第11話 一人もゴールしてない

「でも帰っちゃうのはわかるんだ」


「うん。だってぼくはゴールのホルンを鳴らしたことがないからね」


「ん? またわかんなくなったぞ。ホルン?」

「うん! これこれ!」


 カーリーは肩にかけた茶色の紐に繋がるホルンをポンポンと叩いてみせた。


「ああ。それがホルンか。そう言えばゲームの始まりだあって、それを鳴らしてたな」


「うん。おわりにも鳴らすんだけどね、まだゴールのホルンは鳴らしたことはないの。みーんな帰っちゃって誰も教会に来てくれなかったから」


「待って。誰も? 一人もゴールしてないってこと?」

「うん。だから今回からぼくたちがおてつだいをすることになったの」


「今まではヒントなし、今回からはヒントありってことか? いや、でもさすがに誰もゴールできないってイベントとしてどうなの? 運営はなにやってんのよって話だよなあ」


「うんえい?」


「ああ。カーリーの仲間の世界もだけどさ、他の世界ではゴールした人はいないの?」


「いないの。だれもゴールできてないの」


「やっぱ運営の問題じゃないか。人気が高いのは誰もゴールできないからなのか?」


「ねえねえタイチ。うんえいってなあに?」


「スリプカアポを作った人たち、かな。カーリーはその人たち生み出されたキャラなんだろ?」


「ぼくたちを作ったのがうんえい? じゃあさんかくの人たちはうんえい!」


「そっかあ」


 さんかく?

 何のことだろう?


 確かこのアプリを作った会社は、株式会社ケルベロス。

 睡眠アプリとヘッドセットの連動がウリのベンチャー企業って話だったような。

 そういえばありそうだけど全く聞いたこともない社名だよな。


 スリプカアポは発売と同時に一気に日本中に広がった。

 ネットはもちろん、テレビやラジオでも大々的に取り上げられ、自分の家族、友人みんながこのアプリの話題で持ちきりだった。


「なあ、さんかく? ってどんな立場の人なの?」

「うーん、わかんなーい。あの人たちには会ったことないのー」


 あの人

 複数人数なのか?


「じゃあその人たちに会ったことがあるのは?」

「わかんなーい」


 だめか。

 ま、そらそうだよな。アプリ内のキャラとさんかくが直接話したりってAI ならあるかもか。

 しかしどんなプログラムで動いてんだろ、聞いたところで俺には全く理解できない自信はあるけど。


「んー、クラはおはなししたって言ってたけどなあ」


「そ、そうなんだ、それがさんかく?」


「うん。ぼくらは<ななかしら>」


「ななかしら?」


「うん、ぼくもクラもアウもななかしら!」

「あ、そっか。七人いるってこと?」

「うん! ぼくたち七人だよ、だから七かしら」


「七つのかしら、頭か! 七つの頭で七頭か」


 まてまて。

 それぞれの人につくサポートAIにも当たりはずれがあるってことか?


 いかんいかん。それよりもまず、このイベントをクリアしなきゃだよな。


「よしっ! そろそろ休憩を終わりにして上を目指そうか、ヒントをくれるんだよな? カーリー」


「はーい! タイチ、がんばってね!!」

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