第6話 同中ギャルは純情ガール
というわけで毎朝教会での鍛錬が日課に加わることになった。
はじめは股割からなんていわれて開脚からはじまったけど、元々身体は柔らかかったので開脚はあっさりクリアした。
それから構え方や歩き方といった基本的なところからはじまって、30分程身体を動かしてから帰ってシャワーを浴びてから再度でかける、というのが朝のサイクルだ。
そこからGW中は毎日バイトにいって、帰ってきたら勉強したりしてた。
ジョギングしたり、朝教会で習った動きもして体力づくりや体を鍛えることもする。
勿論、仁奈さんから言われたように肌の手入れもかかさず、ついでにシャンプーやボディソープも仁奈さんに渡されたものに変えたりもした。体臭対策ということだけどこういったものも、きちんと使っていけば色々かわるんだろうなと思いながら毎日しっかり体を洗っている。
仁奈さんと言えば、結局仁奈さんに押し切られる形で中間テストが終わった後にデートに行くことになった…ので、デートプラン考えないとなぁ。
仁奈さんの好みとかもう少し聞かないといけない。やる事が…やる事が多い!
あ、バイトはGW後も続けないかと言われたので2つ返事で受けた。主に平日の夕方以降や休日になるけれど、雅東さんの所でバイトするのは色々と勉強になるので俺にとっても願ってもない申し出だった。バイト代も入るし一石二鳥ってね。
そういえばGW最終日の今日、同じ中学から同じ高校に進学した友達達のグループメッセージで同じ中学で有名だった面白いイケメン御曹司が女をかけて勝負をしたとかなんとか。俺はバイトだったから観に行けなかったけど大層盛り上がったって話だ。あの学校ちょくちょくキャラが濃い連中が変な事やってるみたいだけど俺にはあまり関係ないな…。
他にも同じ中学から同じ高校に進学した奴は何人かいるけど、同じクラスに一人いた。
『大垣リナ』。
金髪で、毛先に軽くゆるふわパーマのかかった髪を結んで、首の後ろから前へ垂らしている“ギャル”さんだ。中学の時から身だしなみの事で生活指導の教師に絡まれていたりしたんだよなぁ。
…見た目は派手だがタンクはガラ空きだぞ…じゃなかった、見た目は派手だけど話す限り筋が通っててそんな不良っぽさはなかったけどね。何か用事があれば喋る程度には話した事はある位でそこまで親しかったわけじゃないが。
美人だったし、パツンとテントを張ったお山…もとい胸もとを開けてたので、鼻の下を伸ばしてる男子が多かったのは覚えてる。
何でこんな風に大垣リナの事を思い出してるかと言うと――――
「なんだよお前ら、離せよ!」
ベースボールキャップにロング丈のパーカーにホットパンツにスニーカー。
私服姿だが大垣リナに間違いない。そんな大垣が、3人の男に絡まれている。
バイトが終わった後、買いたい文房具があったので駅前で買い物を済ませた帰り道にそんな所に出くわしたのだ。
大通りから少し離れた、寂れた道。
浅黒い肌の上下スウェットヤンキー、グラサンにアロハのヤンキー、Tシャツにハーフパンツのヤンキーが大垣を囲んでいた。うーん…ヤンキー!!
「暴れんなよ…暴れんなよ…」
「こいつ可愛いから絶対よしくん気に入るぜ!!」
「いいからおめーは黙って股開けばいいんだよこれ合意だからな合意」
…明らかに迷惑ヤンキーの強引なナンパだ、放っておくわけにもいかない。
「おーい、どうしたマイハニー!」
そうやって大垣に声をかけると、大垣が顔を上げてこちらを見た。マイハニーなんて叫ぶのはこっぱずかしかったが、名前をわざわざ呼んでヤンキー達に足跡を残すのもどうかと思ったからだ。
「アンタ、…判官?」
大垣は俺の名前を呼ぶが、まぁ俺は素性がばれても困らないからいいか。それよりも。
―――怯えていたのだろうか、目尻に透明な滴が見える。
…見た目ギャルっていっても女の子だもんな。そう思うと、このヤンキー達にふつふつと怒りが沸き上がる。
「アンタら、俺のツレに何か用か?」
そう言いながら真っすぐヤンキー3人の所に歩いていく。対してリーダー格っぽいアロハヤンキーが俺に向かって歩いてきた。
「嫌がってるだろ、その子を掴んでる手を離せ」
「あぁ?…ぬらべっちゃ!!」
――――そんな怒声?をあげながら問答無用で殴ってきた。
「判官!」
大垣が悲鳴を上げる。
「ガキがイキってんじゃねーぞダボがぁ!!」
俺の胸倉を掴んでアロハヤンキーが大声を上げている。
「―――股を開け、だったか?」
アロハヤンキーを睨み返しながらそう返す。
「アァ?…こひゅっ」
疑問を返そうとしたアロハヤンキーの意識を刈り取る。ほぼ垂直に、足を蹴りあげアロハヤンキーの顎をうちぬいたのだ。
「ご希望通り股割りだ。」
ぐらり、と崩れ落ちるアロハヤンキー。
無防備に胸倉掴んでくれてたから綺麗に決まったけど正直ラッキーボールだったので、ハッタリだ。別に喧嘩強いわけじゃない…というか喧嘩するような柄じゃないしな。でもこういう事があったときのために、教会で身体を鍛えるのは継続しよう、頑張ろう、そうしよう。
「なんだテメェ…!?」
「やっちまえ!」
残る2人のヤンキーが向かって来たのでさくさくと足払いをして転倒させてやる。
「逃げるぞ、ほら」
そう言って駆け出し、大垣の手を掴んで走る。
「ちょ、判官?!」
待て、と追いかけてくる気配を感じるが残念、逃げ足は俺達の方が速かった。
「ここまでくれば大丈夫だろ」
住宅街に入ってヤンキー達は完全に振り切ったので、そのまま公園に入って、一息つくことにした。
「ハァ…ハァ…判官、アンタ、足、速すぎ…ハァ…。散歩してたらあいつらに、絡まれて…、それで私…」
そういいながら身体を曲げて両膝に手を当てて、肩で息をしている大垣。
「まぁ助かって何より。逃げる時は全力に限るってね…ほい、水」
そう言って鞄からペットボトルの水を渡すと、ゴクゴクと飲む大垣。
「…プハァ、水が美味し。…助けてくれてありがとね、判官」
「なぁに、袖擦り合うもなんとかの縁ってな」
「何それ、使い方違くない?」
あはは、と笑ったところで
「あ!!」
と何か思い立ち、急に耳まで顔を真っ赤にする大垣。
「どうした、怪我か?大丈夫か!?」
そう言うと、ふわわああああ~~~~と何だか可愛らしい声を上げる大垣。
「…間接キスじゃん!!!」
そういって帽子の唾を左右の手で掴みながら座り込む大垣。あー…そういえばそうだなぁ…。
仁奈さんの影響か、そう言う事だいぶん麻痺してきてた…。仁奈さんお店のまかないご飯の時に当たり前のように俺にあーんをねだるしあーんをしてくるんだってばよ。
「しまった…悪い」
そう言って大垣に謝るも、耳までまっかにしたまま座り込んでいた大垣は、
「う~…いい。…助けてもらったし」
とボソボソと呟く。そんな大垣の様子がなんだかおかしくて、思わず笑みがこぼれた。
「…はは、あはははっ」
「何笑ってるし」
「いや、なんか…可愛いなって」
何の気なしにいった言葉に、大垣が顔をあげる。
「か、かわっ?!何言ってるし…!」
立ち上がってむくれる大垣もなんだか普段の印象と違って面白かった。
「いや、大垣って学校だとあまり人を寄せ付けないというか、ギャル…っぽいのにあまり群れたりしなかっただろ?だからなにか意外でさ」
そんな俺の言葉に、わずかに視線を下に落とした後、顔をあげる大垣。きゅっ、と唇を結んでいる。
「――判官も、やっぱり私をギャルだって思ってる?」
軽口で返すような雰囲気ではない様子だったので、正直に答える。
「見た目ギャルっぽいとは思ってた。気分を害したなら、すまん」
そう言って頭をさげようとするが、ぎゅう、と俺の額に手を当てて止められた。
「ん、いいよ。本当の事だしね。…私さ、ハーフなんだ」
…それは初めて知ったな。
「そうなのか。知らなかった」
「うん。わざわざ学校でもそんな話しないしね。だからこの髪も地毛。とりま束ねた
りして身なりは綺麗にしてるつもりなんだけどね」
「そうか…すまない、誤解していた」
「言ってなかったのは私だし…わかってくれたから、いい」
そういって優しく笑う大垣に、ドキッとする。
「…でも髪はそうなんだけどその…大垣、露出と言うか、そういうのがあるんじゃないか?」
言葉を選びながら言おうとする。俺が何を言わんとしていたのか理解した大垣は、
「あ~っ…それは…」とまた顔を赤くして小声で言う。
「―――学校指定のシャツのサイズ、私には小さくて」
何処が?!なんて無粋な事は言わない。
「あぁ…成程…」
一番大きいサイズ来てもおさまりきらないからボタン外していたのね。で、シャツのサイズが大きいから着崩しているように見える、と。
変な事言わせて済まない、とこれは本当に申し訳ない気持ちで頭を下げた。あはは…と大垣も所在なさげに胸の前を腕で押さえつつ、乾いた笑い声をあげた。
「あ、ごめん判官。助けてもらったのは私だけど―――彼女いるのに、付き合わせちゃって」
ハッ、と思い出したようにそう言い、途端に申し訳なさそうな顔をする大垣。同じ中学だったし3年の時も同じクラスだった大垣は当然、俺と佳織の事を知っている。…別れたことを言うか言わまいか悩んだが、わざわざ言う事ではないけど隠すような事でもないしなぁ…。
「あー、その事なんだが…佳織…眞知田とは、別れたんだ」
そんな俺の言葉に、鳩が豆鉄砲喰らったような表情をしてポカーンとする大垣。
「…はぁ~~~~~~~~~~~~~~?!あんなにラブラブだったあんたたちが別れたぁ?!マジで言ってんのそれ!?」
「マジだよ」
大声をあげて驚く大垣。
中学までの俺と佳織を知ってたらそういう反応になるよなぁ…。でも残念振られたんだ。
「ウッソ!私あんたたちは絶対そのまま高校も大学も同じペースで付き合い続けて結婚まで行くと思ってたわ」
「エヴィン!…ってちがうわ、まぁ…色々あったんだよ」
そんな俺の様子に、思う所があったのか顎に手を当てて考える様子を見せる大垣。
「眞知田、高校デビューして雰囲気変わってたもんね。…判官がいるはずなのに他の男子の話で盛り上がってたし、妙だなとは思ってたけど」
そう言いながらも得心がいったという様子でなんともいえない表情を浮かべる大垣。
「…そっか。でも判官なら、いい彼女ができるよ」
「大垣みたいな?」
ははは、と話の流れで軽口を言ったら大垣は顔を赤くして顔をそらし、
「むぅ」
と困った様子をしている。
―――ンンンンン、拙僧変な事を言いましたかな???
そうして顔をそらした大垣が、
「あっ」
という声を上げて何かを見つけた。
大垣の視線の先にあったのは――――腕を組みながら家に入っていくヒョロい男と佳織だった。
こちらには気づいておらず、腰や胸元に回されたヒョロイ男の手を受け入れながら、上機嫌な様子で扉の向こうに消えた。
「…眞知田じゃん」
今見た目の前の光景に、信じられないものを見たという顔をする大垣。
「あそこ、眞知田の家じゃないよね」
「ああ。佳織の家は俺の隣で、ここから東にいったところだ」
――――他の男の家に入っていく、佳織の姿。
その状況を理解した大垣は、自分の事のように悲しい顔をしている。
「そっか。…辛かったね、判官」
そういって、ぽふっと俺の胸に顔を埋めてくる。
「…ありがとな、大垣」
「―――いこっ。私の家、もう少し先だから家まで送って?」
そういって、俺の手を引く大垣。
俺の手よりも随分小さいが大垣の手はほんのりあたたかい。その温度にやさしさを感じて、心が落ち着くのを感じた。
「あ、それとリナって呼んで?私も九郎って呼ぶからさ」
そう言ってにこっと笑う大垣…じゃなかったリナにドキッとさせられたりもしつつ、
俺はリナを家に送ってから家に帰ることになった。
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