第72話 現実世界にて

「おい」

 一人の初老の男性が現場となった部屋で静かに遺体に語り掛けている。


「おい、そりゃあねえだろうよ」


「こりゃあひどいですね。しっかしなんでこんなことになっちまったんでしょう? やばい組織と繋がってたりしたんですかね?」

「ああ? なんだと、てめえ! もう一回いってみろ! こいつはな、そこらの刑事とは違うんだ。俺が刑事のいろはを仕込んだんだよ!」

 そういうと初老の男はもう一人の男に掴みかかる。


「タニさん! いいかげんにしろよ! あんたがかわいがってたってのは知ってるがよ、こんな殺されかたしたんだ、普通の物取りじゃねえだろうがよ!」


「おい! いいかげんにしろ! 行くぞ!」


「っち! 仕事増やしやがって。しかもなんて殺されかたしてんだ、噛み殺された? はっ! どっかのあばずれといいことしてたんじゃねえのか?! なあ!」


「おい! いい加減にしろと言ってるんだ! 誰かこいつを連れていけ! タニさん、すまん。今のやつもこのところの事件でイラついてるんだ」


「あ? ああ。まあそうだろうな」


「タニさん。すまん、みんなを連れて一旦署に戻る。タニさん、終わったら鑑識に頼むわ」

 そう言うとタニを残し、他の刑事たちは部屋を出る。


「おい、ニシハタ。そりゃあねえだろうよ。お前、なんでこんなもんつけて寝ちまったんだよ? 俺に知らせるんじゃなかったのかよ、なあ」

 タニはニシハタにセットされたヘッドセットをしばらく見つめ、大きく息を吐いた。


「こいつが届いちまったんだな。んで、おめえは手がかりを掴もうとしたんだな」

 何かに食いつかれ、噛みちぎられた遺体を前に静かに話し続ける。


「んで、なんかわかったのかよ? ニシハタ」


 部屋の時計の音だけがカチカチと音を鳴らす。


「っけ、おめえまだこの時計使ってたのかよ。いいかげんにあきらめろって言ったじゃねえか、ふられた女にもらった時計なんてなんで大事にとっとくんだよ」


 カチ カチ カチ


「仇はとってやる。お前がこれを付けてこうなったって事がなによりの証拠だからな。だろ? ニシハタよ」


 カチ カチ カチ


「さて、んじゃあ俺はそろそろ行くぞ。待ってろ、絶対にシッポを掴んでやる」

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