第61話 トモコ帰る

 そうは言ったけどやはり一人になると不安がつのってくる。


「やーん。もうほんと早く帰ってきてよお、ウス―!!」

 そう独り言ちていると


「おーい!! おめえ!」


「あれ? さっきの大斧大男!」


「失礼だなあ。俺あ、ガルバだ。名前で呼べ、名前で!」

「ああ、はい。ガルバさんね。で、どうしたの? わざわざ追いかけてきたの?」


「ああそうだ。もう一人はどうした?」

「え? ああ、今ちょっと離れたとこにいるの」


「おめえら、もう降りたほうがいい。スミルナ山の噴火が始まっちまうぞ」

 ガルバが言い終えると同時に地面が揺れる。


「地震も増えてきてる。おめえら早く下山しねえと助からねえぞ」

「でも」


「でもじゃねえ! おめえはここで死にてえのか? これが最後通告だぞ。本当に残るんだな?」

 ガルバは真剣な表情でトモコを見つめ、そして深く息をついた。


「寝覚めが悪いからここまで来てやっただけだ。じゃあ俺ぁ山を下りるからな」

 そう言って下山していった。



 しばらくその場で待っていたトモコだったが、ウスは帰ってくる様子もなく、さらに地震が頻発し、地震が起こる間隔も短くなってきている。


「どうしよう」


 そしてついに

 スミルナ山の噴火が始まってしまう。


 スミルナ山の頂上から黒い煙と灼熱の溶岩が噴き出し、空には火山灰が広がり、巨大な噴煙柱が空を貫き、その下では激しい地鳴りとともに地面が揺れ続け、火山灰が高度に達し、周辺は厚い灰の雲に包まれ薄暗い光景が広がっている。


 熱風が吹き抜け、周囲の温度は異常に上昇している。周辺の水源や河川は溶岩の侵入によって煮え立ち、激しく湧き出す蒸気と共に荒れ狂い、土地は灼熱の溶岩流によって侵食され、炎に焼かれ広がっていく。


「ウス! 助けて! 助けて! ウス!!」


 灰と煙、炎によって辺りが焼かれ、徐々にトモコに迫って来る。


「なんなのよ! なんだっていうのよ! これがあなたの狙いなの?! クラ! 聞いてるの?! ウス、助けて!!」


 叫び続けるがトモコの感情がウスに届いたという感覚がない。


 トモコは絶望感に包まれながらも、必死にウスの帰りを待ち続けるが、スミルナ山の噴火はますます激しさを増し、トモコの周りは炎と灰の世界と化していく。


「もうだめなのかな」

 自問自答しながらウスの帰りをあきらめかけた。

 だが、彼女の心にはまだ一縷の希望が残っていた。


「もしもウスが生きていて、私を見つけてくれるならまあいいか」


 炎がトモコに近づいてくる。

 意識もだんだんと薄れていく。


 トモコは絶望の中で意識を失いかけ、煙と炎に包まれながらも最後の力を振り絞り


「ウス、助けて」


 最後に弱々しい声を発し力尽きた。

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