第65話 テトの世界

「いやいやいやいや、届くかね、今日」

 ニシハタの目の前にはヘッドセットが置かれている。


「まずいよなあ、使っちゃまずいよなあ。でも使いたいよなあ」

 そうこう考えてすでに小一時間経過している。


「飯食って、風呂に入っていっぱい考えたけど決められない!」

 ニシハタはスマホを片手に一人で悶々としている。


 スマホには<スリプカアポ>の七つ頭の竜のアイコンが点滅している。

 ヘッドセットを使うかどうかと悩んでいるが箱から取り出した瞬間から充電をしているニシハタ。


「そうだよなあ。使う気がなきゃ充電しないよねえ。わかってんだよ、わかってんだけどさあ。やっぱ使いたいよねえ。タニさんに連絡したら絶対に来る。それは避けたい。タニさんがここに来るのだけは避けたい! よし! ま、ちょっとだけ使ってみよう」

 ニシハタは意を決してヘッドセットを頭に装着する。

 その途端、ニシハタの意識は遠のいていく。


 ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


「ほほほーい! お気づきになりましたか!?」

「ねえねえ、だいじょうぶ?」


「え? ここは?」


「ほほほーい! ここはなんでだかテトの世界なんですよお!」

「ねえねえ、大丈夫?」


「え? ああ、大丈夫だけど」


 なんだここ?

 スリプカアポを使い眠るとこんな世界に来るのか?


 っていうかなんでウサギとサルのぬいぐるみが喋ってんだ?

 しかも安っぽいのに片目にそれぞれ宝石が付いている。


「あ、あのさ。ちょっと聞きたいんだけど」


「ほほほーい! なんでしょう、なんでしょう?! お答えできることであればなんなりと!」


「えっと今までもこうやっていろんな人がやってきてるの?」

「ほほほーい! そうですよお! ここは皆様にお越しいただきゴールを目指していただく場ですからねえ!」


「ゴール?」


「はい、あなた様には教会に向かっていただきますよお! では初めてよろしいですかあ?」


「ちょっちょっちょおっと待って!! もう少しお話聞きたいなあ」


「っち! ほほほーい! 承知いたしましたあ! では、ここからはそちらのカーリーがお答えしますよお!」

「え? ぼくが答えるの? いいよお」


「あ、カーリー? よろしく。じゃあさ、ここに来た人に、本田太一、森田孝行、清水智子、聞きおぼえはない?」


「んー、わかんなーい。えーっとねえ、タイチは知ってるかなあ?」

「タイチ? ああ、本田太一? 知ってるの?」


「うん、タイチはねえこの前来たよ」


「で、そのタイチはどうなったの?」

「タイチはねえ、とちゅうで帰っちゃったの」


「途中で帰った? 帰れるの?」

「うん。だってどーんってなってびゅーってなったから落ちちゃったの」


「うん、わかんないな。どーんってなってびゅーってなったの?」


「うん! でもその前からタイチは帰りたいって言ってたの」

「そうかあ」


 やはりこのアプリが関係しているのかも知れない。


「えっとそっちのウサギさんは? 今の名前に心当たりはない?」

「ほほほーい! さあて私にはなんのことだかですねえ。ああ、先にお伺いしておかなければでしたあ! あなたのお名前は?」


「ああ、僕はニシハタ。君は?」


「ほほほーい、私はアウ、と申します。どうぞお見知りおきを! さてさて、お互いの自己紹介も済んだことですし、ニシハタさんにお渡しするものがあります。ではこちらをどうぞお!」


 アウは空間からバッグを取り出し、ニシハタに手渡す。そこにはパンとペットボトルの水が二本入っていた。


「ま、今回は私たちも知らない世界ではありますが、特別に我々二人が協力するという破格の扱いですのでご心配には及びませんよお! ではさっそく始めましょう。行くよ、カーリー」


「ねえねえ、アウ。まってよお。まだぼくホルンを出してないよお」


「ほんとにカーリーは仕方ありませんねえ」


「あのさあ、ごめんもうちょっと話が聞きたいんだけど」

「申し訳ありません、この後はゲームが始まってからお聞きください。それでは!」


 ウサギのアウとおサルのカーリーは光の玉になって上空に登っていく。




 フォーーーーーン!


 フォーーーーーン!



 空に舞い上がったアウとカーリーはぶら下げていたホルンを吹き鳴らし、


「さあ! ゲームの始まりだよ! 頑張って生き残ってね!」


 と言ってさらに上空に登り消えていった。

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