第4話 消えゆく意識

 まずは袋の中身を確認してみる。


 袋の中には、パンが二つ、ペットボトルの水が一本。そして、サバイバルナイフが一本。


 いや、これは。


 夢の中でどう時間が過ぎていくのかわからない、しかも空腹を感じるのかもわからないけど、これでこの過酷な状況から生き残れってイベントなんだろうな。


 ま、イベントなのだからリアル感を出したいのだろう。

 運営会社も大変だな。


 その時はまだ軽く考えていたのだ。私が参加したこのゲームにどんな意味があるのかなど、私には知る術などないのだから。


 体感的にはもう数時間は経っている感覚だ。


 現実の睡眠の中ではどのくらいの時間が経っているのかは分からないけど、そろそろ目覚めてもいいんじゃないだろうか。


「もう! いつになったら目が覚めるのよ、私!」


 そんな愚痴も言いたくもなる。


 なにせあれから世界は変わらず、私は岩場の陰から一歩も動けていない。


 わかったことは雹と炎は一定時間降り注いで、そこから一定時間止んで、また一定の時間降り続けるということ。


 そして止み間に岩に登って辺りを見渡すと炎に焼かれている場所と全く焼かれていない場所がきっちりと決まっていること(焼かれる場所がランダムなのか固定なのかは不明)だけだ。


 残念ながら私は時計を付けていないため一定時間が何分程度なのかは不明だが次の降り始めからの観察で焼かれる場所の確認をしてみるつもりだ。



 動き回れる身体でよかった。


 しかし他の人たちは無事なのだろうか。


 この状況で他者に気を使う余裕などないのだが、一人孤独に耐え、このまま現実世界の起床を待つのは辛い。


 このイベントは本当にゲームなの?

 ゲームにしてはおかしいところがありすぎる気がする。

 

 ゲームの世界に入ったってこと?

 いや、そもそもこれは睡眠管理アプリでゲームアプリじゃない。

 そのアプリのイベントでゲームをさせられるっておかしくない?

 良質な睡眠、どこ行ったのよ!


 まあ現実世界では絶対に味わえない体験をさせてもらってるけど。

 でもこんなのどこにも告知されてなかったけどな。



 っていうか、そもそもあのウサギ天使はなんなのよ?


 ウサギ天使が言っていた〈ゲーム〉というのはなんのことなんだろ?


 考え始めると疑問が次々と湧き上がってくる。


 しかし、いくら考えても答えは出そうにない。

 とりあえず、現状を打破するために行動しよう。

 今の状況ではどうにもならない。


 ゴールは教会。ウサギ天使のアウはそう言っていた。


 それに、もし仮にゲームだとしてもとにかく今は生き残ることが先決だ。

 そう決意して岩場を降りた。


 降り注ぐ炎をやり過ごし、炎が止むタイミングで焼け残った木々の間を抜け、炎の玉が落ちてくると急いで隠れる。


 何度かそれを繰り返し、炎が止んでいると思われる時に森の中に入っていく。


 草木をかき分け進んでいくと目の前に大きな湖があった。


 水は透明度が高く底まで見えるほど澄んでいた。

 私は湖のそばに座り込み、ペットボトルの水を飲み干していく。


 乾いた喉を潤し、ようやく一息ついたところで改めて周りを見渡した。


 空は相変わらずどんよりとした曇り空だが、少しだけ明るさを取り戻していた。

 見上げると雲の切れ目から光が差し込んでいる。


 ああ、綺麗。



 ヒュンッ!


 そう思った瞬間、胸に熱を感じた。


 胸を貫いた炎の玉が目の前の草をチリチリと燃やし始める。


 ああ、イベントはこれで終わりか。


「あれ? 熱い。あれ? でも寒い?」


 その場に倒れ込んだ私に見えたのは、辺りがまた暗闇の世界に変わり、炎の玉が天から降り注いでくる光景だった。



 なにが安眠アプリだ。

 ひどいアプリ。

 起きたら二度とつけるものか、こんなアプリ。



 フォーーーーーン


 フォーーーーーン……



 なによ、あの音。

 ちょっとイラつく。


 そこで意識が途切れた。

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