第63話 現実世界にて

「遺体は会社から連絡を受けて彼女を心配して尋ねた両親が発見しました。数日出勤せず、それまで無断欠勤などなかったようです」


「で? 今度はなんだ? 焼死体だ?! 自殺じゃねえのかよ?」


「不明です」


「不明ってことがあるかよ、どういうことだ?!」


「遺体は焼死体です。遺体は布団の上で眠った状態で発見されました」


「そりゃあ誰かが燃やして布団に置いたってことか?」


「いえ、布団の上で焼死体となっています。その際、暴れたりした様子はありません。本人と布団の上下がきれいに燃え、それ以外は燃えていません」


「なんだってんだ?! おい、どういうことか説明してくれよ。俺にはどういう状況かさっぱりわからんぞ」


「今説明申し上げた通りです。遺体は燃えるまでは生きてその場に眠っていました。眠っている間に発火してそのまま焼死体となった、と考えられます」


「だからそれがわからねえって言ってんだろ! どうやったらそうなるんだよっ!」


「わかりません。不明です」


「タニさん。どうした?」


「いや、ちょっと気になる事がありましてね。なあ、彼女の部屋の遺留品見せてくれるか?」


「はい、こちらになります」


「ああ、そうじゃねえ。焼死体にくっついてたもんはねえかって聞いてんだ」


「ああ。はい、燃え残った機器が見つかりました。おそらくヘッドセットだと思われますが、損傷がひどく、どんなものかは不明です」


「ああ、そうか」

「なんだタニさん、それが何かあるのか?」


「ええ、課長、よく聞いてください。この事件、いやこれまで少なくとも数件に関わってるんですよ、このヘッドセットってやつが」


「ヘッドセットだあ? それがなんなんだ? タニさん」


「皆川町の集合住宅の一室で発見され自殺で処理された本田太一、浅井町で発見された森田孝行。で、今回、中迫町で発見された焼死体、清水智子」


「まてまて、待ってくれタニさん。そりゃいったい?」


「課長、最後まで聞いてくださいな。最初の遺体、自殺で処理されたんですがね。それも含めるとってことなんですが、すべてそのヘッドセットってやつをつけてるんですよ、おい、ニシハタ!」


「へーい。これっす」

 ニシハタはヘッドセットを机に置く。


「で? これが? タニさん、こんなのどこにでもある物だろう? 被害者がこのヘッドセットを付けてたからって何かつながりがあるとは言えないだろう?」


「ええ、実はあんまりにもばかばかしくて今まで課長には話してなかったんですがね、少し調べさせちゃくれませんか? こいつの出所」


「タニさんが引っかかるのはなにかあるんだろうが、さすがにそれは話が飛躍しすぎだろう? ニシハタ、お前タニさんに言われてもう調べてるんだろう? どうなんだ?」


「はい、このヘッドセットは、スマホの<スリプカアポ>という睡眠管理アプリに付属するヘッドセットになります。ただ、現在このヘッドセットは品薄状態という事です。製造元の会社に確認したところ、日本での出荷台数は現在約三万セットだそうです。ちなみにそのアプリのダウンロード数は二百万をこえているそうです」


「なあタニさん。それを関連付けるのはさすがに無理があるんじゃないかね?」


「ええ、そう思います。そうは思うんですがね。このところ続いている殺人、もしくは事故死・病死・自殺として処理された案件でこのアプリ? だか何だかに関係している人がどのくらいいるのか気になるんですよ。特に今回のような殺害方法がわからねえような事件についてはね」


「よし、わかった。タニさん、ニシハタ。二人はそっちを追ってみてくれ。もしかするとこの地域だけじゃないのかもしれないしな。ニシハタ、お前はデータベースで遺留品からそっちを当たれ。タニさんの勘には何度も助けられたからな。よろしく頼む」



「タニさん、報告してよかったんですか?」

「仕方ねえだろ、これ以上黙ってられるかよ」


「まあそうっすよねえ」

「で、お前、ヘッドセットはまだ届かねえのかよ」


「ええ、さっぱり来ませんねえ。俺、昔からくじ運ないっすからねえ、ここに来てもタニさんと組まされたし」

「てめえどういう意味だ?!」


「冗談ですよ、タニさんと組めて、ほんとによかったって思ってんすよ。刑事のいろはを勉強させてもらってます」

「はっ! 調子のいいこと言いやがっていいかげんにしろよ」


「んじゃ、まあ明日からデータベース調べていきますね」

「おう、俺はそっちの方はからっきしだからな、俺の方はもう一度被害者の周りを洗ってみるわ」


 その日、自宅に戻ったニシハタにヘッドセットが届いていた。

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