第10話 渡れるけど渡れない

 歩いても歩いても、カーリーの言う川は見つからない。


 さすがにイラついてきた。


「なあ、カーリー。これって現実の時間にしてどのくらいかかってんの?」


「わかんなーい」


「あのなカーリー、夢とは言え、さすがに疲れたぞ。これ、明日に持ち越すとか、ここまでの行動をセーブとかないの?」


「せーぶ? ねえねえ、せーぶってなあに? なんで」


「あー、くそっ! だんだん腹立ってきた。なんなんだよっ、これどうなってんだよ! アプリなんだろ?」


「タイチ、なに言ってるのかわかんないよお。ウスみたいに怒っちゃって! カーリーは怒るのはこわいからきらい!」


 やばい、ここで協力者にへそを曲げられたら今後に影響する。


「ごめんごめん。カーリーに怒ってるわけじゃないんだよ、蒸し暑さと歩き疲れてイライラしちゃったんだ、ごめんよ」


「むー! ほんと? 怒ってない?」


「怒るわけないだろ、カーリーはヒントもくれるし、話し相手にもなってくれてるじゃないか。カーリーがいなかったら寂しくて死んでたよ」


「タイチ、この世界はさみしいでは死なないよお。うふふふふ。おもしろいね、タイチって」


 茶色の糸で縫い付けられた口で笑っている。


 なんとかご機嫌は直ったらしい。


 そこからまたしばらく歩き回る。


「お? なんか、水の音が聞こえてこないか?」


「うふふふふふー。タイチがよろこぶとぼくもよろこぶー」


「ってことは、川か? 川なのか?!」


 水の流れる音がかすかに聞こえてくる。


 やっとゴールに近づいた感だ。


 まあまだここからどのくらいあるのか分からないが。


 水の音に向かって突き進む。

 やっと掴んだ手がかりだ。


 水の音は次第に大きくなる。


 さらさらと流れる音じゃないぞ?


 ん?


「カーリー」

「なあに?」


「これさあ」

「うん」


「滝じゃん?」

「たきじゃん?」


「カーリー。滝だよ、これ。そうか、渡れるけど渡れないって、いや渡れないよ、これ」


「んー? タイチ、どうする?」


「答えはこの上。あ、そうか、答えの近くはってことだよね?」


「うん!」


「どこかからか上に登る道があるのかなぁ? ま、とりあえずここで一休みするか」


 どうやって登るんだこれ?


 とりあえずここから周りを探索していくしかないよなあ。


「なあカーリー。今まで教会にたどり着いた人っているの?」


「んー? いなーい!」


「え? いないの?」


「うん。この世界に来た人はみーんなとちゅうで帰っちゃったの」


「え? 帰れるの?」


「ううん。みーんなとちゅうで食べられたりまよったり、どくで動けなくなったりだったよ?」


「なんか聞きたくないワードが出てきたなあ。食べられたり毒で動けなくなったり? 夢でも嫌だな、それ。で、その人たちは帰っちゃうの?」


「うーん? 帰りはぼくのおしごとじゃないからよくわかんなーい」


 ま、夢だしなあ。

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