第4話 それぞれの呼び方
食事が終わった頃に日が傾き始めた。
夜に動くのは得策ではない。キャンプしていた頃もそれは絶対だった。
俺の魔素で出るらしいが、水が出る蛇口がキャンプに設置されていて、シアちゃんが率先して皿を洗ってくれる。水だけだが魔法の水だからか、洗剤なしでも凄く綺麗になるとレイラちゃんが教えてくれた。
やっぱりレイラちゃん博識……!
「ねえ。これってどういう仕組みなの?」
どうやらランタンが気になる様子。
「スイッチを入れたら点灯して消えるだけの簡単な仕組みだよ。使っているのは俺の魔素らしい」
「魔素量は大丈夫なの?」
「女神様曰く、毎日使っても回復量が上回るから好きなだけ使っていいって聞いた」
「ふう~ん……女神様か……」
「まあ、キャンプを展開しないと使えないから、万能ではないよ」
お片付けが終わったので、みんなでテントの中に入る。
ちゃんと靴脱ぎ場も用意されている。
中に入ると、天井部分に不思議な青いクリスタルが宙に浮いたまま、静かにゆっくりと開店し続けていた。
「レイラちゃん。このクリスタルって何かわかる?」
「私はわからないわよ?」
天井を覗いたレイラちゃんが呆れたように話した。「自分のものでしょう?」と言わんばかりの表情で俺を見上げた。
いや、だって……俺も貰い物だし……。
「アラタおじさん? それは結界石だよ~」
「ん? 結界石?」
どうやらシアちゃんが知っているようだ。
みんな靴を脱いで中に入って、ふかふかの布団にダイブして、幸せそうな笑みを浮かべた。
「そこには【結界】の力が入っているよ~」
「【結界】の力? 詳しく教えてもらえる?」
「うん!」
シアちゃんが女子座りをし、俺もその前に座り込んだ。
「【結界】というのは大きく分けて二種類あって、弱い方に【防御結界】と強い方に【拒絶結界】があるの。【防御結界】は物理的に壁を作って魔物の侵入を阻むものだけど、強い魔物には壊れてしまうよ。【拒絶結界】は魔物を近づけさせない結界で壁はないんだけど、魔物を遠ざける役割があるの。この結界石にはすごく強い【拒絶結界】の力を感じるんだ」
おお……! さすがは【巫女】の力を持つシアちゃんだ。
「ということは、このテントに魔物は近づけれないってことかい?」
「うん! 災害級魔物には効かないかも知れないけど、通常魔物ならみんな近づいてこないと思う!」
災害級魔物という言葉から、この結界石が異世界でどれだけ価値があるのか、何となくわかる気がする。
魔物が蔓延っている世界だから夜番を考えていたが、これは助かったな。
それにしても中にはちゃんと四人分の布団が用意されているんだな。前世では常に一人分しか用意しなかったから、ちょっと心配したんだよね。しかも三人はちゃんと子供用だ。
「青色はアレンくん。黄色はシアちゃん。緑色はレイラちゃんな」
「緑……」
「さあ、今日はそろそろ寝よう。明日からは歩くことになるそうだからな」
「「「は~い」」」
初めての異世界は、あっという間に時間が過ぎて、眠りについた。
◆
朝一番早く起きたのは、俺とレイラちゃんだった。
みんな寝相もよくて、途中で起こされたりってことはなかった。むしろ、俺のいびきとかうるさくなかったのだろうか……?
「うるさくなかったわよ」
「えっ……?」
「いびき……」
こ、心を読まれた!?
「ちょっとは構えていたけど、静かだったから。大丈夫」
「そ、そっか。ありがとう」
小声で話し合って、シアちゃんとアレンくんを起こさないように、テントから外に出た。
水場で顔を洗っただけですっきりする。これも魔法の水のおかげか?
そういや、このままでは朝飯も肉か……パンなんて贅沢な食べ物はないしな。
「レイラちゃん。朝食なんだが、肉しかないや」
「うん。むしろお肉も食べれるなんて贅沢だから……」
「ん? そうなのか?」
そういや、まだみんなの境遇は聞いた事なかったな。
朝食にしたら話し合うことにするか。
極力脂身のない部分をより細かく切ってそぼろ風にして焼いていく。朝からお肉の香ばしい香りがする。
テーブルにはレイラちゃん一人で用意してくれた皿とかが並んでいた。
「あっ、アラタ……おじさん」
「無理しておじさんって付けなくていいぞ。名前でいいよ」
「……いいの?」
「おう。俺達は家族だからな。まあ、昨日会ったばかりだが、この先ずっと一緒だ。細かいことはなしだ」
「…………うん。アラタ。あそこに生えている葉っぱでスープが作れるから」
「それは良いことを聞いた! すぐ取って来る!」
試しに異世界での全力とはどんなものか試そう。
一気に走ったら、驚くことに遥か先だったのに、たった数秒でたどり着いた。
…………これなら巨大猪から普通に逃げれたな。
軽めに飛んでみたが、三メートルは軽々飛んで着地しても痛くも痒くもない。
葉っぱを三十枚程取って帰ってくると、アレンくんとシアちゃんが眠そうな目を擦りながら起きてきた。
「レイラ~取って来たぞ~」
「鍋にそのまま入れて~」
「はいよ~」
火にかけた鍋に湯が張っていて、その中に葉っぱをそのまま入れると、お湯が一気に黄色に変わって、コンソメ風の香りが漂い始めた。
顔を洗って来たアレンくんとシアちゃんが申し訳なさそうにテーブルに着く。
「朝得意じゃなかったら気にしなくていいわよ」
「「ご、ごめん……」」
「だからいいってば。これくらい私一人で十分だし、アラタだって気にしてないわよ」
「えっ? レイラちゃん……おじさんのこと、名前で呼ぶの?」
「うん。本人がそれでいいって」
目を大きく見開いたシアちゃんが僕を見つめる。
「アレンくんとシアちゃんも好きな呼び名で呼んでいいからな。気難しいのは得意ではないから」
「そっか……じゃあ、私はおじさん!」
「ぼ、僕はアラタさんがいいなぁ……」
「おう。じゃあ、俺も普通に名前で呼ぼうかな」
みんなとの距離がもう一歩近づいた気がした。
お肉をそぼろ風に細かく刻んだものを皿に出して、レイラに教えてもらった葉っぱで作ったコンソメ風スープで朝ごはんを食べ始めた。
「朝ごはん食べられるんだ……」
小さい声で感動するアレン。やはりこの子達は
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