョンで生息するらしいですから、Eランク依頼ですし、丁度いいかも?」
「そうだな。ブラックマウスの牙納品依頼にしよう」
依頼書を持って受付に並ぶ。
俺達の順番になって案内されたのは、昨日と同じ受付嬢だった。
「あら、いらっしゃい」
「こちらをお願いします」
「かしこまりました~」
手短に言葉を交わして、依頼書から水晶に登録してくれる。最後に俺が触って登録完了だ。
冒険者ギルドを出て、広場から西に向かう。
暫く歩いていると、右矢印形の【地下ダンジョン入口】という看板が見えて、そちらに向かっていく。
数分歩いた先に、【地下ダンジョン入口】という看板が出ている入口を発見した。
まさか町から出なくても狩りが行える場所があるとは思わなかった。
入口には衛兵さんが一人立っており、俺達が入ろうとすると、チラッと子供達の胸元を見て、冒険者であることを確認したのか何も言わずに通してくれた。
石材で出来た道と壁と天井が地下に続いており、綺麗に並んだ階段を一つ一つ下がっていく。
一つ大きな誤算があるとすれば、階段が思いのほか深かった。
ぐるぐると回って下がるタイプの階段で、大人五人くらいは並んで降りれる広さがある。下から上がってくる冒険者達とすれ違っても全く問題ない。
意外にもマナー的なものがあるらしくて、内側は上がる人、外側が下がる人のようだ。
ぐるぐると回って何百段かわからない階段を下りると、開けた場所が現れた。
階段までは石材で綺麗に作られてたのに、下がり切ると天然洞窟が現れた。
ダンジョンと聞いて何かの遺跡かなと思っていたら洞窟なんだな。
それと不思議なのは、外の光が一切入ってこないはずなのに、ダンジョン内は見渡せるくらい明るかった。たいまつやランタンを用意するべきかなと思ったけど、要らないみたいだ。
「レイラ。ダンジョンってどういう場所なんだ?」
「ダンジョンは魔素が濃い場所で、地形が洞窟になって魔物を生成し続ける場所をダンジョンって呼ぶよ」
女神様情報の一つ、魔物については教わっている。
魔物は大気中に散らばっている魔素が集まり形を成すという。なので、普通の動物のように生殖活動はしないし、本能だけで動き回る。
「外の魔物と違うのか?」
「ううん。外と違いはないけど、ダンジョンの魔物の方が強いと言われているよ」
「でもブラックマウスはEランクなんだな?」
「うん。ダンジョンというのは入口から奥に向かえば向かうほど強くなるから、ここら辺の入口から現れるブラックマウスは非常に弱いの。私達が戦って来たアッシュウルフよりずっと弱いはずよ」
レイラが話し終わった直後、俺達の前に「ブオーン」と不思議な音がする五十センチ程の黒い斑点が現れた。
「あれから魔物が現れるの! みんな気を付けて!」
みんなで武器を構える。
黒い斑点が現れてから三十秒後に、弾けるようにして中から四十センチもする大型の黒い鼠型魔物が現れた。
真っ赤な目を持ち、口には大きな牙が二本。噛まれたら大きなケガに繋がりそうだ。
レイラの両目に紫色のオーラが灯る。
「攻撃に微弱な毒があるみたい。アレンくん。かすったりしたら、すぐにシアちゃんに解毒魔法をお願いしてね」
「りょうかいっ!」
自らの剣を抜いてブラックマウスに飛び込んだアレンの剣技によって、一瞬で決着がついた。
討伐証は牙なので、アレンがすぐに牙二つの根元を切ってくれた。
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