第3話 不親切なアプリ
「え? ウサギ天使? ぬいぐるみ?!」
「ぬいぐるみ? ウサギ天使? まあステキ! 私のことをウサギ天使だなんて! ちょっと嬉しかったので、あなたには特別にアイテムをプレゼントしちゃいますね! はい!」
すると空間から袋が一つ現れ地面にドサッと落ちていく。
「え? ああ、どうもありがとう。って、なにこれ?」
「まあ特別にって言いましたけど他の方にもそれぞれお配りしてるんですけどね。それはさておきましょう!」
「え? いや、どういうこと?! 他の方? 他にも誰かいるの?!」
「申し訳ございません。すでにゲームは始まってしまいました。あなたが生き残ったあかつきにはご説明申し上げますね。あ、そうそう。大事なことを。ゴールは教会です。がんばって辿り着いてくださいね。それでは! ホホホーイ!」
ウサギ天使のアウは言い終えると光の玉になったアウが上空に登っていく。
フォーーーーーン!
フォーーーーーン!
空に舞い上がったウサギ天使のアウが、ぶら下げていた赤い紐のラッパを吹き鳴らし、
「さあみんな! ゲームの始まりだよ! 頑張って生き残ってね!」
と言ってさらに上空に登り消えていった。
ウサギ天使のアウが空に消え去った後も相変わらず血の混じった
いったいなんなの?
どういうことなの?
訳がわからないまま大きな岩の下で降り注ぐ雹と炎をただ眺めている。
アプリのイベントなの?
ただの睡眠アプリじゃなかったの?
袋の中身は?
どうしてこんなことになったの?
でもまあ、冷静に考えると朝になれば私は目覚める。
それまで、そう、目覚めるまでやり過ごせばいいだけの話だ。
しかし不親切なアプリだな。
イベントの情報などどこにもなかったし、良い睡眠を提供するべきアプリなのにこんなイベントはないだろう。
ああ、そうか、こんな災害の後、ホッとして眠ればそれはそれで良い睡眠と呼べるかもしれないのか。
〈スリプカアポ〉という名前で最近流行りの睡眠管理アプリ。
これまでの睡眠管理アプリとは全く異なるコンセプトで作られ、睡眠時にヘッドセットを装着して眠ることでレム睡眠やノンレム睡眠、起床など、すべての睡眠をコントロールするというものだった。
アイコンは確か7つの頭のある獣が描かれていた。
ものすごい人気のアプリでヘッドセットの生産が追いついていないとのことで、私のところに届いたのもアプリを導入して三ヶ月後の今日だった。
それまではただの睡眠時間管理アプリだったのだが、届くとやはり嬉しくて早速セットしてもらったわけだ。
ただ、ヘッドセットは予約順ではなく、〈スリプカアポ〉の意思で送付されているのではないかとか、このアプリを使用した人で起きられなくなった人がいるなどというおかしな低評価もいくつか見受けられたけど。
そして今日、念願のヘッドセットを装着して眠ったのだけれどこのありさまだ。
まさか自分が初めてヘッドセットをつけた日にこんなイベントが起こるなんて。
そんなことを考えている間も空から降り注ぎ、美しかった草原や森が炎に包まれていく。
たしかアウは生き残れたら説明するって言ってたな。
さしあたり、身体は自由に動くようだし、袋の中身を確認して他の人を探そう。
私はこんなサバイバルな状況をリアルで体験したことなどない。
私は、と言ったがおそらくこのゲームに参加している日本人のほとんどが同じ状況なはずだ。
アウはみんなに配ったとか言っていた。
ということは、私と同じようにこの状況に困惑している人が他にもいるはずだ。
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