第56話 現実世界にて
「惨殺死体か。ご両親はやるせないな。捜索願は出されていたのか?」
「ああ、夜になっても帰ってこないってな。今まで親に反抗することはあっても帰らなかったことなんかなかったそうだ。なんであんな倉庫に行っちまったのかなあ」
「まあ女性が一人で行くような場所じゃねえな。連れ込まれて切られて刺されてって、ありゃあひどかった」
「でもなんで死んだ後に服を着せたんだ?」
「おい、お前たち! 捜査会議が始まるぞ! 黙れっ!」
「遺体は県内在住の田端喜美代、十九歳、大学生です。遺体発見は本日午前九時頃、倉庫を所有する会社の従業員で、定期の倉庫内の確認作業時に見つけたそうです」
「遺体の状況は?」
「現在、遺体解剖中ですので詳しいことはそれからになりますが、身体中に刃物で無数に切り、突いたりされています。裂傷から少なくとも刃物は数種類が確認されています」
「なんだと?!」
「しかも傷の具合から生きたまま傷つけられたものと考えられますので、複数犯の仕業と思われます」
「えげつないことしやがるな。何人もで寄ってたかってこの娘をなぶり殺しにしたってのか?」
「そう考えられます」
「許せねえな。おい、現場付近、仏さんの関係者で異常性の高い者がいないか確認しろ!」
「あの、すみません。少し気になる事が」
「なんだ?!」
「はい、現場に綿が」
「綿?!」
「はい、綿が散乱しています」
「その綿が何だ?! 倉庫だろ?! 綿くらいあるだろうが!」
「いえ、現場の倉庫に通常綿は存在しません。ですので」
「綿が何か関係するのか?!」
「わかりません。わかりませんが犯人グループが殺害する時に使用したのではないかと思われます」
「綿をか?! 何のために?」
「わかりません。ただ、画像を見ていただくとお分かりになりますが、被害者の洋服は切られていないんです」
「ああ、それは報告が上がっている。遺体には無数の傷があるが洋服には一切傷がないんだったな」
「はい。ですので当初、殺害した後に服を着せたと思われていましたが」
「ん?」
「はい。被害者は服を脱がされていません」
「なんだとっ! どういうことだ?! そんなバカな話があるか?! 服を脱がさずにどうやって身体だけ切り刻むんだ?!」
「わかりません」
「さらにもう一つ気になる事があります」
「俺にはこれ以上気になることはねえけどな。なんだ?!」
「被害者は殺害時眠っていたのではないかと思われます」
「寝てただあ?! どういうことだ?」
「こちらの画像を確認ください。彼女はこの姿勢から動いていないんです。洋服に付着した血液の流れが彼女が動いていないことを証明しています」
「お前のいう事がどんどんわからなくなっていくよ。もう一度説明してくれるか?」
「ですから被害者の女性は、あの倉庫で発見された姿勢で眠ったまま、そして服を着たまま身体だけを無数に複数の刃物で切り、突かれ綿を飛ばしながら殺害された、という事になります」
「おい、いいか」
「はい」
「そんなバカな話を誰が信じるんだ?」
「しかしそれが事実です」
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