第16話 勉強会と雨とブラ

そして次の日。朝早くに教会で稽古をしてシャワーを浴びてから学校に向かった。道がすいていていつもより少し通学できていたからか、普段は先に教室に着いている藤堂と福田に道端で出会った。

「Qちゃんはよはよーん」

「おはよーっ判官。何、寝不足?」

「かもな…なんか身体が怠いわ…ふあぁ…」

そう言うと、「何それラノベ小説の主人公みたいね」と言って藤堂は笑っていた。

「おぉ、藤堂も小説読むのか」

「な、何よ。おかしい?」

むくれたような藤堂。

「いや、そんなことない、気に障ったならすまん。俺も本を読むし、図書委員だからリクエストがあれば出しておくぞ」

そう言うと、「そっかそう言えば判官図書委員だったっけ」と頷いている。

「ありがと、何か入れてほしい本があったら相談するわね」

とそんな風に藤堂と話していたら、福田の姿がみえない。どこ行った?と周囲を見渡すと繁みに上半身を突っ込んでいた。スカートがめくれ上がってレースのショーツが全開だ…!普段はにゃあにゃあ言ってるのに下着はすごく上品でセクシーなんだな福田…と驚いてしまう。まわりに他の生徒がいなかったからいいものの、藤堂と一緒に慌てて福田を引っこ抜きに行く。

「このあたりのボス猫がいたんだにぃ。すかさずマッハで撫でに行ったんだけど、逃げられちゃったにぃ」

こう、ズボァ…ズボァって繁みに刺さったとジェスチャーしながらそう言う福田の制服についた木の枝や蜘蛛の巣なんかを2人で払ってやる。

「ごめんにぃ~」

てへへ、と謝る福田。

「まったくアンタっていっつもそうなんだから。判官もありがと」

そんな2人を微笑ましく思って笑う。

「幼馴染だっけ?…なんかいいよなそういうのって」

「2人はマブキュアだにぃ」

「腐れ縁だけどね。さ、あんまり道草食ってると遅れるから行くわよ」

藤堂に促されてふたたび歩き出す俺達。

「そう言えば中間テスト近いけど、判官はどうなの?」

「ぼちぼちかな。中学の時よりは時間とって勉強してるよ。」

「私は余裕だにぃ」

聞けば福田は中学の時からずっとトップの成績優秀者らしい。…すごいな福田。

「うわー…不安になってきた。ここの勉強についていけてるか心配だわ」

そう言って頭を抱えている藤堂。そんな藤堂を見て、キュピーンと目をしいたけにして何かをひらめく福田。

「閃いたにぃ!皆でうちに勉強会するにぃ!あ、この皆というのはトラちゃんと私とリナちんとQちゃんだにぃ~」

そう言って両手の親指を自身に向けたサムズアップをして、ドヤ顔をする福田。

トラちゃん?あぁ、藤堂がそんな名前だったっけか。

「私がまとめて抱いてやるにぃ…じゃなかった面倒みてやるにぃ」

「か、神様仏様瑠璃様~~!!」

そう言ってわしっと福田に抱き着いている藤堂。ちょくちょく下の名前で呼んでるけど、多分藤堂は福田の事下の名前の瑠璃で呼んでるんじゃないかと思った。仲良しっていいよね。

「学校に行ったらリナちんにも聞いてみるにぃ。みんな一緒だと嬉しいにゃあ!」


というわけでその日の放課後は福田のマンションにお邪魔することになった。

「…ここが福田のマンションか」

リナに聞いたら今日はお母さんが家にいてあめりちゃんの面倒を見てくれているので、2つ返事で勉強会を承諾してくれた。リナにとっても渡りに船だったらしく、高校初めてのテストという事で家でも勉強していたようだが一人ではわからなくなるところや躓くところも多かったらしい。

そして皆で来たのは駅近くの富裕層向けの超高層マンションだった。ン千万とかする買い切りのマンションで、一体どんな人が住んでいるのかと思えばまさかのクラスメートだったとは。藤堂は何度も来ているのか慣れた様子だが、初見の俺やリナは度肝を抜かれて立ちすくむ。

「うわ~、近くで見るとよりすっごいわ」

そう言ってリナは上を見上げている。

「でもいいのか?急にお邪魔しちゃって」

「問題ないにぃ、一人暮らしだから気にしなくていいにゃあ。むしろ皆がきてくれて賑やかでうれしいにぃ~」

そう言って福田に案内されて、上層へエレベーターで上がっていく。

「ささ、いらっしゃいませだにぃ」

「「「お邪魔します」」」

3人で靴をそろえながら福田の家に上がる。中は大きなカウンタータイプのキッチンのあるLDKになっていた。壁紙などの内装はモノトーンでカスタムされており、壁掛けのTVは85インチ近くはあるのではなかろうか?オーディオや、ソファー、そして大理石のテーブル。部屋の家具はどれも一般家庭でやすやすと買えるようなものではない。

「なんていうか…凄いな福田」

「用意されてたやつだからよくわかんないにぃ。あ、ソファーは座り心地いいからおすすめだにぃ。勉強するならラグにそのまま座ってテーブルでやるのがよさどうだにゃあ。にゃあにゃあ」

そう言って俺達をテーブルに案内しつつ、キッチンから飲み物を持ってきてくれる福田。

「なんかよくわかんないブドウジュースがあったから適当にいれるにぃ」

そう言ってブドウジュースとやらの入ったグラスをお盆にのせて持ってきてくれる福田。

「…なにこのラグ、凄いやわらか…ふかふか…横になったら寝れちゃいそうな。あめりも喜びそう」

「あめりちゃん!話に聞くリナちんの妹ちゃんだにゃあ?遊びに連れてきてくれたらうれしいにぃ~」

そういって福田とリナはきゃっきゃとしていた。それが落ち着くのを待ち、頷きながら言う。

「…それじゃぼちぼち勉強もするか」


それから俺たちはテーブルに教科書やノートを机に並べて勉強を始めた。

「ワケワカンナイヨー!」

そう言って唸るリナ。

「ん、どこだ?」

リナが悩んでいたのは丁度昨日仁奈さんに教えてもらったところだった。リナも同じところで躓いていたのか、と驚く。仁奈さんに教えてもらったようにリナに説明すると、リナも「あっ!そう言う事!!」と声を上げて理解していた。

「九郎の教え方すっごくわかりやすかった!ありがとう九郎」

「いや、俺も人に教えてもらって覚えたところだからたまたま説明覚えていただけだよ」

「人から教えてもらったって言っても自分できちんと理解してないと人に説明するのってできないよ。やっぱり九郎って凄いね!」

そんなリナの評価がこそばゆい。

「ねー瑠璃ぃ、ここどうやったら解けるの?」

「ここはこの数字が…バーッてそこにドンッ!するにゃ」

「ドンッて漫画の背景じゃないんだからぁ…」

そう言って涙目になっている藤堂の方もみに行く。

「あぁ、それはこっちの式を使って解くんだよ。ほら、ここ。」

そう言ってテキスト中の数式や数字を指さしながらゆっくり説明していく。

「ふむ?…ふむふむ。なんかわかるかも」

藤堂もきちんと説明したらわかるので地の頭は良さそうな気がする。…福田の説明がエクストリーム過ぎるのもあるだろうが。

「ふにゃあ…人に教えるのって難しいにぃ。Qちゃん凄いにゃあ」

しょんぼりしている福田。いや、多分福田が一番すごいと思う。

そんな風に勉強を教え合いながら…というかリナと藤堂の2人の勉強をみながら俺も勉強を進める。

中学の頃は佳織1人で手いっぱいだったが、リナと藤堂の2人をみているのに、なぜか随分とスムーズに勉強が進んだ。普段の勉強が活きたかな?

「あ、それはここのにゃあがここにくるにぃ」

「おっとそうかなるほど。ここをこうすれば解ける!ありがとな福田」

「にひひ~」

俺が悩んでいると福田が説明してくれるが、なんとなくわかる。福田にお礼を言うと、福田も嬉しそうにしていた。なんだかんだで今日も勉強は随分捗ったと思う。

そんな風に勉強に夢中になっていると、外はいつのまにか雨が降り出し、そして瞬く間に土砂降りになった。

「うわっ。外ヤッバ」

リナが外を見て驚いている。

「にゃあ。皆泊まっていってもいいにぃ。女子の着替えなら何着かあるにぃ。Qちゃんの服は洗濯して乾燥機にいれれば明日の朝には着て行けるにぃ」

と提案してくる福田だが、男の俺が泊まるのは問題があると思うので俺は帰る事にする。リナも、家族が待ってるので帰るという。藤堂は、親に連絡してそのまま福田の家に泊まっていくようだった。

エントランスまで送ってもらいつつ、俺とリナは傘を借りて並んで帰る事にした。


「あちゃ~っ、すっごい雨」

「そうだな。…っとリナ!」

リナを道の内側をあるかせて俺は道路側を歩いていたが、それでもトラックのような大型車が道を走ると溜まった水がこちらに向かって飛んでくる。

「わっ、九郎ずぶ濡れじゃない」

「へくしっ!…いや、お前が無事でよかったよ」

「何言ってんのよもう…風邪ひいちゃうわよ?」

「ハハハ、何とかは風邪をひかないっていうしな」

そんな事を言いながらリナの家まで並んで歩いていた。

ただ雨脚が強くどうしてもお互いの身体が濡れてしまう。…これは…いけない…と鞄からタオルを出してリナに渡す。

「ちょっと匂うかも知れないけどこれ。びしょびしょだぞ」

「ありがと…ってあんたこそ」

そう言ってタオルを突き返すが、目をそらしながらリナの胸元を指さす。

「…透けてる。それ」

リナの胸元、黒くて大人なブラが―――雨に濡れてスッケスケだったのだ。

「ウボァー!」

慌てて胸元を隠すリナ。

「その…すまん。悪気はない」

「わ、わかってる。…は、ははっ、雨だししょうがないよね」

そう言って渡されたタオルを首からかけて胸元を隠しながら、なんとも気まずい雰囲気でリナを家まで送って行ったのだ。リナの家に着くと、バスタオルを持ってきてくれると言われたが走って10分もかからないので俺は申し出を気持ちだけいただいて、ダッシュで家に帰った。


そして次の日、俺は熱を出した。側頭部が…目の奥が…額が痛い。なんてこったパンナコッタ。

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